GDP:#5 コンピュータ化システムに対する要件④
こんにちは、田中です。
さて、これまで3回にわたり連載してきましたGDPにおけるコンピュータ化システムに対する要件も、今回で最終回となります。 前回は厚生労働省「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」の3.5.4章まで確認しましたので、今回は3.5.5章からとなります。
3.5.5 システムが故障又は機能停止に至った場合の手順を定めること。これにはデータ復元のための手順を含むこと。
3.5.6 医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(薬食監麻発 1021 第 11 号 平成 22 年 10 月 21 日)を参考とすること。
事業継続性
3.5.3章では、コンピュータ化システムにおいても事業継続のための手順を策定し、有事の際には業務およびシステムを復旧できるようにあらかじめ整備しておくことが求められています。
事業継続性については、PIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察協同スキーム)のGMPガイドラインにて、コンピュータ化システムの要件がまとめられている「Annex 11 Computerised Systems」(以下、PIC/S Annex 11)でも以下のとおり述べられています。
16. Business Continuity
For the availability of computerised systems supporting critical processes, provisions should be made to ensure continuity of support for those processes in the event of a system breakdown (e.g. a manual or alternative system). The time required to bring the alternative arrangements into use should be based on risk and appropriate for a particular system and the business process it supports. These arrangements should be adequately documented and tested.
16. 事業継続性
重要工程をサポートするコンピュータ化システムの有効性のために、システムの故障が発生した場合の工程のサポートの持続性を保証する規則を作成すること(例えば、手動或いは代替のシステム)。代替手段を使い始めるのに必要な時間はリスクに基づき、特殊なシステム及びシステムがサポートする業務に適応していること。この処置を適切に文書化し演習すること。
また、厚生労働省の「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について」(平成22年10月21日)(事務連絡)(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課通知)(以下、適正管理ガイドラインQ&A)では、下記のとおり業務の継続性について解説がなされています。
問4
回答3でいう、業務の継続性とは具体的に何か、またそれを確保する上でどのような措置が考えられるか。
回答4
ここでいう業務の継続性とは、コンピュータ化システムに故障やシステムトラブル等が発生し、業務が中断されることを避けるため、事前に故障やトラブルからの回避のための措置を講じることや、万一、故障やトラブルが発生した際には、当該業務を継続可能とするための何らかの措置が用意されており、継続して当該業務が遂行可能な状態となっていることを言う。業務の継続性の必要性は、当該業務に関するリスクアセスメントの結果等を考慮して決定される。
コンピュータ化システムの継続性を確保するための措置には、例えば、地震などの天災の発生を考慮した設置条件の設定やデータのバックアップ(バックアップの方法や保存方法等)、また、故障やトラブルに備えて、全く同一の代替のコンピュータ化システムをあらかじめ用意しておく方法や、予めマニュアルによる手順を規定しておく方法等が考えられる。またシステムの復旧のための措置の手順を予め定めておくことや、復旧に備えて定期的にデータのバックアップを保存する等も含まれる。
コンピュータ化システムがバリデートされた状態を保つため、これらの措置については、予めその適格性を確認しておく必要がある。
なお、GAMP5では、データのバックアップとリストアの手順は定期的に検証されるべきであると述べられています。ただし、手順におけるエラーによってデータ損失を引き起こす場合があるため、本番環境へのリストアは推奨できないともされています。そのため、検証環境を用いてバックアップデータをリストアしたり、机上でリハーサルしたりすることが一般的な検証方法となっています。
GDPにおけるCSV活動
最後に3.5.6 章では、GDPにおいてもGMPと同様に厚生労働省の「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(以下、適正管理ガイドライン)を参考にコンピュータ化システムの管理を行うことが求められています。
実際にCSVを実施するにあたっては、適正管理ガイドラインとともに前出のPIC/S Annex 11やGAMP5も参考に、患者の安全、製品の品質およびデータの完全性に関わるリスクに応じて各種活動を推進していくこととなります。 なお、GAMP5ではリスクアセスメントの手法が紹介されおり、その手法を取り入れることによって、より効率的なCSV活動を実現することができるでしょう。
おわりに
これまで4回にわたって、コンピュータ化システムに対する要件として下記が求められていることをご紹介してきました。
- バリデーションの実施
- システム記述書の作成
- データインテグリティ対応
- 事業継続性の確保
今回でGDPにおけるコンピュータ化システムに対する要件のご紹介は完結となります。次回は、GDPガイドラインで取り上げられているコンピュータ化システムを中心に、CSVの対象となるであろうシステムをご紹介していきたいと思います。
補足:
PIC/S Annex 11は、コンピュータ化システムに対する規制の実質的なグローバルスタンダードであると広く認識されています。一方で、日本では適正管理ガイドラインがコンピュータ化システムに対する規制となりますが、本文には事業継続性についての明確な記載はなく、別途発出されたQ&Aにて言及されるにとどまっています。そのため本記事では、グローバルの規制ではありますがPIC/S Annex 11を先にご紹介し、次いで適正管理ガイドラインQ&Aをご紹介しています。いずれにおいても日本でコンピュータ化システムの事業継続性を検討する上では考慮すべき規制であるとご理解いただければと思います。