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Extra4:ヴァレンティオンデー

2021.02.14 06:00

“ナキ参上!おじゃましまーす!

……あれ、ガウラどこ?”

“こっちだよ!キッチンにいるぞー”

“およ”

暇を持て余したナキがガウラの家に訪れた。

ほんのり甘さと焦げた匂いがする。

“…焦げた匂い?”

“菓子類はまだ作るの苦手でねぇ。

焦げちまったよ”

“あちゃー、作ってたのはクッキー?”

“そうそう、ヴァレンティオンデーだからね。

チョコレートクッキーでも作って、石の家とアリスの家に持っていこうかと思っていたんだ”

“アリス?

あ、この前言ってた忍者くん?”

“そう、忍者くん”

“ナキも手伝うから忍者くんに挨拶しに行ってもいいかな!”

“いいんじゃないか?

恐らく他の連中も今日はいるだろうし”

“やった!

じゃぁ早速焦げたのは片付けて、足りない分作っていこ!”

そう言うとナキはテキパキと材料や道具を用意する。

見た感じ彼女は料理のできる女だろう。

ガウラは言われた物を取り出しつつ、汚した道具を片付けていった。

‘可愛いの持ってるじゃない!’そう言ってナキはサボテンダーとモーグリの型抜き器を手にする。

そういえば、そんな物があったのすっかり忘れていたな。

“ガウラ、このチョコを湯煎で溶かしてちょうだい”

“何に使うんだ?”

“できたクッキーに付けて冷やすのよ!

ちょっとしたオシャレ〜”

“へぇー…”

——

“タダー!(Ta-dah!)

かんせーい!”

“すげぇ…最初に作ってた私の丸型もキレイになっちまったよ…”

“こういうのは工夫次第で化けちゃうのよ!”

“なるほど…手伝ってくれてありがとうな!”

“どういたしまして!”

オシャレ可愛くできたクッキーを送り先に分けてラッピングしていく。

何をしていたのか有り余っていたリボンが大量にあったので、それで袋をくくっていった。

石の家に贈るのは青いリボンの物、アリス宅に贈るのは赤いリボンの物になる。

そして緑のリボンの物は砂の家、そして第一世界に贈るものだ。

大量にできてしまったため、寄る場所も増やす。

“砂の家はナキが最後に持っていくね。

ガウラは第一世界が最後でしょう?”

“あぁ、そうだよ。

数は間違いないようにな”

“えぇ!”

そういえば、今日のナキのカバンはやけに大きい気がするな…他にも何か入れていたのだろうか?

——

“砂の家からナキ参上!

タタルさーん、チョコレートクッキー!”

“ナキさん、いらっしゃいでっす!

チョコレートクッキーでっすか!?”

“そうだよー、我らが英雄が作ってくれたんだよー!”

“ガウラさんが!

皆喜ぶでっす!”

“いや、私だけじゃなくてナキも手伝ってくれたんだが…聞いてないな、うん”

クッキーを渡しつつナキとタタルは互いに近状報告をする。

たまたま帰ってきていたアルフィノを捕まえて、ガウラは渡す物を渡した。

——

次に立ち寄ったのはアリスの家だ。

と言っても番地がこちらのFCハウスになってしまっているため、誰の家なのかさっぱりだが。

“あ、ガウラさん!

…と?”

“ナキです!”

“私の友達だ”

“なるほど。

フ・アリス・ティアです、よろしくお願いします!”

“よろしくお願いします!”

ぺこりぺこりと2人がお辞儀をする。

家の奥から話し声も聞こえるから、恐らくリリンとヘリオも居るんだろう。

“ヘリオとリリンはいるか?”

“あ、いますよ!”

“ならこれ。

今日はヴァレンティオンデーで2人で作ったクッキーを持ってきたんだ。

他にも寄るところがあるから、アリスから手渡しておいてくれ”

“わかりました!”

“ナキはまた今度ゆっくり挨拶しにくるね!”

“ぜひ!”

扉の隙間からヘリオが見えたので軽く手を振った。

彼も同じように手を振ってくれた。

片手に持ってるのは…見たことのない武器だった。

——

“それじゃぁ、ナキは砂の家に行くね”

“あぁ、今日はありがとう”

“いいえー!

ガウラも気をつけていってらっしゃいね!”

“行ってくるよ、また今度一緒に茶でもしよう”

“うん!”

クリスタルタワーの方面から第一世界へ行くので、入口付近で再度振り返った。

彼女はまだ見送ってくれるようで、ニコニコと手を振ってくれた。

なんともまぁ可愛い奴だ。

——

目を開けるともうそこは星見の間だった。

ちょうどその間の清掃をしていたライナはガウラを見るとクリスタリウム特有の挨拶をしてくれた。

ガウラも軽く挨拶をし、事情を説明しながらクッキーを手渡す。

‘皆喜んでくれるだろう’と言い、彼女は早々に届けに行ってしまった。

最上階に未だこの世界を見据えている‘彼’の元へ行き、クッキーの代わりとしてムスカリの花を持ってきた。

‘彼’はクッキーを食べれないから。

“ムスカリには、‘明るい未来’という花言葉があるらしい。

この先この世界が明るい未来であるように、そう願って花を贈るよ”

次に行ったのはユールモアだ。

ドゥリア夫人と会うことができたため、彼女にクッキーを預けてきた。

‘お茶を用意しなきゃ’と言ってくれたが、まだ行く場所があるので今回は断った。

‘また来ます’と一言言うと、ガウラはユールモアを出た。

最後に寄ったのはイル・メグだった。

妖精たちに見つかっても困るので、着いて早々に彼女はリェー・ギア城に向かった。

第一世界で仲間になってくれたアマロが、彼女を乗せて楽しそうに飛んでいる。

そんな彼にのせられてガウラも鼻歌を歌う。

“あらあら、楽しそうなさえずりと思えば‘若木’じゃないの!”

“やぁフェオちゃん。

今日は散歩かい?”

“えぇそうよ!

くんくん、いい匂いがするのは気のせいかしら?”

“ちょっとしたクイズに答えてくれたら、正体を教えてあげるよ”

“まぁ!意地悪!”

“どうだかな!

それじゃぁ…‘この甘いのする物は何のためのものでしょう?’”

“何のためかしら!今日の‘若木’は意地悪だもの、私たちに何かしてくれるのかしら?

してくれるとすれば何かしら?ねぇ、そのあまーい匂い、くれない?”

“あぁ、正解だからあげるよ。流石フェオちゃんだ!”

“まぁ、正解だったの!?”

“甘いものの正体はクッキーさ。…クッキーってピクシーは食べれたっけ?

数が把握できていないけど、沢山用意してるんだ!

君たちにプレゼントするためのものだよ”

“まぁまぁまぁ!なんて素敵なのかしら!

私たち妖精にプレゼントだなんて!”

“フェオちゃんには、特別もあるよ”

そう言いながら人差し指を口元で立て、シー…とポーズをした。

フェオ=ウルは嬉しい様子で喜んでいる。

それからはあっという間で、気づけば妖精たちがガウラを囲んで飛んでいた。

クッキーがある、フェオ=ウルのお気に入りがいる、となんだか面白そうな声色で各々好きに話している。

‘私の‘若木’に手を出しちゃダメよ!’と入念に伝えたフェオ=ウルは、みんなから少し離れた所で‘特別’を見た。

慣れない字で書いていたようだが、彼女にはなんと書かれているかは分かったようだ。

遠くで妖精たちに囲まれ談笑している‘若木’を見ながら、嬉しそうに嬉しそうに微笑んだ。

——

“おかえりなさい、第一世界では何かありましたか?”

“あぁ、皆元気そうだったよ。

イル・メグにも立ち寄れたぜ”

“それはよかったです。

私の教えた妖精語は、役に立ちましたか?”

“あぁ。上手く書けたかは分からないけど”

“ああいう類のものは、伝われば問題ないかと思います。フェオ=ウルが相手なのだから尚更伝わってくれるでしょう”

“だな”

“ところで何と書き伝えたんです?”

“たった一言‘スネリン(snae ling)’と”

“おや、なかなか刺激的な言葉を選んだのですね”

“でもこれが1番伝わってくれると思ってな”

“そうですね”

第一世界から帰ってきて、石の家でウリエンジェとお茶をしながら話を進める。

実はここ数日、暇つぶし程度でウリエンジェから妖精語を学んでいた。

‘サンクレッドより熱心に聞いてくださるのですね’と彼は嬉々として教えてくれたのだ。

それよりもっと前の時期にピクシー族たちから夢の話を聞いていたが、その時に1つだけ言葉を言わされたことがあった。

その単語をたまたまウリエンジェから教わり、ようやっと言葉の意味を知ったのだ。

ピクシー達も愉快なことをしてくれたなと思った瞬間だ。

“今頃きっと、クッキーを巡って皆さんで遊んでいることでしょう”

“そうかもしれないな”

“ところで…その荷物は?”

“あぁ、これかい?

クリスタリウムからこっちに帰ってくる際にミーン工芸館の連中に会ってね。

水晶公と仲間たちにってさ”

“それはそれは。ありがたく頂戴しましょう”

そうしてチョコレート菓子とお茶の準備をし直し、仲間たちとお茶会をした。

まさか後日、大量にヴァレンティオンチョコレートが送られてくるなんて…この時のガウラは予想していなかった。