情景を踊る
2021.02.12 08:25
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上演に際して
(公演パンフレットより)
2019年の秋にみんぱくで開催された「驚異と怪異」、展示の質も量もすさまじく、わたしは夢中になっていた。展示の最後のあたりで人魚や河童のミイラがショーケースの中に現れ、わたしは人魚も河童もこの世にいるのだと思い込んだ。ああ、いるのだ、と。頭は猿の頭蓋骨で、尻尾の方は爬虫類の遺骸で、それらをくっつけたまがいものだと頭ではわかっていても。そんなはなしをきたさんにしたら大笑いされた。きたさんはすでに会場で図録を手に入れていて、稽古の最中に幻獣たちをまじまじと眺めていた。そして日に日に異形を成していった。大笑いしていた人が、自ら幻獣になった。ある日きたさんの独り言が増えた。たぶん相当疲れていたのだ。「ぽん!ぽん!ぽん!」と歌い出し、たぬきがのりうつったのかと思った。リアルに「驚異と怪異」だった。
どうして人魚は日本でも中国でもおんなじようなポーズをしている?どうしてカンボジアの人魚には足が生えている?どうやら人魚というキャラクターに、人々は願いや祈り、癒しや償いを盛り込んでいるらしい。はたまたじぶん達の土着の伝説をくっつけて、あらたな人魚物語を生み出したり。
わたしたちもこのせっぱつまった状況の中で、古くから言い伝えられてきた幻獣たちの姿を借りて、わたしたちの願いや祈り、癒しや償いを踊る。今日の舞台でどのような異形に出会うことができるのか、わたし自身にもわからない。聴こえない音、見えない光につつまれながら。うっすら怖く、武者震いする。