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のらくらり。

次男と末弟は長男がすき。

2021.02.20 08:10

仲良しウィルイスを見守る長男アルバート兄様。

デートの準備でアルバート兄様と買い物に行くため、ウィリアムとルイスが兄様を取り合ってる。


「ルイス、来週の日曜日は空いているかい?」

「特に予定はありません」

「そう、良かった」


ダラムに存在するモリアーティ家所有の屋敷において、家主でもある兄弟が優雅なティータイムを過ごしている。

温かい紅茶と焼き立てのスコーンを楽しんでいる最中、兄であるウィリアムが弟のルイスに問いかけた。

予想はしていたけれど、確約に近いその返事はウィリアムの気分を上げてくれる。

ルイスはルイスで、たとえ他に用事があろうとウィリアム以上の用などあるはずもないと、もはや考えるまでもなく即答だった。


「その日には大学の講義もひと段落するんだ。一緒にどこかへ出かけようか」

「はい、是非」

「どこか行きたいところはあるかい?」

「兄さんと一緒であればどこでも構いません」


願ってもない逢瀬の誘いにルイスの瞳は大きく丸くなり、僅かに唇の端が上がっていった。

今この屋敷にはウィリアムとルイスしかいないのだから表情を緩めようと誰の目にも触れないのだが、ルイスは寝る直前までその表情を崩さないよう常に心がけている。

いつ何があるか分からないし、小さな違和感が大きな綻びに繋がらないとも限らない、というのがルイスの言い分だ。

事実、ルイスが外で表情を崩すことは滅多になく、凍りついたように静かな顔ばかりを見せている。

そんなルイスだというのに、彼はウィリアムの提案一つでこうも簡単に表情を変えてしまう。

他人が見ればほとんど気付かないような微かな変化だが、それでも己を律することに徹底しているはずのルイスが気を緩め、つい表情を崩してしまうほどウィリアムの存在は大きいのだ。

そう考えるだけで湧き上がる優越感が、ますますウィリアムの気分を向上させていった。


「僕もルイスと過ごせるならどこでも良いから、どこへ行こうか悩んでしまうね」

「す、すみません」

「ふふ。じゃあ久しぶりに美術館へ行こうか。アルバート兄さんが仕事の付き合いで観に行った個展、中々良かったそうだから」

「はい」


ウィリアムとルイスが望むのはともに過ごすこと一択だ。

これといってしたいことも行きたい場所もないし、互いがいれば地獄の底でも楽園に等しい。

改めて欲求などあるはずもなく、それぞれが同じことを考えているのだという事実が嬉しいだけだった。


「兄さんと二人きりで出かけるのは久々ですね」

「そうだね。ここしばらく立て込んでいたし、わざわざ出かけようと思えなかったから」

「美術館、とても楽しみです」

「僕もだよ、ルイス」


目的なく街を散策するのも良いが、せっかくの休日、デートとしてともに過ごすのだからそれらしくスケジュールを決めるのも良いだろう。

ウィリアムがそう考えて提案した美術館はルイスの興味を引いたらしく、もう隠そうともしていない柔らかな笑みがその顔に浮かんでいた。

赤らんだ頬が色鮮やかでとても綺麗だ。

本当ならアルバートもその日をともに過ごせれば良いのだけれど、生憎と彼は来週全てに泊まりがけの任務が予定に入っている。

今週末ロンドンへ帰宅する際、彼が気に入っている見所を聞いてみようかと二人はデートに向けて計画を詰めていく。

穏やかな日常に相応しい甘やかな空気。

束の間とはいえとても満たされる時間を二人は過ごしていた。




そうしてやってきた週末、ロンドンに存在するモリアーティ邸。

帰宅したウィリアムとルイスを出迎えてくれたのは、出張を前に休暇を堪能しているアルバートだった。

休日でありながらもセンスの良い私服を着こなし、優雅さと気品に満ち溢れたアルバートは隙なく正しい「伯爵様」である。

目が肥えているのか、アルバートが選ぶものは決して派手過ぎないのにしっかりと華やかな存在感を放つものがほとんどだ。

きっとこれは彼が生まれ持ったセンスなのだろうとルイスは認識している。


「兄様、お願いがあるのですが…」

「何だい?」


帰宅して少しの団欒を過ごした後、ルイスはアルバート一人では手が回らないだろう執務をこなすべく二人の元を離れようとする。

けれど完璧主義で潔癖症のアルバートのこと、広い屋敷だというのにルイスが気合いを入れて掃除をするまでもなく清潔が保たれているのだ。

ゆえにルイスが離れるのも僅かな時間だと理解しているため、ウィリアムもアルバートも引き止めることなくルイスの好きにさせていた。

それと同時にウィリアムが書斎にある本を持ってくると言ったため、その後ろ姿を見送ってからルイスはチャンスとばかりにアルバートに声をかける。

ウィリアムがいない場でアルバートと二人で話す機会を見繕うのは中々難しいのだがなんたる幸運だろうと、ルイスは頬を紅潮させながらソファに腰掛ける彼を見下ろしていた。

けれどこのままでは無礼かと思い、すぐにアルバートと目線を合わせるためにしゃがみ込む。

アルバートの膝の上に軽く手を添え、結果的に彼を見上げる形でルイスはお願い事を口にした。


「来週末、ウィリアム兄さんと美術館へ出かけるんです」

「あぁ、私が勧めた個展を見に行くのかい?」

「はい」

「そうか。楽しんでおいで。ウィリアムと二人きりで外に出るのは久しぶりなんだろう?」

「はい…それで、アルバート兄様に頼みたいことがありまして」

「さて、何だろう」


しばらくウィリアムは帰ってこないというのに、他の誰かに聞こえないよう小さな声で話しかける様子はあどけない子どものようだ。

美しく成長したというのに癖になっているのか、その上目遣いがとても可愛らしい。

赤らんだ頬といい期待に満ちた視線といい、さぞかし弟らしく可愛いお願い事があるのだろう。

アルバートは愛すべき弟の頼みであれば何を差し置いてでも叶えてあげようと、甘く垂れた瞳にますます糖度を含ませてルイスを見下ろしていた。


「明日、アルバート兄様のお時間を頂きたいんです」

「どうして?」

「ウィリアム兄さんとの、その…デートに向けて、服を新調したくて」

「ほう」

「アルバート兄様に見繕ってほしいんです。お願いできますか…?」


物欲のないルイスが新しい服が欲しいと欲を見せている。

貴族であるならば定期的に仕立て屋を呼び寄せ、オーダーメイドで衣服を用意するのが常識だ。

けれど勿論、気ままに街へ出た先で気に入ったものを手に入れることもある。

ルイスはウィリアムとの久々のデートに向けて新しい衣服を手に入れたいという。

仕立て屋を呼ぶには時間が足りないのだろうが、そうでなくとも、ルイスはアルバートに自分の服を選んでほしいのだろう。

他の誰でもないアルバートが選んだ衣服を身に纏い、そうしてウィリアムとのデートに向かうルイス。

それは想像だけでも甘美な現実だった。


「ウィリアムとのデート、少しでも良いところを見せたいというわけだね」

「…はい」

「ふ…ルイスならどんな姿でもウィリアムは喜ぶだろうに」

「でも、久々の外出なんです。…兄さんに少しでも良く思われたいと願うのは、僕の我が儘でしょうか?」

「そんなことはないさ。ウィリアムのために美しく在ろうとするルイスはとても綺麗だよ。だが、私が選んだ服で良いのかい?」


答えなど分かっているけれど、それでもルイスの口から自分が必要だという言葉を引き出したい。

それはアルバートが持つ兄としてのプライドから来るものだ。

可愛い弟達が懸命に愛を紡ぐ様子をアルバートは特に気に入っている。

いつか迎える最期のときまで離れることなくそばにいて絆を結んでいてほしいと、二人の兄としてそう願っているのだ。

そのため出来ることがあるならば、アルバートは長男として全力で弟達をサポートしようと決めている。


「アルバート兄様が選んだ服が良いのです。兄様ならきっと僕に似合いの服を選んでくれますし、それに…」

「それに?」

「…ウィリアム兄さん好みの僕に仕上げてくださると信じているので」


兄が弟に甘えるように、ルイスはアルバートを見上げて小さく呟いた。

現実に二人の関係は兄弟であり、決して間違っているわけではないのだが、それでもアルバートはルイスが持つ弟らしさに堪らなく胸を射抜かれた。

可愛い弟を持つことが出来たのは、呪われた運命を歩くアルバートにとって最大の幸運だ。


「…任せなさい、ルイス。私がお前をウィリアム好みに仕上げてみせよう」

「ありがとうございます、アルバート兄様!」


ウィリアムにしてみればルイスがルイスであればそれだけで好みの真ん中であるが、素材の良いルイスを着飾れるというのはアルバートとしても興味深い。

最愛の兄に少しでも好印象を与えようと自分を頼るルイスはまるで初心な少女のようだ。

周りから隔離してあまり世間と馴染ませてこなかった弊害かもしれないが、こんなにも可愛らしい姿を見せてくれるのだから過去の判断は間違っていなかった。

ルイスの兄として彼のために行動するのは何とも面映く楽しみなことである。


「あれ、ルイス。もう掃除が終わったのかい?」

「ウィリアム兄さん。いえ、これから向かいます。少しアルバート兄様と話をしていたので」

「そう」


アルバートが快く了解してくれたのを機に、ルイスの頬はより綺麗な薔薇色に染まる。

表情を崩さない弟の甘く緩んだ表情を目に収めたアルバートがその髪を撫でている最中、本を片手に持ったウィリアムが帰ってきた。

のんびり話していたせいで思っている以上に時間が経っていたらしい。

ルイスは慌てて立ち上がり、もう一度アルバートに礼を言ってから部屋を出るためウィリアムとすれ違う。


「アルバート兄さん、明日は何か用事がありますか?」

「明日?どうかしたのか?」

「もし予定がないのなら僕の買い物に付き合ってほしいんです。一緒に街へ行っていただけないでしょうか?」

「えっ…」


そうしてルイスが部屋の外へ出るために扉に手をかけた瞬間、ウィリアムがアルバートに思いもよらない誘いをかけるのが聞こえてきて思わず声が出る。

明日のアルバートはルイスとともに買い物に出かけるのだ。

ウィリアムに気に入ってもらえる服を探すため、ルイスはウィリアムに秘密でアルバートと二人で出かけるつもりだというのに、ウィリアムにアルバートを取られてしまっては台無しである。

本人には秘密にした上で服を選んでもらうつもりだったが、かといってウィリアムに対しアルバートに嘘を吐かせるのはルイスの本意ではない。

ルイスが後ろを振り返れば、やはり困ったように苦笑しているアルバートがいた。


「う、ウィリアム兄さん!明日、アルバート兄様は僕と街へ出る約束をしているんです!買い物は別の機会にしていただいてもよろしいでしょうか?」

「ルイス」

「そうなのかい?困ったね…どうしても明日じゃないと間に合わないんだ。ルイスの用事は明日じゃないといけないことなのかな?」

「そ、そうです」

「へぇ…?」


ルイスがウィリアムの言うことを否定するなど滅多にない。

たとえアルバートの指示だろうと上手くスケジュールを采配してウィリアムの希望を優先するはずなのに、今の勢いはどういうことだろうか。

ウィリアムは瞳を細めてルイスの表情を観察する。

偽りはないが、全てを伝えてはいないことがよく分かってしまった。


「先程約束したんです。兄様は明日、僕と街へ買い物に出かける予定です」

「…そう。でも僕もどうしても明日、兄さんと街へ出かけたいんだけどな」

「…こ、今回は僕に譲ってください」

「じゃあ僕もルイスと兄さんの買い物に付いて行こうかな」

「っ…!」


秘密にしたままアルバートと出かけることが難しいのであれば早々にバラして諦めてもらおうとルイスは考えたが、ウィリアムも中々引いてはくれない。

明日を逃せばアルバートは任務で遠く離れた地に行ってしまうし、すぐにウィリアムとのデートの日がやって来てしまう。

久々のデート、ウィリアムに良いところを見せたいというのに、これではルイスの計画は始まる前から失敗する。

ウィリアムの用事を優先すべきなのだろう。

もしかしたらアルバートと計画に関わる大事な相談を兼ねて街に行くのかもしれない。

自分を誘わなかったのだからその可能性が高いだろうことは考えたが、ウィリアムがルイスとアルバートの外出に付いてくるというのならそれはあり得ない。

ウィリアムは他の同志に計画を伝えるよりも前、必ずアルバートに相談という名の報告をしていることをルイスは知っている。

そこに自分を混ぜてくれないことにわだかまりはあるけれど、それでもウィリアムを信じているからこそ不満をこぼすことなく今を過ごしているのだ。

そんな彼がルイスとアルバートの外出に付いてくるということは、少なくとも計画に関することでアルバートと出かけたいわけではないのだろう。

ウィリアムはあくまでも私用としてアルバートの時間を欲している。

それならば引くわけにはいかないと、ルイスは来るべきデートに向けて絶対にアルバートは譲らないと大きな瞳に覚悟を見せた。

苦笑しているアルバートの左腕を掴み、彼越しにウィリアムを見ては怯まずに声を出す。


「アルバート兄様は明日、僕と二人で出かけるんです!兄さんは積んでいたままの本を読んでお過ごしください!」

「ルイス。僕も明日、アルバート兄さんと二人で出かけたいんだ。今回は僕に譲ってくれないかな?」

「だ、駄目です!兄様と約束したんです!明日の兄様は僕と過ごすんです!」

「ルイス」

「僕、掃除をしてきます!」


アルバートの右腕を掴み、弟に負けじと対抗するウィリアムの声を最後まで聞かず、ルイスは勝負を放棄するように部屋を出ていった。

兄様は絶対に譲りませんからね、とぷりぷりしながら出ていく様子はとても可愛かったけれど、負け惜しみを吐いて逃げたようにも見えるのだから面白い。

これ以上ウィリアムと対峙していても分が悪いと本能的に察したのだろう。

アルバートに執着するルイスは彼の居場所が広がっていることを認識出来るようで、ウィリアムは気に入っている。

だが自分以上にルイス自身の希望を優先するだなんて珍しいにも程がある。

何があるのだろうかと、ウィリアムは掴んでいたアルバートの右腕を引いて逃さず抱きしめるように兄を見上げた。

苦笑しながらも抑えきれない笑みが麗しいその顔に浮かんでいる。


「アルバート兄さん、明日のご予定は?」

「…すまないな、ウィリアム。ルイスとの先約が入っているんだ」

「ルイスとはどこで何をする予定ですか?」

「すまない、それも言えないんだ。きっとルイスが嫌がるから」

「そうですか…」


ウィリアムはアルバートを信用している。

その魂と人柄は何より、彼自身こそがルイスの兄たり得る存在だと己の慧眼を持ってして見極めている。

ルイスもアルバートを信頼しているし、良い兄弟関係を築いていると他の誰でもないウィリアムが認めているのだ。

自分達の関係を優しく見守ってくれるアルバートがそういうのであれば、これ以上食い下がるわけにもいかないだろう。

彼は兄としてルイスの希望を尊重するべく行動しているのだから。

ゆえにウィリアムは、ルイスが自分よりもルイス自身の希望を優先してアルバートと二人出かけることを不満に思っているわけではない。

ただ、明日を逃せば機会を逃してしまうということを懸念しているのだ。

そんなウィリアムの思惑を察したらしく、アルバートは未だ自分の腕を抱いている弟に声をかけた。


「明日、私に大事な用でもあったのかい?」

「…えぇ。実は来週末、ルイスと美術館へ出かけることになっていまして」

「ルイスから聞いたよ。私が勧めた個展を観に行くんだろう?」

「はい。ルイスと二人きりで出かけるのは久しぶりですし、せっかくなのでルイスに何か贈ろうと考えていたんです。アルバート兄さんに一緒に選んでもらおうと思っていたのですが…」

「ほう」


ルイスはウィリアムに好いてもらえるような自分になるべく、アルバートに服を見繕ってほしいと申し出てきた。

ウィリアムはルイスへの気持ちを物として残すべく、アルバートに何を贈るべきかともに悩んでほしいと願っている。

弟達が互いを想い合っていることはよくよく理解していたが、そこに関わることが許される立場というものはなんと魅力的なのだろうか。

アルバートはルイスだけでなくウィリアムも自分を頼ってくれているのだという事実に、またも心揺さぶられるようだった。


「ウィリアムから贈られるのならばルイスは何でも喜ぶと思うけれどね」

「ですが、どうせならルイスが心から喜ぶものを贈りたいではありませんか。アルバート兄さんなら僕が気付かない視点でルイスの好みを把握しているでしょうし、良いものが探せると思っていたのですが…」


ルイスがあれほど頑なに兄さんと出かけたいというのであれば諦めるべきでしょうかと、珍しく我を通さずルイスを尊重しようとするウィリアムを見て、アルバートは己の自尊心が満たされるのを実感する。

ちゃんと自分は彼の兄として信頼を得ているのだ。

普段であればルイスが何をしようとしているのか根掘り葉掘り聞き出すであろうあのウィリアムが、アルバートを信頼してルイスの全てを把握することを放棄する。

それが信頼の現れとなっているように感じられて堪らなく嬉しいと思う。

他の誰かから見ればささやかであろう兄弟の戯れは、少なくともアルバートにとって揺るぎない心の癒しになっていた。


「…お前達は本当によく似ているね」

「え?」

「いや、何でもないさ」


ウィリアムとルイスという弟がそっくりそのまま同じことを考え行動しようとしていることが、最もアルバートの心を豊かにしてくれる。

澱んだ世界で一等美しい愛を紡いでいる弟達はアルバートにとって唯一の希望だ。

少しでも彼らとともに兄弟として存在していられたら、などと夢見てしまうくらいには最高の現実である。


「それなら午前中はルイスと出かけることにして、昼過ぎにはウィリアムと買い物に行こうか」

「え?良いのですか?」

「お前達のデートに間に合わせるなら明日しか時間はないだろう?ルイスには私から伝えておくとしよう」

「アルバート兄さん」

「どちらを贔屓しても長男としては角が立つからね。丸一日は無理でも、ウィリアムにもルイスにも良いところを見せたいという私の顔を立ててもらうとしようか」


確かに先に約束をしていたのはルイスだが、ウィリアムの考えを知ってしまった以上は蔑ろにすることも出来まい。

どちらの希望も叶えてあげられるだけの器量くらいは持ち合わせている。

アルバートはいつもよりも甘さを増した笑みを浮かべ、ウィリアムに腕を抱かれたたままソファへと腰掛けた。

つられるようにウィリアムもソファへと腰を下ろし、アルバートの提案に驚きながらも気を良くしては微笑んだ。

ルイスだけでなく自分の希望を叶えようと尽力してくれる姿にはとても心が救われる。

兄として生きてきたけれど、弟としてアルバートに庇護されるのも悪くはない。

そうして二人が明日の予定を詰めているところに、未だぷりぷりしているルイスが帰ってくる。

ウィリアムを見て開口一番、「兄様は絶対に譲りません」と言ったことに二人は揃って笑ってしまう。

けれどアルバートの提案に反対することもなく、ルイスは安心したように表情を変えた。

丸一日アルバートを独り占め出来ないことを嘆くでもなく、その方法ならば自分の希望もウィリアムの希望も叶えられるという願ってもない提案に、ルイスは純粋に喜ぶのだった。




(兄様、この生地はどうでしょう?)

(あぁ、悪くないな。けどせっかくのデートだろう?もう少し明るい色を選んでも良いと思うが)

(明るい色というと、ネイビーやインジゴでしょうか?)

(それよりももう少し明るい…そうだな、グレイをベースにしてはどうだい?)

(…あまり着慣れないのですが、似合うでしょうか?)

(あぁ。ブラックのような暗い色はルイスの肌の白さを際立たせてくれるけれど、今回は肌に馴染む明るい色を選ぼうか。ストライプベースのアッシュグレイなら浮くこともなく着こなせるだろうし、見慣れない色はきっとウィリアムの興味も引いてくれるはずだよ)

(兄様がそういうのであれば…)

(タイはいつものボウタイではなく、リボンやクロスが良いだろう。色は瞳と合わせてワインレッドかボルドー…ルイスの雰囲気に合わせてラベンダーでも良いかもしれないね)

(さすが兄様ですね。僕では考えつかない組み合わせです)

(それほどでもないさ、ルイスは元の素材が良いから選びがいがある。さぁ着替えておいで)

(はい!)


(今日はありがとうございました、アルバート兄様。これは僕からのお礼の気持ちです。受け取ってください)




(ウィリアム、何を贈るか検討は付けてあるのかい?)

(当日の朝に渡そうと思っているので、身に付けてそのまま外に出られる装飾品の類を考えています。僕が贈ったものを身に付けているルイスと出かけたいと思いまして)

(なるほど。それならチーフやブローチが良いだろうな)

(ネクタイやタイピンも候補に入れているのですが)

(…いや、それはやめておこうか。別の機会に贈るといい)

(そうですか?まぁアルバート兄さんがそういうのであれば…では、チーフかブローチを選ぶことにします)

(あぁ。あの子は自分を飾ることに慣れていないから、とびきり華やかなものでもいいかもしれないな)

(そうですね。ルイスが気に入ってくれるものが見つかると良いのですが)

(ウィリアムが選んだものならルイスは気に入ってくれるさ)

(ふふ。兄さん、実は雑誌で見かけたチェーンブローチで気になっているものがあるんです。ルイスに似合うか判断してもらっても良いですか?)

(勿論。さぁ時間は有限だ、早速探しに行こうか)


(今日はありがとうございました、アルバート兄さん。ささやかではありますが、僕からのお礼です)




弟達からのお礼の品。

せっかくだからとすぐに開けたい気持ちを耐えに耐え、二人のデート当日に開けることにした。

そうして中から出てきたのは、アルバートの瞳をイメージしたであろうグリーントルマリンのタイニーピンだ。

ブランドは違えど同じものを選ぶそっくりな弟達に、アルバートは愛しさのあまり思わず吹き出してしまうのだった。