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yoyo

自分だけの楽しいこと

2021.02.19 15:00

電車の最後尾に乗るとLUMIXのコンパクトカメラを首からかけた少年が線路を眺めていた。自分だけの楽しみを知っている横顔だった。楽しいと思ったものが自分の手から離れていってしまうのはなぜだろうと考える。車窓からは白いベランダが春の午後の陽を浴びているのが見えた。ピンチに挟まれたTシャツの揺れ。スマホを見ている間に少年はどこかへ行ってしまった。

ジュンク堂併設の喫茶で手帳と創作ノートを開く。そろそろ席を離れた方がいいかとか周りを気にしてしまうので外で作業をするのは落ち着かないのだけれど、ここはワンドリンク1時間半と決められているのが良い。許された気持ちでゆったりできるし集中できる。1時間半時間いっぱい使ってでる。

大正アンソロを書くにあたって、学生時代に作ったブックリストが少しだけ役に立っている。ちゃんとしたものではないし、もちろん全部読んだわけではないが、あの頃手に取った本をもう一度手にすると、懐かしく、自分のやっていることの変わりのなさにほっとすると同時に、何も進歩していないような気がして焦る。

教授や先輩の言っていたことを思い出す。どこにも書いていないけれど、隅から隅まで記憶しているわけではないけれど、今でも覚えている言葉。そういうものが自分にもある。そのことにほっとする。

とはいっても資料的なものばかり読んでいると焦ってしまうので、まずは現代に書かれた大正時代の女学生ものを読もうとレファで尋ねてみる。また連絡をしてくれることになる。昨日まで在架だったはいからさんが通るは借りられていて悲しかった。

駅のホームから綺麗な夕陽が見えた。真っ赤な夕陽。けれども夏の雨上がりのような激しい赤ではなく、ほんのり桃色がかった、神坂雪佳の木版画のような紅色だった。まぎれもない春。