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if1:記憶があったなら

2021.02.11 06:00

グリダニアの一角にあるベンチに座っている白い女性。

その白さ故に最近は‘幽霊ではないか’という噂ができてしまったほどだ。

白い服、白い髪に隠れる桃色のメッシュ、時々目を開けて何かを見ているその瞳の色は黄金色で美しい。

そんな異様に思わせる女性を周りの人々は魅了されるも声をかけない。

女性も気にしていない様子で、白金色の弓を大事に大事に抱えて時を過ごす。

“…………あ、今日からヴァレンティオンデーだったかな”

そう呟くと彼女は立ち、どこかへ行ってしまった。

——

“そんな不思議な子が?”

“あぁ、姿を見た人達がどうも噂立てていてな。

弓を持っているため弓術士ギルドに問いかけたところ、冒険者として顔を出してる人物ではあるらしい”

“それなら問題ないのでは?”

“まぁな。

ただ噂ができていることをよく思わない連中もいるのも事実だ。的になってる本人もいい気はしないだろう。

最近は槍術士ギルド付近の湖で見かけたと言われている。聞き込みに行ってもらっても構わないか?フ・アリス・ティア”

“分かりました!”

明るい声の男性、フ・アリス・ティアは調査をしに女性の出現場所に向かった。

彼自身もグリダニアに出入りしているため、軽く噂は聞いていた。

‘真っ白すぎて幽霊にしか見えない’だの‘話しかけていいように見えない’だの、色々。

噂としては聞いていたものの、何だかんだで見かけたことはなかった。

それ故に気にもしなかったのだが…。

“ん?もしかしてあの子か?”

弓術士ギルドの者たちが冒険者として顔を出してる人物と言っている以上、まず幽霊なわけがない。

見つけることは簡単だった。

“……寝てる?”

——

“………にゅ…はっ!寝てた!”

“お、おはようございます…”

“おお、おはよーございみゃす!”

“ここ、風が気持ちいいですもんね”

“そうですねー。

…ん?貴方は?”

“あ、失礼しました!急に話しかけて…。

俺はフ・アリス・ティア。調査で貴女に会いに来ました”

“ヘラ・リガンです。

もしかして、噂のことですか?”

“はい。その…”

どう切り出していいのか分からなくなり、もにょもにょと口を動かすアリス。

そんな彼を見ながら、ヘラと名乗った女性はキョトンとしてはふにゃふにゃと柔らかい雰囲気で待っている。

掴みにくい人だ。

“僕ならなんの不都合もないですよ?”

“え、でも…”

“確かに幽霊だなんて噂になってると困ってしまうけど、僕は僕だから。

僕が僕をヒトだと思っている限りはそんな噂へっちゃらです”

“そう言うなら…”

何ともまぁ、でかい器の人だ。

話している本人がそもそも気にしていなさそうだし…。

“僕の一族が肌も髪も真っ白なんですよ”

?

“だから純血児の僕も真っ白。

…意味が分かると安心できるかなって”

“あぁそういう”

“あ、服は好みです!はい!

これ可愛いでしょう?”

そう言いながら立ち上がりくるくる踊る。

純白のワンピースがヒラヒラと舞い、まるで蝶々を見ているかのようだ。

“そういえば、アリスさんは冒険者なんですか?”

“い、一応は。

ヘラさんも冒険者と聞きましたが”

“うん、僕も冒険者です。

弓術士ギルドに入門して、今は吟遊詩人として各地に出ていますよ”

“へぇー…”

“戦歌は各地にあるから、それを探していたらいつの間にかね”

“戦歌を探しに?”

“そうそう。

でも旅の途中で禁句になった戦歌もあるんだ。

そういうのを回収して、双蛇党の戦歌部隊に預けてもらうこともありますよ”

“そんなことも…”

“双蛇党に所属しているならサンソン大牙士に聞いてみて、答えてくれると思いますよ”

“あれ、俺が双蛇党に所属していること言いましたっけ?”

“調査でって言っていたから、そうじゃないのかなーって”

“鋭い考察…”

それから暫く話し込んだ。

彼女の話は面白く、聞き飽きることはなかった。

気づけば空は暗くなり始めたが、夜はムーンキーパーの時間でもあり彼女のテンションがどんどん上がっていく。

夜の彼女はよりいっそう白く、綺麗に見えた。

“あぁ、もうこんな時間だったんですね!”

“そ、そうですね!

今日はお開きにしますか”

“そうしましょー。

アリスさん、よければ連絡先を交換しません?”

“え、いいんですか!?”

“うん、うん!

話していて楽しかったし!

それじゃぁこれが僕の番号です”

“ありがとうございます!

これ、俺の番号です!”

“受け取れました!

……んしょ。それじゃぁ僕はここからラベンダーベッドの方に帰りますね”

“今日はありがとうございました、一応調査で来たので報告だけさせていただきます”

“うん。

あ、あと…お互いに敬語はなしにできるといい、ね”

“はい!…あ、うん!”

“じゃぁ、またね!”

“また!”

そう言って彼女は白金の弓を抱えてラベンダーベッドの方へ向かった。

……白金の武器?

あれって確か…超絶の追体験の末に勝ち得る武器、だったような……。

いや、まさか…。

——

それから数日が経ち、更に気になったことがあるため今日はラベンダーベッドの居住区を確認していた。

ヘラの帰った先が冒険者居住区ということは、そこに住んでる可能性があるのだ。

“あ、これか。

2区の28番地”

その見つけた家が、まさか最大と言われているLサイズのハウジングなんて思わないだろう。

彼女の行動範囲や活動内容が色々気になってきたアリスだった。