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病は気のせいです!

2021.02.23 02:02

喉が痛くて目が覚めた。朝の日差しがカーテンの隙間からこぼれ落ちている。

森羅はベットの上でムクリと起き上がった、と同時に起こっためまいに頭を押さえる。

喉がヒリヒリ痛くて、体がだるかった。なんだか心当たりのある症状だったが、冷たい水でも飲めばスッキリするだろうと梯子を降りた。

途端、背後で大きく咳き込む音がした。森羅はくるりと振り返る。布団の上からアーサーが真顔でこちらを見ていた。

「……」

無言でしばらく見つめ合う。

「……風邪ではない。」

「おう。」

アーサーの断言に森羅も同意する。

「昨日ちょっと多くランニングしたからその名残だ、きっと。」

「そうに違いない。」

森羅の予測に、アーサーがキッパリとうなづく。

「風邪は鍛え方が足りないとひくもんだ。」

「騎士たるおれがかかるはずがない。」

どう見ても二人は風邪っぴきであった。そしてもし片方だけが罹っていたのなら、鼻で笑ってベットに押し込んで大隊長に病欠の連絡をしに行った。

だけど、二人同時に罹ってしまったら、熱に浮かされた頭を意味のない競争心が支配した。

二人は普段通りを取り繕って、つなぎに着替え勤務に向かった。

「森羅具合悪い?」

初めに気がついたのは茉希だった。朝礼で隣に並ぶ森羅が眉間に皺を寄せながら、痛みを堪えているのを見つけた。

「いえ、大丈夫です!、ゲホッ」

から元気に答えるも、語尾に咳き込んでは意味がない。全員が一斉に森羅に注目した。

「やっぱり、昨日汗も拭かずずっと走り回っていたツケが来たな。」

聞いても聞かないと競い合う二人を放っておいたのがいけなかったと火縄は思った。

「風邪なんてひいてないです、ちょっと唾液が変なとこに入ってむせただけです。」

いつもは素直な森羅が妙に強情に首を振った。

「森羅、体調管理も立派な仕事だぞ?」

桜備は眉を下げた。

「フッ雑魚め。」

「あ?お前だって朝咳き込んでたじゃねーか!」

自分のことを棚に上げてアーサーが笑う。森羅はすぐさま不届き者の肩をどついた。

「ぅおっと。」

その拍子にアーサーがぐらつき環にぶつかる。

「わ!何すんだ……ってアッツ!」

「アーサーさんも調子が悪そうですね。」

剣士であるアーサーがあっさりバランスを崩したのを見て、アイリスが言った。

「いや、悪くない。悪くないぞ。風邪をひいているのは軟弱な森羅だけだ。」

「はぁ〜?お前もひいてるだろ!」

「ひいてない。」

「ひいてる!」

一瞬でアーサーと森羅は小競り合いを始めた。森羅が蹴りを、アーサーが抜刀しようとし、止まった。

「エクスカリバーを忘れた!」

アーサーがバッと身を翻して駆け出した。熱で判断力がゼロになっている森羅がすかさず追いかける。

「逃げるな!」

脱兎の如く大隊長室から出ていく二人に、桜備が瞬時に叫んだ。

「総員!風邪っぴき二人を確保!」

『了解!』

手のかかる隊員のために全員勇んで部屋から出た。無駄に体力のある少年二人はもう遥か遠くにいるらしく口喧嘩だけしか聞こえない。

桜備はそれを猛烈な勢いで追いかけた。

「私たちは看病の準備をしましょう、氷枕と薬を持ってきますね。」

そう言ってアイリスと環が階下に消える。

「茉希、大隊長の補佐だ。おれは療養食を作ってくる。」

「ハイ。」

火縄はキッチンへ、茉希は口喧嘩の聞こえる方へ走り出す。

茉希が桜備に追いつくと、少年二人はもうその腕の中に捕獲されていた。

「さー捕まえたぞ、部屋に戻るんだ二人とも。」

いつもの笑顔で桜備が森羅たちに言い聞かせている。もだもだもがきながら少年たちはごねた。

「めまい吐き気頭痛は気のせいです!」

「そうだ!デバフ解除を受ければすぐ元に戻る!」

「いーや、大人しく看病されろ。」

暴れる二人を抱えながも桜備は楽しそうであった。

茉希もすぐ走り寄って、森羅の額に手を当てる。

「ほら、しっかり熱があるじゃないですか。もう動いちゃダメです。」

次いで、アーサーの体温を測る。揃って結構な熱だった。

茉希の後追いが効いたのか、少年たちはとうとう大人しくなった。

桜備直々にベットに寝かしつけられて、森羅とアーサーはなんとなく照れ臭そうだった。

「ちゃんと寝ろよー。」と頭を撫でていく桜備にはにかみながらうなづいている。茉希に見張りを頼んで桜備は部屋から出て行った。

「氷枕と薬、持ってきたぞ。」

環とアイリスがやってきて、森羅とアーサーの頭の下に氷枕を押し込んだ。ベットの縁に乗って背伸びをしながら森羅の頭の下に氷枕を詰めた環がついでとばかりにデコピンした。

「早く治せよー!出動になったら困るだろ」

「お大事にしてくださいね。」

アイリス達が出ていくと、今度は火縄が盆に土鍋を乗せてやって来た。その後ろからヴァルカンも顔を出す。

「よぉ、お前ら二人が大人しく寝るように子守唄メカ持ってきたぜ。名付けてヒーリングフロッグ。」などと言いながらブサイクなカエルを机の上に置いた。

「よく食べてよく寝て、とっとと風邪菌をブチ殺せ。」

卵雑炊を二人分取り分けて、火縄が厳命する。

「はい!」

「任せておけ。」

熱々の雑炊を頬張りながら森羅とアーサーが真面目に返事をする。

食事を終えて、薬を飲んだのを見届けてから、茉希は部屋のカーテンを閉め、電気を消した。朝の騒動で体力を使っていたらしい森羅達はもう枕に頭を預けている。

茉希はヴァルカンが置いていった装置のスイッチを入れるか迷ったが、吹っ飛んだら嫌なのでやめた。

「おやすみなさい、森羅、アーサー。早く元気になってくださいね。」

ドアを閉める際に見かけた二人の寝顔は幸せそうに緩んでいた。

おしまい