ご挨拶
私たちの劇団はシェイクスピアの全作品37作の上演をめざし、1975年5月に旗上げしました。 当初は、シェイクスピアの持つ言葉の素晴らしさ、イメージの豊饒さを観客の皆様にわかってもらうために、あえて衣装・装置を廃し、普段着のシェイクスピアとしてスタートいたしました。お陰様で、そのスピーディーな展開、現代的な感性は激しく観るものの心をとらえ、「Gパンシェイクスピア」の異名とともに東京のみならず、全国の市民劇場・公共団体、そして、中学から高校まで数多くの要請を受け上演を続けてまいりました。 その後、1981年5月にシェイクスピアの全作品を上演達成するに至り、それを機会に、さらに楽しい、内容の深い芝居を、皆さまに提供するために様々な努力を積み重ねてまいりました。
言うまでもなく、シェイクスピアの作品は古典の中の古典であります。そして古典とは、現代に生きる私たちの心に、依然、強い衝撃を与える作品のことをさしています。「シェイクスピアシアター」のシェイクスピアは、このシェイクスピア作品の持つ衝撃力を正しく読みとり、それを出来るだけ具体的に観客に伝えることを第一の目標にして来ました。また古典を現代に生かす方法もあれこれと模索してきました。その結果、現代には程遠い存在であったシェイクスピアを身近な存在にすることに成功したのです。
シェイクスピア体験は、私たちに色々なことを教えてくれます。しかし、まず何よりも私たちの心を打つのは、シェイクスピアの描く人間たちが、実にはつらつとした生命力の持ち主だと言うことであります。自分の人生をその極限まで生き抜いていくエネルギーの大きさ、強さであります。愛する時も、戦う時も、シェイクスピアの人間たちはその果ての果てまで、その底の底まで徹底的に生きて見せてくれます。要するに、シェイクスピアの描く人間たちの情熱は、太宰治も言ったように、とても太いのです。その太さに触れる事によって、私たちは忙しい日常を過ごすうちに、どこかに置き忘れた生命の根源的な力を取り戻すというわけなのです。これがシェイクスピアの体験の核心であり、同時に、芝居と私たちの関係の本質的な姿ではないかと考えています。
従って、シェイクスピアを上演する場合だけではなく、近代劇、現代劇を上演する場合にも、この観点に立って、シェイクスピアシアターは公演活動を展開してまいりました。 現代は人間性喪失の時代とよく言われます。その意味においても、シェイクスピア体験、つまり、人間の根源性を把握することに根ざした演劇活動を続けるシェイクスピアシアターの芝居は、心に深い感動を与えるものと確信し、ここにご案内申し上げる次第であります。
シェイクスピアシアター主宰・演出家
出口典雄