なぜ2016年はホテルの空室が出始めたのか(訪日外国人調査)
ここ2年ほどインバウンドが騒がれ、訪日外国人の数が増えるにつれ、都市部の空室がない、会社の出張の規定額では宿泊できないほど都市部のホテル価格が高騰している、アパホテルは一泊3万円らしい、2020年までどんどんホテルの出店ラッシュだ、もうOTAには空室を出さなくても予約が入る、などと騒がれていた。
ところが昨年の後半から様子が変わり始めた。
OTAにも部屋が出始め、宿泊料金も下落。一転して3、4年前の状況に戻った感がある。
ところが訪日外国人がいなくなったわけではなく訪日数は前年を上回り続けていたため、理由が諸説生まれた。
・中国の株価が下落したり、関税制度が変わったため、お金を使わない旅行者になったのだという説
加えてお金を使わない旅行者になったので滞在日数が減ったのだという説
・リピーターが増え、再訪時は違う旅行先に行くので都市部から旅行先が地方に分散していったのだという説
・民泊物件が増え、宿泊施設ではなく民家に泊まり始めたのだという説
どの説が正しいのか、一度確かめてみようと思い、観光庁が出している訪日外国人消費動向調査を見てみた。
この調査は調査票によるアンケートになり、すべての訪日外国人を網羅しているわけではないので、実数ではなく全体に占める比率を見ていきたい。
比較対象は2016年4-6月と2015年4-6月だ。
まず訪日外国人はこの1年でお金を使わなくなったか。
昨年と今年では10ポイント程度平均旅行消費額が減っている。
特に中国からの旅行者は20ポイント減っている。
お金を使わなくなった説は正しいと言える。
次に訪日外国人の滞在日数は減っているのか説を見てみる。
全体に占める長期間の旅行者の比率は減っているようだ。
実数はわからないので滞在日数が減っているか、短い滞在日数の人が増えていると言える。
次はリピーターが増えたので都市部から地方に分散していった説。
まずリピーター。
以前も見たようにもともと訪日外国人はリピーターが多いのは前提だが、調査を見ると1〜3回目の旅行者が減り、4回目以降のシェアが高まっている。
訪日外国人自体の数は増えているのでこの比率の変化はリピーターが増えていると言えるだろう。
では都市部から地方に分散していったのか。
九州のシェアの差が大幅に減っているのは地震の影響だが、首都圏、札幌のある北海道、名古屋のある愛知県は軒並みシェアが下がっている。
一方で以前から空室がないと騒がれていた大阪のシェアは微増している。福岡も微増。
あくまでシェア率なので首都圏が減った分が大阪や福岡に流れている可能性もあるが、大阪・福岡は減らず、少なくとも首都圏、北海道の集中は緩和しているようだ。
一方で比率が大きく、さらに伸びているのは東北、中国地方、三重、奈良、佐賀、香川あたりだ。
都市部から地方へ分散は特に首都圏、北海道、愛知から分散はしているようだ。
次は宿泊施設から民泊に流れている説の検証。
これは見事にシェア率が変動している。
ホテルは微減だが、旅館は10ポイントシェアを減らしている。
そのかわり、Airbnbなどに掲載されているユースホステル・ゲストハウス、その他領域が急激に拡大している。
民泊に流れている説は合っていると言えよう。この勢いだとさらに拡大しそうだ。
以上、色々な説を個々に確認してきたが、どの説が正しいというよりはいずれの説も正しそうだ。
これらの原因が複合的に合わさった結果として、都市部の宿泊施設の空室が出始め、在庫がだぶつき料金が下がってきていると言える。
と、そうこう言っているうちに宿泊者数自体も前年割れを始めたようだ。
これは宿泊施設を対象としているようなので民泊の影響もあるだろう。
色々と数字を見てくるとこれから訪日外国人動向はどうなっていくのか不安な状況だ。
ただ、われわれ旅行事業者としては2020年4000万人目標に向けここでとどまっている場合ではない。
個人が旅行者に家を提供したり、地方に旅行者が分散していることは悪い事とはいえない。むしろよりディープに日本を知ってもらうには良いことともいえる。
この流れをうまく利用して観光を盛り上げていける方法はあるはず。
その代表的な動きとしてDMOの動きはウォッチしていきたい。