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臍帯とカフェイン

「ギジン屋の門を叩いて」⑥ホットミルクと失楽園(2:1:0)

2021.02.12 06:51

「リビングデッド」:死臭を放つ。始終を放つ。

寺門 眞門:店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。

猫宮 織部:助手。女性。家事全般が得意です。

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 : 「ギジン屋の門を叩いて ホットミルクと失楽園(しつらくえん)」

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寺門 眞門:……なんでお前がここにいる、「リビングデッド」。

「リビングデッド」:お邪魔しているよ、寺門眞門。

猫宮 織部:あは、あはは……(困ったように)

寺門 眞門:猫宮さんから離れろ、この腐れ外道。

猫宮 織部:だ、旦那様。違うんです。

寺門 眞門:えっ?

猫宮 織部:助けて、いただいたんです。

寺門 眞門:なんだって?

「リビングデッド」:一ミリも触れちゃいないよ、なあ?猫宮織部。

猫宮 織部:は、はい。一ミリも触れられてないです。

寺門 眞門:……なにが目的だ?腐れ外道。

「リビングデッド」:猫宮織部の入れるホットミルクが、どれほど美味しいのか。が気になりましてね。

寺門 眞門:なっ……最高においしいに決まっているだろ!?

猫宮 織部:旦那様ったら。

「リビングデッド」:いや確かに。ふんわりと香るこの甘い香りは、砂糖ではないね。

猫宮 織部:あ、はい。蜂蜜を入れております。

「リビングデッド」:蜂蜜!いいね、この死んだ身体に染み渡るようだ。

寺門 眞門:……本当に、敵意がないのか?今日は。

「リビングデッド」:なんて事を言うんだ寺門眞門。私はそもそも敵意なんて抱いちゃいないよ。

寺門 眞門:し、しかし

「リビングデッド」:私はただ、猫宮織部が欲しかっただけさ。

「リビングデッド」:言ったろ?売ってくれと。まあ。振られてしまったのなら、仕方ないがね。

寺門 眞門:ぐ、ぐぬぬ……まあ、確かに、そうだが……。

「リビングデッド」:まあ、しかし。「未来」の事はわからないがね。

寺門 眞門:……貴様!

猫宮 織部:お、落ち着いてください、旦那様。

猫宮 織部:今日は本当に、お買い物の時に助けていただいたんです。

寺門 眞門:買い物の時に?

「リビングデッド」:なあに、たまたまですよ。

寺門 眞門:何があったんだい?猫宮さん。

猫宮 織部:あ、はい。商店街のお肉屋さんで買い物をしてた時なんですけど……

寺門 眞門:うん?

猫宮 織部:先野橋さんって、覚えてますか?旦那様。

寺門 眞門:ああ、あの「文学奴隷」か。

「リビングデッド」:文学奴隷、言うねえ。

寺門 眞門:お前は黙ってろ。

「リビングデッド」:はいはい。

猫宮 織部:その先野橋さんが、すごい形相で迫ってきて……。

寺門 眞門:……あの、もやしがか?

猫宮 織部:……はい。

猫宮 織部:「お前たちのせいだ!」とすごい剣幕で。

「リビングデッド」:今にも首を絞めそうな勢いだったんですよ。ね?猫宮織部。

猫宮 織部:は、はい……

寺門 眞門:なるほど……。そこを

「リビングデッド」:ええ、たまたま通りかかったのでね。

「リビングデッド」:軽く一ひねりしておきました。

寺門 眞門:……そうだったのか。

猫宮 織部:先野橋さんには、申し訳なかったですが……本当に、助かりました。

「リビングデッド」:いやいや。人として当たり前の事をしたまでだよ。

「リビングデッド」:まあ、私、もう人じゃないけれど。

猫宮 織部:あ、あはは。

猫宮 織部:えっと、それで、せめてものお礼ということでお茶でもどうですか…?と。

「リビングデッド」:これはデートのお誘いだ。寺門眞門、猫宮織部が私の物になる日も近い。

寺門 眞門:猫宮さん、1番の棚のやつもってきて。

猫宮 織部:だ、ダメですよ!!今日は本当に、助けていただいたんですから!

寺門 眞門:くっ……不本意!!!実に不本意だが!!!

寺門 眞門:「私の」「大切な」猫宮さんを助けてくれてどうもありがとうございました早くホットミルク飲んでさっさとお帰りくださいませお客様ぁ!

「リビングデッド」:ははは、私こう見えて、猫舌でしてね。まあ、ゆっくり飲ませてくださいよ。寺門眞門。

寺門 眞門:……ごゆっくりどうぞ。

猫宮 織部:……あの、旦那様。

寺門 眞門:ん?なんだい?猫宮さん。

猫宮 織部:先野橋さんの事、なんですけど……。

寺門 眞門:ああ、許しがたいな。あのもやしめ。

寺門 眞門:華奢な猫宮さんにつかみかかるとは。

猫宮 織部:一体、どうしてしまったのでしょう?やはりこの間の事を根に持たれていて……。

寺門 眞門:だったとしても、猫宮さんに詰め寄るのはお門違いだろう?

寺門 眞門:奴をこき下ろしたのは私だ。猫宮さんではない。

「リビングデッド」:それに、そもそも彼、逆に燃えてましたよ。

寺門 眞門:は?

猫宮 織部:え、ご存じなんですか?先野橋さんのこと。

「リビングデッド」:ええ。彼に聞きましたから。猫宮織部、君のことを。

猫宮 織部:え?

寺門 眞門:どういうことだ?腐れ外道

「リビングデッド」:そろそろその呼び名辞めてもらえませんかねえ。

寺門 眞門:腐れ外道は腐れ外道だろう。

「リビングデッド」:まあ、いいでしょう。

「リビングデッド」:彼がね、この店から大声をあげながら出てきたところを捕まえて、聞いたんですよ。

猫宮 織部:私の、ことを?

「リビングデッド」:ええ。

寺門 眞門:あいつが漏らしてたのか……。

「リビングデッド」:まあ、名前だけ、ね。そもそも私が猫宮織部を見かけたのは商店街で、ですから。

寺門 眞門:……なるほど。

「リビングデッド」:彼と道すがら、ほんの少し話をしましたけどね。

「リビングデッド」:寺門眞門、あなたを憎んではいたものの、それは「創作欲」というものに

「リビングデッド」:昇華しているように、私は感じましたよ。

猫宮 織部:な、ならなんで……。

寺門 眞門:……「リビングデッド」、今日お前がここに来たのはたまたまではないだろう?

猫宮 織部:え?

「リビングデッド」:そうですねえ。猫宮織部を助けたのは「たまたま」です。

猫宮 織部:どういうことですか?

寺門 眞門:……なんの用件だ?「リビングデッド」。

「リビングデッド」:私も「死者」という特異な存在ではある。

「リビングデッド」:だが、寺門眞門、君は「悪魔」というカテゴリの中でもかなり異質な存在だ。

寺門 眞門:なんだ、いきなり。

「リビングデッド」:「富の悪魔マモン」「堕天使マモン」「富の悪霊の化身」

「リビングデッド」:様々な呼ばれ方をしている君は、それだけ多く「人間」というものに

「リビングデッド」:長く触れ、様々な時代を渡り歩いてきたという証拠だ。

猫宮 織部:……。

「リビングデッド」:時には人の魂を天秤にかけ、時には現実を知らしめ、善や悪で捕らわれない

「リビングデッド」:『失楽園』という天使の園(その)に居た時から君は、下界の富や名声に目が移り

「リビングデッド」:異端児とされていたらしいじゃないか。

猫宮 織部:お詳しいんですね…?

「リビングデッド」:ウィキペディアですーぐ出てくるさ。

「リビングデッド」:そして、寺門眞門。君は地獄にすら落ちた事がある。

寺門 眞門:……そのウィキペディアという代物は恐ろしいな?神様か何かか。

猫宮 織部:ウィキの情報は鵜呑みにしちゃいけないですけどねっ。

寺門 眞門:なるほど、万能ではないと。

「リビングデッド」:ええ、それは確かに。でも、合っているでしょう?ここまでは。

寺門 眞門:……ああ、まさしくそうだ。その通りだ。

「リビングデッド」:でも貴方、その地獄でとんでもないことしてましたね。

猫宮 織部:とんでもないこと……一体何をされたんですか!旦那様!

寺門 眞門:……んかい。

猫宮 織部:え?

寺門 眞門:……金塊を、掘り当ててた。

猫宮 織部:き、きんかい!?地獄で!?

寺門 眞門:……ああ。

「リビングデッド」:面白いですよね、本当。地獄に落とされても先を見据えていた。

「リビングデッド」:そのあと貴方は、人間界への永住を決めた、そうですよね。

寺門 眞門:…ああ、その通りだ。

「リビングデッド」:地獄に落ちたほかの堕天使を指揮しながら、己のための金塊を掘り

「リビングデッド」:地上に出てからは、人間たちに「金銀」の採り方を教えた。

寺門 眞門:ああ、そうしなければ自身の金の価値も高くならんからな。

「リビングデッド」:さすが、富の悪魔。

寺門 眞門:何が言いたいんだ?さっきから。私の素性を明らかにさせるために来たのか?お前は。

「リビングデッド」:あなた、あの魔界の王「ベルゼブブ」と同一視されてた事、ありますよね。

寺門 眞門:なっ……。

猫宮 織部:ベルゼブブって、あの、蠅(はえ)の姿の悪魔の、あのベルゼブブですか!?

「リビングデッド」:そう、そのベルゼブブですよ、猫宮織部。

猫宮 織部:なんかこう、RPGゲームとかだとはちゃめちゃに強い悪魔じゃないですか!

猫宮 織部:ぎしゃー!ぎしゃー!って感じで!

「リビングデッド」:その、ベルゼブブですよ。

寺門 眞門:まてまてまて。ぎしゃー!は無いぞ、ぎしゃー!は。

猫宮 織部:失敬。

「リビングデッド」:あなた「本当に」「ベルゼブブ」なんですか?寺門眞門。

寺門 眞門:……そう呼ばれていた時期も、あったよ。

「リビングデッド」:ほんとうですかぁ?(じっとりと)

寺門 眞門:……何が言いたい?

「リビングデッド」:「バアル・ゼブブ」

寺門 眞門:なっ……。

猫宮 織部:ばある・ぜぶぶ??

「リビングデッド」:聞きなじみ、ないですよね、猫宮織部。

猫宮 織部:はい、初耳です。

「リビングデッド」:ベルゼブブの意味はですね、先ほども出ていた通り「蠅の王」や「糞の王」

「リビングデッド」:地獄煉獄にふさわしい、忌み名です。

「リビングデッド」:しかし、この「バアル・ゼブブ」と呼ばれる者。

「リビングデッド」:これは元々、豊穣をつかさどる「雨」の神様なのですよ。

「リビングデッド」:ねえ?寺門眞門。

寺門 眞門:……何も言うことはない。

「リビングデッド」:沈黙は肯定なんですよ?寺門眞門。

寺門 眞門:いちいち癪に障るなぁ?お前は。

猫宮 織部:あの……いまいち話の流れがチンプンカンプンニコニコプンなのですが……。

「リビングデッド」:すまないね、猫宮織部。まあ、要するに、寺門眞門。

「リビングデッド」:君はベルゼブブとよく同一視されていたが、それは間違い。

「リビングデッド」:金塊やら富やらを人間たちに与えていった結果「富と豊穣の神」として祭られた

「リビングデッド」:「豊穣の神・バアル」それが、君のもう一つの名前なのだろう?

寺門 眞門:……はあ、はいはい。そうだよ。その通り。おめでとー。よくわかりましたねー。

猫宮 織部:旦那様が……悪魔で……神……っ

「リビングデッド」:この「バアル」という言葉の意味は「気高きもの」または「高き館の主」という意味。

「リビングデッド」:昔から、おうちに籠るのが好きだったんですよね、寺門眞門。

猫宮 織部:け、気高きもの…!!!だ、旦那様…い、いや、神様……っ!?

寺門 眞門:やめてくれ、猫宮さん。違うんだ。

寺門 眞門:神なんてものは、この世界に五万といる。それは何も本当に神格化されたものではなく

寺門 眞門:何かを与えた瞬間に、そういった扱いをされることだってある。

寺門 眞門:私は別に、自分が神様だなんて思った事は一度もない。ああ、もう、何がしたいんだ、「リビングデッド」。

「リビングデッド」:しかし、「ベルゼブブ」は存在する。

猫宮 織部:えっ

「リビングデッド」:そうですよね、「バアル・ゼブブ」。

寺門 眞門:その名はやめろ。私は「寺門眞門」だ。

「リビングデッド」:それは失敬。

寺門 眞門:真似するな。

猫宮 織部:どういうことですか?だって、ベルゼブブはバアル・ゼブブで、旦那様がバアルで?え?

寺門 眞門:……。

「リビングデッド」:歴史というものは混合するのですよ。

猫宮 織部:混合……。

「リビングデッド」:違いますか?寺門眞門。

寺門 眞門:お前がその話を持ち出してくるということは

「リビングデッド」:ええ、おそらく、ですが。

猫宮 織部:えっ?えっ?

寺門 眞門:来てるんだな?「ベルゼブブ」が。

「リビングデッド」:はい。可能性は高いと思いますよ。

「リビングデッド」:「今も煉獄から逃れられない。聖地を巡礼して欲しい」

寺門 眞門:……「ランの奇跡」か。

猫宮 織部:ランのきせき……?

寺門 眞門:この現世に、一度だけ「ベルゼブブ」が姿を現したことがあったんだ。

猫宮 織部:は、蠅の姿で……っ!?

寺門 眞門:いいや、あれはあくまでモチーフ。実際は私となんら変わりない人の姿さ。

寺門 眞門:まあ、その「ランの奇跡」の時は、罪なき人間の身体を借りたようだがね。

「リビングデッド」:ランの奇跡では、最終的に15万人ほどの人間が、その被害を被ったとされているでしょう?

寺門 眞門:……ああ。

猫宮 織部:被害って……被害ってなんですか?

寺門 眞門:簡単に言えば、ベルゼブブの呪いだよ。

猫宮 織部:呪い……。

寺門 眞門:「すべての罪を、暴露する」という呪いさ。

猫宮 織部:すべての罪を……?

「リビングデッド」:人は誰しも言えない秘密を持っていますよね、それこそ小さなものから大きなものまで。

寺門 眞門:ああ、そしてその罪の秘密を守ることで、保たれているのがこの現世でもある。

猫宮 織部:罪の秘密。

「リビングデッド」:「ベルゼブブ」とはあの「七つの大罪」でいうところの「暴食」の位置にいる悪魔ですよね、寺門眞門。

寺門 眞門:ああ、その通りだ。奴自身、その「暴露された」感情を食って、でかくなる。名の通り暴食だ。

猫宮 織部:全員が、本心を話すようになるって、ことですか……?

寺門 眞門:極端に言えばそういうことだ。

猫宮 織部:でもそれって、ウソをつけないということですよね……?必ずしも悪いことではないのでは?

「リビングデッド」:ああ、猫宮織部。猫宮織部、かわいい猫宮織部。その膨らみかけのちょうどいい胸を

「リビングデッド」:クチに含んで、乳房を嘗め回したい。私の命を蘇らせながら、肉体を再生させながら

「リビングデッド」:猫宮織部の中に入り込んだ私を優しく優しく包み込み、しごき、最上なる愛で満たしてほしい。

猫宮 織部:ぴえーーーーーーーーーん!!!なんですか!!気持ち悪い!!!気持ち悪いです!!!

「リビングデッド」:ウソなく、本心が駄々洩れになるとはこういう事ですよ、猫宮織部。

寺門 眞門:実演ありがとう、腐れ外道。猫宮さん、念のため数歩下がりなさい。

猫宮 織部:か、かしこまりのしょうのすけ……。

寺門 眞門:すべて、正しい、清い感情しかないのであれば、そういった世界も悪くはないだろう。

寺門 眞門:しかし、「隠す」ことで循環できるものもあるからね、ことこの現世では。

猫宮 織部:ど、どうしたらいいんですか?そ、そんなの。

「リビングデッド」:そう、そこですよ、猫宮織部。なんとかなりませんか?寺門眞門。

寺門 眞門:……なんとか、ねえ。

寺門 眞門:私は聖人でも神でもないよ。

「リビングデッド」:しかし、貴方も「七つの大罪」に位置付けされる悪魔だ。

寺門 眞門:……そのウィキペディアというものはすごいね?

猫宮 織部:え、ええ。ご、旦那様ってそんなにすごい悪魔なんですか?

寺門 眞門:その驚き方はいささか傷つくよ、猫宮さん…。

猫宮 織部:し、失敬。

「リビングデッド」:強欲、の位置にいる大悪魔、マモン。それも、貴方のもう一つの姿でしょう?

寺門 眞門:……その通りだ。

寺門 眞門:だが、俺にはもう何もする事はできないさ。

「リビングデッド」:……なぜ?ベルゼブブが「暴食」の呪いを使えるように、貴方にもあるのではないですか?

「リビングデッド」:「強欲」の呪いが。

寺門 眞門:私は、「マモン」であると同時に、人々から「バアル」という名前を付けられてしまった。

寺門 眞門:猫宮さん、バアルとは何の神様だったっけ?

猫宮 織部:えっ、たしか、「豊穣」の神様だ、って、さっき。

寺門 眞門:そう。「豊穣」。でも、豊穣だけじゃないんだよ。

「リビングデッド」:…と、いうと?

寺門 眞門:「慈善」の神でもあるのさ。

「リビングデッド」:……慈善。

寺門 眞門:私はね、天界にも、地獄にも、人間界にも「居すぎてしまった」。

寺門 眞門:結果、私は「強欲」という罪を背負いながら、人間界で「与え続けて」しまったのさ。

寺門 眞門:「慈善」という形でね。

猫宮 織部:そ、それじゃあ……

寺門 眞門:私は「どっちつかず」。見事「マモン」から「寺門眞門」という「元悪魔」「元神」の人間に成り下がったのさ。

「リビングデッド」:……なるほど、それは、盲点でした。そう、でしたか。

寺門 眞門:しかし、「奴」のことをよく知るのは紛れもない、私だ。

猫宮 織部:旦那様……

寺門 眞門:「呪い」には「呪い」で対抗しなければならない。そうだよね、猫宮さん。

猫宮 織部:…は、はい!そうですよ!わたしの「火車憑き」の呪いを「しりこだま」で相殺しているみたいに!

寺門 眞門:……「リビングデッド」。

「リビングデッド」:はい?

寺門 眞門:ベルゼブブが一人でに顕現(けんげん)することはないはずだ。

寺門 眞門:……何者かが、動いているのか?

「リビングデッド」:そう考えるのが、妥当な気がしますよ。

寺門 眞門:……なぜ、わざわざ私にそれを伝えにきた。

「リビングデッド」:嫌だな、敵意はないんですよ?私は。私とて、ベルゼブブに顕現されたら困るんですよ。

寺門 眞門:…なに?

「リビングデッド」:わたし、死体ですよ?死者ですよ?煉獄に連れ戻されてしまう。

寺門 眞門:……ちょうどいいじゃないか、煉獄まで落ちて転生してきたらいい。

「リビングデッド」:馬鹿言っちゃいけない。わたしはね、この「私」のまま人生を謳歌したい。

「リビングデッド」:そして、猫宮織部。

猫宮 織部:えっ

「リビングデッド」:この「私」のままで、君が欲しいんですよ。

猫宮 織部:ひっ、ひぃーーーーー。

「リビングデッド」:そのためには猫宮織部、あなたにもきちんと「生きていて」もらわなきゃ。

「リビングデッド」:どうです?そう考えたら私たち、ある意味味方じゃないですか?

寺門 眞門:まっぴらごめんだ。

猫宮 織部:遠慮しときます!

「リビングデッド」:……ま、いいですがねえ。ホットミルク、おいしかったですよ。

猫宮 織部:あ、ありがとう、ございます。

「リビングデッド」:……寺門眞門。

寺門 眞門:なんだ?用件が済んだならさっさと帰れ。

「リビングデッド」:……「豚」には気を付けてくださいよ。

寺門 眞門:……肝に銘じておくよ。

0:間

猫宮 織部:……旦那様?

寺門 眞門:んー?なんだい、猫宮さん、あ、ホットミルク、僕にも頂戴。

猫宮 織部:あ、は、はい。お任せください。

寺門 眞門:それで?

猫宮 織部:あ、はい。その、「豚」とは、どういうことなのですか?

寺門 眞門:……「リビングデッド」の言っていた「豚」のこと?

猫宮 織部:……はい。

寺門 眞門:七つの大罪には、悪魔だけでなく、動物もあてがわれているのさ。

猫宮 織部:動物……。

寺門 眞門:そう、例えば「強欲」なら「狐」ってね。

猫宮 織部:なるほど、イメージしやすい動物が位置づけされてるんですね。

寺門 眞門:そうそう。「暴食」はね。「豚」なんだよ。

猫宮 織部:豚、なるほど。

寺門 眞門:「豚」はね、「亥」(イ)という漢字なのさ。

猫宮 織部:十二支のイノシシという漢字ですね!そっか、イノシシも豚も

寺門 眞門:そう、中国では同じものだからね。

猫宮 織部:その「亥」が「門」を通ると……?

寺門 眞門:「閡」(ガイ)、「外から阻む(はばむ)」という意味さ。

猫宮 織部:……どうしたら、いいのでしょうね、旦那様。

寺門 眞門:大丈夫だよ、猫宮さん。だって僕は「眞門」だよ。

猫宮 織部:え……?

寺門 眞門:…「眞(ま)」とは「ウソ偽りのない」という意味さ。

猫宮 織部:え、ええ。真実、の真と同じ字ですよね。

寺門 眞門:「眞」が「門」をくぐるとね、何になると思う。

猫宮 織部:え……?

寺門 眞門:「闐(テン)」、「満ち溢れる」という意味になる。

猫宮 織部:「満ち溢れる」……。

寺門 眞門:いくら「門」を閉ざされようと、阻まれようと、私の中の真実はいつも変わらず

寺門 眞門:満ち溢れている。そして、外から阻まれようと、水がコップから溢れるかのごとく

寺門 眞門:見事に瓦解させてみせるさ。

猫宮 織部:旦那様ったら……その、旦那様の真実とはなんなのですか?

寺門 眞門:「猫宮さんのホットミルクは世界一うまい。」

猫宮 織部:……ぷっ!もう!旦那様ったら!

寺門 眞門:ふふ、失敬。