初めての家族、初めての兄様
僕の兄さんが増えた。
新しく兄になったのはアルバート・ジェームズ・モリアーティという伯爵家次期当主が約束されたお方だ。
今まで僕の兄さんはたった一人で、僕のことを見てくれたのも僕のことを守ってくれたのもその人だけだった。
兄さんさえいれば他には何も望まないと決めて生きていたのに、その兄さんが兄だと認める人と出会ってしまったのだ。
兄さんの兄さんならば、僕にとっても兄さんだ。
ゆえにアルバート様は必然的に僕の兄になる。
「アルバート様が、兄さん…」
彼は僕達兄弟がモリアーティ家に引き取られて一年もの間、僕がずっとずっと疑っていた人だった。
いくら崇高な目的があろうと、自らの家族を手にかけようと、屋敷ごと全てを燃やしてしまおうと、いきなり彼と家族になるだなんて受け止めきれないし、どうせ僕は兄さんのおまけに過ぎない。
兄さんを引き込むために僕の病に目を付けたのだろうことは、疎い僕でもよくよく理解している。
そんな打算的な人だと理解していても、三人きりの家族になってからのアルバート様は僕に対してもとても優しい人だった。
「ルイス、体の調子はどうだい?あまり無理をしてはいけないよ」
「ルイスはもう少し食べた方が良いね。ほら、たくさんお食べ」
「庭掃除を手伝っていたのかい?お疲れ様、タオルを持ってこようか」
今までに僕が見てきたアルバート様はいつも険しいお顔をされていたから、きっとそういう方なのだろうと思っていた。
貴族なのに気を張り詰めてばかりで、まるで孤児院で世話になる前の僕達のように余裕がなさそうな姿をよく覚えている。
けれどあの屋敷で過ごした一年間がまるで偽りだったかのように、今の彼はとても穏やかな表情をしていることが多かった。
きりりと釣り上がった眉と同じように目尻も釣っているのかと思いきや、本当は甘く垂れた目元の持ち主だと気付いたのは最近のことだ。
決して柔和な顔立ちではないのに、醸す雰囲気は穏やかで居心地が良かった。
「ルイス、課題は出来ているかい?もうそろそろ家庭教師の先生が見える頃だよ」
「大丈夫です、兄さん。もう出来ています」
「そう、偉いねルイスは」
ロックウェル家の居候だというのに、伯爵様のご厚意で家庭教師による学びを受けられるのもアルバート様の根回しによるものだ。
兄さんはともかく僕は戸籍上もただの養子に過ぎないというのに、モリアーティ家の子息として恥ずかしくないように、と考えてくれているらしい。
そんなことをしても僕は何も持っていないし、与えられたものを返すことは出来ないのに。
嬉しいけれどどこか居た堪れなくて、感謝以上に申し訳ない気持ちを抱いてしまう。
「アルバート兄さんはね、打算だけで僕達に優しくしてくれているわけじゃないと思うよ」
「…?」
「彼には家族がいない。ふふ、僕達が焼いてしまったからいないのは当然だね。でも、そうじゃないんだ」
「…どういう意味ですか?」
家庭教師の授業を終えた僕と兄さんは、既にイートン校の主席としてたくさんのことを学ぶ必要があるアルバート様の授業が終わるまでを待っていた。
人の目が入るリビングではなく兄さんに充てがわれた私室でソファに腰掛けて話していると、唐突に話題が逸れていった。
アルバート様には確かに家族がいたはずだ。
父親にも母親にも捨てられた僕達と違い、父も母も弟も健在だったのは間違いない。
兄さんの言う通り、僕達が全員焼いてしまったけれど。
「アルバート兄さんの家族は彼にとっての家族じゃないよ。あの人達は彼とは似ても似つかない穢れた魂の持ち主だ。この階級社会に染まり切っている悪魔そのものだったね」
「はい」
僕はモリアーティ家の人間に怪我をさせられたことはない。
執事やメイド含め、あの人達に嫌味を言われることや差別的な行為を受けたことはあれど、体に傷を付けられたことは一度だってなかった。
何度かあの弟から標的にされたことはあったけれど、それも含めて全て兄さんが僕の分まで傷付いてきたからだ。
大分薄くはなってきたけれど、今も兄さんの体には酷い仕打ちで負わされた傷が残っている。
白いシャツの上からその腕に触れてみれば兄さんは気にしていないように笑んでいて、ますます過去の自分の非力さが嘆かわしくなってしまう。
何もしていないのにあんな酷いことをするなんて、あの人達は兄さんの言うとおり悪魔そのものだ。
「でもアルバート兄さんは違った。この傷を見て悲しんでくれたし、自分の責任だと身内の非を恥じていた。あれは演技ではなく、アルバート兄さんの本心だよ」
「…はい」
「アルバート兄さんは理不尽を許せない人だ。ご自分の倫理観と正義感を信じ、周りに染まりきらず信念を持って生きていた人だよ」
「……はい」
「いや、染まりきれなかったというべきかな…染まってしまった方が楽だったろうに、楽な方に逃げる自分を許せなかったんだろう。そのせいで彼は今までずっと、家の中でも学校の中でも独りきりになってしまった」
アルバート様を心から慈しむように、兄さんは優しく笑っていた。
その表情はどこか寂しそうで、アルバート様の今までを悲しんでいるようにも見える。
「自分を育ててくれた両親とも、自分と同じ血が流れている弟とも相容れなかったアルバート兄さんは、今までずっと独りぼっちだったんだろうね。彼には彼自身のことを心配してくれる人も、心配したいと思える人もいない状況で、ずっと独りだった。あんなに広いお屋敷で誰にも必要とされずに生きるのは、とても寂しいことだったと思うよ」
「…」
今まで僕達が住んでいた場所のどこよりも広くて綺麗で清潔な屋敷。
そんな中でアルバート様はずっと独りだったのだと、僕は今になってようやく知った。
僕にはずっと兄さんがいてくれて、兄さんが僕を必要としてくれたから苦しくても頑張って生きてきたけれど、アルバート様にはそんな人が誰一人としていなかったのだ。
あの両親が見ていたのは伯爵家の跡取りで、あの弟が見ていたのは貴族にあるまじき異端児だった。
もしかすると、自分の息子とも自分の兄とも正しく認識していなかったのかもしれない。
僕の体調を気遣い、僕にお菓子を分けてくれて、僕に真っ白いタオルを用意してくれたアルバート様は、誰かのことをとてもよく見ている方だと思う。
そんなアルバート様が躊躇なくその命を奪ってしまえるほどの悪。
血を分けた家族だったはずなのに、誰もアルバート様のことを見てくれなかったのだろうか。
アルバート様はきっと父親のことも母親のことも弟のこともたくさん見ていたはずなのに、そんなアルバート様のことは、あの屋敷に住まう人の誰もが見てくれなかったのだろうか。
確かにそれは想像だけでもとても寂しくて、悲しいことだと思う。
「アルバート兄さんには家族がいなかった。だから、彼は僕達と家族になろうとしているんだよ」
「僕達と?」
「あぁ。悪魔のいない美しい世界を見たいというのは彼の本心だろう。でも、そのためだけに僕とルイスをモリアーティ家に引き入れたわけじゃないと思う。今まで彼はずっと一人だったから、同じ価値観を持つ僕達と家族になりたかったんじゃないかな」
独りぼっちは寂しい。
僕も兄さんがいなかったらきっと寂しさで押し潰されていただろうし、兄さんもずっと前に僕が迷子になったときにそう言っていた。
人は独りでは生きられないのだ。
僕には生まれたときから兄さんがいたのに、アルバート様は生まれてから十四年もの間、ずっと独りぼっちだった。
それなのに悪魔と同じく落ちぶれることなく、歪んだこの世界が間違っていると己を信じ生きてきた。
とても強く、とても気高い人だと思う。
そんなアルバート様は、僕達と家族になりたいのだと兄さんは言う。
兄さんは頭が良くて、この世界を変えてしまえるだけの可能性を秘めた人だ。
僕は兄さんの弟で家族であることをとても誇らしく幸せな現実だと思っている。
きっとアルバート様も兄さんの家族になれることを誇らしく思っていることだろう。
でも、だけど。
「…僕も、ですか?」
「ん?」
「兄さんだけでなく、僕もアルバート様に、家族になりたいと思ってもらえているのでしょうか」
僕はしょせん兄さんのおまけだ。
アルバート様が僕のことを見て優しくしてくれるのもただの気紛れかもしれない。
兄さんを引き止めておくための材料に過ぎないのかもしれない。
でも、もしアルバート様が兄さんだけでなく僕のことも家族として欲してくれているのなら、僕もアルバート様の家族になりたいと思った。
彼の優しさが計算されたものでも僕はその優しさが嬉しかったし、今まで独りぼっちだった彼を助けられるのなら、与えられた優しさを返すことが出来るのかもしれない。
そう、僕は僕に優しくしてくれたアルバート様に恩返しがしたいのだ。
与えられてばかりではいけないのだと、兄さんを見て学んできたのだから。
「…もちろん。兄さんはルイスと家族になりたくて、君のことを見てくれているんだよ」
「そう、なのでしょうか」
「僕は彼が僕達の兄さんになってくれて良かったと思う。貴族の中にも彼のような人がいると分かって、僕はとても救われたから。優しく気高いアルバート兄さんが家族になってくれて、僕は心強く思っているよ」
「兄さん…僕も、アルバート様が家族になってくれて、嬉しいと思います」
兄さんが嬉しいのなら僕も嬉しい。
アルバート様が家族になってくれて、嬉しいと思う。
だって、アルバート様は初めて兄さん以外に僕のことを見てくれた人だから。
「兄さんの兄さんなら、僕にとってもアルバート様は兄さんですよね?」
「そうだね。ルイスに新しい兄さんが出来たことになるね」
「…いつか僕も、アルバート様を兄さんと呼んでみたいです」
「きっと喜んでくれるよ」
兄さんが言っているのだから、アルバート様が僕を家族として欲しているのは間違いないのだろう。
そうすると僕は彼の弟で、彼は僕の兄なのだ。
弟は兄を兄さんと呼ばなければならない。
それは想像だけでもとても幸せなことだと思う。
兄さん以外に誰もいなかった世界が少しだけ開けていくような、アルバート様を通して気持ちが安定するような心地がした。
「僕、アルバート様に相応しい弟になるためにもっともっと頑張ります」
兄さんが認めた人に、ちゃんと僕を弟として認めてもらわなければ彼を兄さんだなんて呼ぶことは出来ない。
まずは勉強を頑張って、モリアーティ家に恥じない人間にならなければアルバート様の弟を名乗ることは許されないだろう。
そうしていく中で少しずつアルバート様と仲良くなりたいと思う。
ちゃんとした貴族になり、アルバート様と仲良くなり、そうして彼の家族となった上で兄さんと呼ぶのだ。
「僕も応援しているよ、ルイス」
「はい」
優しく髪を撫でて微笑んでくれる兄さんは、きっとすぐに仲良くなれると思うよ、と確信めいたことを言ってくれた。
それからのルイスは今まで以上に懸命に勉学に励み、訓練に励み、養子という立場であろうとモリアーティ家の名に恥じぬ振る舞いを身につけるべく完璧な礼儀作法を身に付けた。
ウィリアムとよく似た髪色とその顔立ちと相まって、事情を知らなければ本当にモリアーティ家の実子だと思わせる気品の良さすら漂っている。
それがウィリアムには嬉しくて、ルイスの頑張りが実を結んでいるのだと目に見えて実感出来るようだった。
当然、アルバートの目から見てもルイスは誇るべき家族である。
ウィリアムと、そしてアルバートを見て必死に真似している弟は健気でとても可愛らしい。
「ルイス、アルバート兄さんと図書館に行ってこようと思うんだけど一緒にどうだい?」
「…お気持ちは嬉しいのですが、まだ先週出された課題が終わっていないので…」
「どんな内容だい?手伝おうか」
「い、いえ、お気持ちだけで嬉しいです、アルバート様。どうぞお二人で行ってきてください」
「そう…じゃあルイスが気に入りそうな本を借りてきてあげるね」
「なるべくすぐに帰ってこよう」
「ありがとうございます。行ってらっしゃいませ、アルバート様、ウィリアム兄さん」
なるべく自分のことは自分でやりたいのだとルイスの瞳が訴えかけるものだから、ウィリアムもアルバートも深く言及することなく屋敷を後にする。
アルバートは己の目を養う意味で使用人を介した本の貸し借りはせず、自らの足で図書館に赴いては必要な資料及び本を探し出すことにしていた。
その行動にはウィリアムも賛成で、気分転換も兼ねてしばしばルイスと三人で図書館に行くのが三兄弟の日常だ。
今日はルイスに断られてしまったけれど、次の機会には三人で向かうことになるだろう。
「…ウィリアム。中々ルイスが心を開いてくれないのだが、どうしたら良いだろうか」
馬車の中、神妙な面持ちでアルバートは真正面に座るウィリアムを見た。
ウィリアムは随分と気を許してくれていることが分かるし、彼に全てを捧げた身ではあるけれど、今のアルバートは彼の兄だ。
だがウィリアム自身が兄気質であるため、あまり弟という感覚はしない。
どちらかといえば同類、兄同士かつ先輩といった感覚だろうか。
それでも家族として接することが出来て概ね満足なのだが、アルバートは未だ懐いてくれない末の弟を考えながら綺麗な眉を中央に寄せていた。
「焦らず見守っていてあげてください。ルイスはルイスなりに頑張っているので」
「そうだろうか…未だに僕が声をかけると表情が固まってしまうんだが」
「それは…」
僕以外を見ないよう徹底して囲ってきたからどう対応すれば良いのか分からないだけです、とはさしものウィリアムでさえ声に出すのは憚られる。
確かにアルバートと話すルイスは少しばかり肩が上がるし緊張した様子が隠せていない。
けれど嫌悪は感じられないし、あれでも随分と馴染めた方なのだ。
人見知りの気質が強いルイスは幼子ならともかく、同年代以上の人間と接することが苦手だ。
いつもウィリアムの影に隠れてやり過ごしていたはずのルイスが、ちゃんとアルバートの目を見て言葉を交わしているのだから十分な進歩である。
時間はかかっても着実にルイスはアルバートに慣れていく。
アルバートが気にするようなことは一切ないのだと、ウィリアムは兄としての余裕を持ってして朗らかな笑みを浮かべて彼を見る。
思うようにルイスとの距離を縮められずに悩むアルバートの姿は、それだけルイスのことを大事にしている証拠だろう。
無理矢理に距離を近付けるのではなく、ルイスの気持ちが落ち着くまで待とうと考えているアルバートには好感が持てる。
それでも早く家族として、弟としてルイスと繋がりを持ちたいと焦る様子もウィリアムには嬉しかった。
「大丈夫です。ルイスなりにアルバート兄さんと仲良くなろうとしてくれているんですよ」
「…だと良いのだが。早く僕も君みたいな良い兄になりたいものだね」
「おや、兄さんは立派な兄ではありませんか。僕は兄さんの弟としていられて幸せですよ」
「ふ、よく言う。どちらかといえば兄同士、僕と同類だろうに」
打ち解けたように会話をする馬車の中では本当の家族、本当の兄弟である二人がいる。
図書館までの短い距離、満ち足りた気持ちを過ごすのはどちらにとっても幸福な時間だった。
ウィリアムとアルバートが図書館で本を選んでいる最中、ルイスは早々に課題を終えて一枚の写真立てを手に真剣な顔をして赤い瞳を見開いていた。
二人と図書館に行きたい気持ちは山々だったのだが、やるべきことを後回しにしてはモリアーティ家の名に相応しくない愚行だろうと涙を飲んで耐えたのだ。
だが元が優秀なルイスのこと、集中すればあっという間に課題が終わってしまった。
こんなことなら二人に付いて行けばよかったと後悔することもなく、ルイスは少し前に兄弟で撮影したばかりの写真を見つめている。
「………」
写真の中には美しく微笑むアルバートとウィリアム、そして表情のないルイスがいた。
思うように笑えず無表情になってしまったけれど、それでもルイスにとってこの一枚はとても大切な一枚だ。
アルバートとウィリアムと一緒に写っている写真はこれが初めてで、いつでも二人と一緒にいられる大事な宝物である。
そんな宝物に向けて、ルイスは小さく声を出す。
「アルバート、様…アルバート兄さん、兄さん…うーん…?」
アルバート兄さんだとウィリアム兄さんと被って紛らわしいでしょうか。
ルイスは部屋に篭り一人ぶつぶつと口を動かしては悩ましげに首を傾げて兄の名を呼ぶ。
これは練習である。
いざアルバートのことを兄と呼べる日が来た場合、戸惑わずにその名を呼べるように練習をしているのである。
新しい出来事への適応力が弱いルイスにとって、事前の練習はとても大切なことなのだ。
「ウィリアム兄さん、アルバート兄さん…うーん、やっぱり紛らわしい気がする…そうなるとどうしたら良いのかな…アルバート様、アルバート様…アルバート、兄様…?アルバート兄様、兄様」
ルイスにとってアルバートは自分達を見つけてくれて、優しくしてくれた恩人だ。
兄と呼べるようになっても敬意を忘れずにいたいと思う。
それならば「兄さん」ではなく「兄様」という呼称の方が、ややこしさもなくなりルイスの敬意も表現出来る最適解なのではないだろうか。
不意に口を出た単語にルイスは閃いたように目を輝かせ、数回頷いてから楽しそうに何度も声を出していった。
「アルバート兄様、兄様。うん、しっくりくる。ウィリアム兄さんとアルバート兄様…ふふ」
丁寧に写真を持ち、そこに映る二人の兄を見つめてルイスは満足げに微笑んだ。
この写真を撮ったときはルイスだけがまだ家族になりきれていなくて、兄弟にもなれていなかった。
ウィリアムとアルバートの間にはルイスが入り込めない絆があるようで少しだけ寂しいけれど、いずれそこにルイスも行くのだ。
ちゃんとアルバートと家族になって、兄弟になって、アルバートとウィリアムと一緒に三人でジェームズ・モリアーティになるのだ。
早くその日が来てほしいなと、ルイスは機嫌良さそうに何度も何度もウィリアムとアルバートの名前を呼ぶ。
ここはルイスに充てがわれた私室、ルイスしかいないはずの部屋。
紅茶の用意は断っておいたし、誰が邪魔することもないルイスだけの空間である。
そんな安心感からルイスは一人延々と兄達の名前を呼んでいたが、油断していたがゆえにうっすら開いた扉から二人分の影が見えることに気付いていない。
ともすれば悶える声が聞こえてきそうだけれど、二人の影はかろうじて声を抑えて静かにルイスのことを見守るのだった。
(…ウィリアム、ルイスは弟としてあまりにも完璧すぎるんじゃないだろうか)
(そうですね…まさかこんなにも可愛いことをしているとは僕も想定外でした)
(流石に今突入するのはまずいだろうな?)
(えぇ…拗ねたルイスが引きこもる姿がありありと目に浮かぶので、ここは耐えましょう)
(くっ…せっかくルイスが兄と呼んでくれているというのに目の前に出ることが叶わないなんて…)
(あの様子なら近いうちに呼んでくれるかと思います。今のうちに心の準備をしておいてください、アルバート兄さん)
(あぁ、分かっているさ)
(…さて、いつまでもこのまま見ているわけにもいきませんし、聞いていなかったふりをしてルイスを訪ねるとしましょうか)
コンコン
(ルイス、帰ってきたよ。課題は終わったのかい?)
(あ、ウィリアム兄さん、アルバート兄様!お帰りな、さ…ぃ…!?)
(…思っていたより早かったな、ウィリアム)
(…そうですね、アルバート兄さん)
(と、突然失礼いたしましたアルバート様!今のは深い意味はなくて、あの、その…!)