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前十字靭帯断裂 ~ペットの膝によく見られる外傷~

2021.03.20 02:28

膝には腿(もも)と脛(すね)をつなぐ太い靭帯がいくつかあり、前十字靭帯もその一つです。人はスキーやバスケットボールなどの激しい運動をしたときによく膝の靭帯を痛めることがありますが、犬もさまざまな原因から膝の靭帯を痛めることがあり、場合によっては断裂してしまうこともあります。


膝の仕組み

膝の上には太ももの骨である大腿骨が、下には脛の骨である脛骨(けいこつ)があります。それぞれの骨の末端は軟骨で覆われており、間には半月板と呼ばれるクッションの役割をするものが挟まっています。大腿骨と脛骨は5つの靭帯でつながっており、もっとも太いのは膝のお皿(膝蓋骨)を介して前方にある膝蓋靭帯で、膝の内外側に一つずつ安定させるために内側側副靭帯と外側側副靭帯があります。さらに膝の中には前後を安定させるために2つの靭帯が交差するようにあり、大腿骨の前方から脛骨の後方についている靭帯を後十字靭帯、大腿骨の後方から脛骨の前方についている靭帯を前十字靭帯といいます。


前十字靭帯が切れる原因

前十字靭帯は脛骨が内側にねじれないようにするための靭帯ですが、激しく膝をねじったり、膝を伸ばすような方向で非常に強い力がかかることによって損傷することがあります。多くの場合は交通事故などで外から急激な圧力がかかったり、フリスビー競技などで激しいダッシュやターンを繰り返している時に発症します。また、非常に太っていて常に膝関節に負担がかかっている場合や、高齢で靭帯が弱くなっている場合には少しジャンプしたり走ったりしただけで切れてしまうこともあります。

前十字靭帯と後十字靭帯を比べると、前十字靭帯のほうが細いため、もし膝に負担がかかるとまず前十字靭帯が先に切れてしまうことが多いようです。

また、ダックス・フンド、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ロットワイラーなどの品種は、ほかの犬種よりも切れやすいという報告があります。


症状

前十字靭帯が損傷すると、その足に痛みが生じるため、足を上げたままケンケンで歩いたり、ひきずったりしてその足に体重をかけようとしなくなります。軽い損傷であれば数日でその症状は消えますが、同じように足を使い続けていれば完全に切れてしまうこともあります。もし完全に切れてしまうとその足は体を支えることができなくなってしまい、膝は正常に曲げ伸ばしをすることができなくなってしまうため、半月板が損傷して強い痛みが生じたり、通常と異なる方向に力がかかるようになるため、関節が変形してくることもあります。


検査法

前十字靭帯が損傷しているかどうかは、まず触診によって確認します。関節が腫れて膝の動きにぐらつきが見られたら損傷を疑います。そしてレントゲン撮影を行い、実際に関節がずれているなどの所見により判定を行います。大きな病院であれば関節鏡やMRIなどの装置を使ってさらに細かい検査を行うこともあります。


もし前十字靭帯が切れてしまったら

前十字靭帯を損傷してしまった場合、その治療法は大きく分けると「内科的治療法」と「外科的治療法」の2通りがあります。もし、体重が軽くて大人しい犬であれば、内科的治療法、すなわち消炎鎮痛剤を使いながら安静と減量を行い、周囲の関節包を固めて直していきます。時間が経ち、完全に固定されればこの方法でも今までと同じように歩くことができるようになります。しかし、大型犬で体重が重い場合は、次のような外科的治療法が行われることが多いようです。


靭帯が切れてしまったときの外科手術

前十字靭帯が切れてしまったときの外科手術法にはさまざまな方法があります。ほかの靭帯や人工物を使って前十字靭帯を作り直す方法、関節の外側から靭帯の代わりとなるものを装着して膝関節を安定させる方法、脛骨の端の形を変形させて大腿骨がずれないように固定する方法などさまざまな方法があり、それぞれに長所と短所があります。今でも新しい手法が開発され、様々な獣医さんが創意工夫を行っているところですが、多くの症例が外科手術により元通りの運動機能を回復させています。


予防としてできること

犬の膝は人と異なり、常に曲がった状態です。そのため人の膝よりも常に十字靭帯には負担がかかっていて、体重オーバーになればその負担はより大きくなります。ですので、予防でもっとも大切なことはまず肥満にしないということです。そして常に適度な運動を行って強い靭帯を作っていくとよいでしょう。

また、片方の靭帯が弱くなって切れてしまった場合、それを治療しても反対側の靭帯が同じように切れるケースが多いことをあらかじめ理解しておきましょう。


まとめ

骨折や靭帯損傷といった運動器官のけがは完全に治るまでにとても長い時間がかかります。症状が起こらないように気をつけることがもっとも大切ですが、もし起こってしまったら完全治癒までの長い道のりをあせらずじっくりとペットと一緒に頑張ってあげてください。