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マヤ

三代目❤夢小説(臣隆編sixth)『冬恋 63』

2021.02.23 00:50

隆二…隆二…




白い空間に向かって、何度その名を呼んだだろう。




普段は照れくさくて、そんなに口にはしないのに…




香ばしい肉の香りが鼻孔をくすぐり、目を覚ました。




ここは?




ああ、ガラスイグルーの中だ。




「目が覚めたかい?」




白髪の女性は同じ場所に胡座をかいたまま、こちらを見ている。




「俺、眠って…」




「スコッチをひっかけてそのまま…どうだい?カラダも少しは楽になったろ」




本当に…寒気もおさまって随分とカラダが軽いし、目眩もしない。




「今、何時ですか?俺、行かないと…」




「まぁ待て。栄養も取ってからだ」




女性は野菜がたくさん入ったスープを鍋から木の器に盛り、俺の前に置いた。




肩からトナカイの毛皮を引っ掛けたまま、その器を手に取った。




「すみません、いただきます」




「遠慮はいらんよ」




木のスプーンで口に運ぶ。




五臓六腑に染み渡る優しい温もり。




「…美味い」




女性は少し笑顔になって、大きな肉の塊を木のまな板の上でスライスしている。




白髪だが、少し日に焼けた健康的な肌にはシワひとつない。




思ったよりうんと若いのかな?




細身で筋肉質、アスリートのような体つきをしている。




そして、母国の言葉を話す。




「トナカイの肉だ、美味いぞ!ああ、マスタードがあったな」




俺の前に肉を差し出して立ち上がり、冷蔵庫の中をガサガサし始めた。




「いただきます」




ローストビーフの様な色合いの肉をそのまま口に入れた。




「美味い」




「そうだろう」




「亜種のトナカイは時速80キロという速さで、極感の雪と氷の世界を900キロも移動するんだ」




「人間の様に太ったものも、家でじっと篭って暮らすものもいない。ほら、マスタードもいけるぞ」




瓶詰めのマスタードを置いて続けた。




「寿命が尽きた仲間の肉も決して無駄にはしない」




「飽食っていうのは、人間だけがする愚かな行為だな、まったく…」




それから何も話さなくなり、ワイングラスに入った茶色の液体ースコッチかなーをグイッと飲んで、俺を見ている。




「ずっと名を呼んでた、男の名だ」




吹き出しそうになって慌てて手の甲で口元を拭った。




「俺ですか?やっぱり…」




「自然界では珍しいことじゃないさ」




「はぁ…」




「惚れてんだな」




「……」




「嵐もだいぶおさまってきた。しっかり食ったら行きな」




女性はニコッと笑って白い髪をかきあげた。




つづく