花、桜
http://sogyusha.org/ruidai/01_spring/sakura.html 【桜、花、花影、花の宿】 より
桜、花、初花、若桜、朝桜、夕桜、夜桜、花影、花の山、花の雨、花の雲、花埃、花の宿、山桜、八重桜、遅桜、枝垂(しだれ)桜、糸桜、山桜、八重桜
歳時記では「花」「桜」「初桜」「枝垂桜」などがそれぞれ独立した季語となっている。しかし現代の句会では「桜一切」として扱われることが多いので、この句集では桜関係の大半を一括することにした。ただし「落花」「花見」は別項にした。「花見」は、春の「生活」の項に分類するのが普通である。
やあしばらく花に対して鐘つく事 松江重頼
(訳)鐘を撞くのを待ってくれ。満開の花が散ってしまうよ。謡曲の口調をまねている。
な折りそとしかるに一枝の花の庭 西山宗因
(訳)折ってはいけない、と叱りながら、花の庭の主人は一枝をくれた。
ながむとて花にもいたし頸の骨 西山宗因
これはこれはとばかり花の吉野山 安原貞室
蛇之助がうらみの鐘や花の暮 田中常矩
(注)蛇之助は大酒のみのあだ名。花見の酒飲みが暮の鐘の音を恨めしく思っている。
はつ桜足駄(あしだ)ながらの立見かな 伊藤信徳
山は朝日薄花桜紅鷺(とき)の羽 山口素堂
(注)美しいものを三つ並べた。同じ素堂の「目には青葉……」の句に似ている。
初桜折りしも今日はよい日なり 松尾芭蕉
うかれける人や初瀬の山桜 松尾芭蕉
(注)「うかりける人を初瀬の山おろしはげしかれとは祈らぬものを」(源俊頼)
命二つの中に活きたる桜かな 松尾芭蕉
(注)旅の途中、服部土芳と二十年ぶりに出逢った時の感慨を詠んだ。
花の雲鐘は上野か浅草か 松尾芭蕉
さまざまの事思ひ出す桜かな 松尾芭蕉
淋しさや花のあたりの翌檜(あすなろう) 松尾芭蕉
木のもとに汁も膾(なます)も桜かな 松尾芭蕉
(訳)桜の木の下で花見をする。花見料理も、どこもかしこも落花でいっぱいだ。
しばらくは花の上なる月夜かな 松尾芭蕉
2
(訳)満開の桜の上に月が出ている。そんな見事な情景もしばらくの間だけだ。
辛崎の松は花より朧にて 松尾芭蕉
(訳)琵琶湖西岸の春の宵。有名な唐崎(辛崎)の松が桜の花よりも霞んで見
える。
歌よみの先達多し山ざくら 松尾芭蕉
なほ見たし花に明け行く神の顔 松尾芭蕉
四方(よも)よりの花吹き入れて鳰(にお)の海 松尾芭蕉
(注)鳰の海は琵琶湖の別名。
一里は皆花守の子孫かや 松尾芭蕉
初花に命七十五年ほど 松尾芭蕉
花に酔へり羽織着て刀さす女 松尾芭蕉
二日酔ものかは花のある間 松尾芭蕉
酒に酔へり羽織着て刀指す女 松尾芭蕉
奈良七重七堂伽藍八重桜 松尾芭蕉
(注)芭蕉の句ではない、という説もある。
花に気のとろけて戻る夕日かな 杉山杉風
笑はれに行かばや花に老の皺 杉山杉風
(注)杉風は享年八十五歳。当時としては非常に長生きだった。
肌のよき石に眠らん花の山 斎部路通
(訳)放浪俳人の私。肌触りのいい石に寝ながら、桜の花を眺めたいものだ。
何事ぞ花見る人の長がたな(刀) 向井去来
(訳)長い刀を腰にさして花見をする人(侍や伊達者)がいる。花見なのに何事だろう。
一昨日(おととひ)はあの山こえつ花ざかり 向井去来
小袖ほす尼なつかしや窓の花 向井去来
逢坂(おおさか)は関の跡なりはなの雪 服部嵐雪
(注)はな(花)の雪は、白い桜を雪に見立てている。
手習ひの師を車座や花の児(ちご) 服部嵐雪
なまぐさき風おとすなり山桜 服部嵐雪
どんみりと桜に午時(ひる)の日影かな 広瀬惟然
(注)どんみりは、どんより。
かう居るも大切な日ぞ花の陰 広瀬惟然
文台(ぶんだい)に扇ひらくや花の下 広瀬惟然
(注)表に出した文台の上に扇を置き、一句をしたためようとしている。
先ず米の多いところで花の春 広瀬惟然
花咲いて死にとむないが病かな 小西来山
(訳)桜が咲くと、死にたくないと思う。しかし私は重い病にかかっている。
見返へれば寒し日暮の山桜 小西来山
人の目にあまるものなし山ざくら 小西来山
花散りてより古びけり一心寺 小西来山
http://haikubasyou.uenotakako.com/2018/03/%E8%8A%AD%E8%95%89%E3%81%8C%E8%A9%A0%E3%82%93%E3%81%A0%E6%A1%9C%E3%81%AE%E5%8F%A5/ 【芭蕉が詠んだ桜の句】 より
2018年の桜は例年に比べて開花が早いですね。このところ年々はやまっているようです。
さくらは咲き始めると1週間くらいで満開を迎えてその後一週間くらいが最高の見ごろだと言われます。東京では開花が17日でしたから、来週のエープリールフールの頃までが一番の見頃のようですね。
芭蕉も江戸時代に流行ったと言われているお花見や各地のさくらの句が沢山あります。今回は出来るだけ抜粋してみました。全部で36句ありました。まだまだあるかもしれませんが、桜の季節に芭蕉がどんな句を詠んでいたのか多いに気になりますね。
芭蕉の桜の句
としどしや櫻をこやす花のちり 命二つの中に生たる櫻哉
さまざまの事おもひ出す櫻かな 花をやどにはじめをはりやはつかほど
このほどを花に礼いふわかれ哉 よし野にて櫻見せふぞ檜の木笠
花の陰謡に似たる旅ねかな 櫻がりきどくや日ゝに五里六里
さびしさや花のあたりのあすならふ 花ざかり山は日ごろのあさぼらけ
景清も花見の座には七兵衛 しばらくは花の上なる月夜かな
猶見たし花に明行神の顔 鶴の巣に嵐の外のさくら哉
木のもとに汁も鱠も櫻かな 畑打音やあらしのさくら麻
似あはしや豆の粉めしにさくら狩 種芋や花のさかりに売ありく
人里はみな花守の子孫かや 四方より花吹入てにほの波
鐘消て花の香は撞く夕哉 思い出す木曾や四月の櫻狩
聲よくばうたはふものを桜散 散花や鳥もおどろく琴の塵
春の夜は櫻に明けて仕廻けり ゆふばれや櫻に涼む波の花
櫻より松は二木を三月越シ 木の葉散櫻は軽し檜木笠
花の雲鐘は上野か浅草か 奈良七重七堂伽藍八重ざくら
初花に命七十五年ほど 咲乱す桃の中より初桜
うかれける人や初瀬の山桜 草いろいろおのおの花の手柄かな
よし野にて桜見せふぞ檜の木笠
今年のこの抜粋の中で私は以下の3句がとても好きです。
さまざまの事おもひ出す櫻かな しばらくは花の上なる月夜かな 花の雲鐘は上野か浅草か
いかがですか。お花見の季節の切なく短い夢のような一時を、期待しながら待つ江戸時代の芭蕉の気持ちが伝わる名句ですよね。お花見には染井吉野が多く、山桜の句との違いが良く解ります。上野の不忍の池から浅草の浅草寺あたりのさくらまで、江戸のさくらが一斉に咲いて、まるで雲のような美しい景色が目に浮かぶようです。