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「Le Nuage Bleu」TOMI UNGERER

2016.10.13 11:14

今日はトミー・ウンゲラーの絵本「LE NUAGE BLEU(あおいくも)」をご紹介します。

さっそくお話を。いつもの紹介と違い、あらすじをほとんど全部書いてしまいますので、お話の内容を事前に知りたくない方は、飛ばして読んで頂ければと思います。

空の上に小さな青い雲がいました。

彼は月と友達で、気ままに幸せに暮らしていました。

他の雲が雨を降らせてもしらんぷり、嵐の雲が雷を鳴らしてもふわふわと。

彼はなんでもその青色に染めてしまいます。

凧も、鳥も、飛行機だって。

彼は雨を降らせないのでだんだんと大きくなっていました。そして世界中を見て回ろうと旅に出ます。

彼が通った後の山のてっぺんは青く染まり、ビルの頂上も真っ青になります。

この青い雲は新聞やテレビで紹介されて有名になって、彼を称える人が現れたり。それでも青い雲は気ままに浮いています。

ところがある日、ふわふわと漂っていると真っ黒な煙が漂っているのを目にします。なんだろうと近づいてみると、街が燃えているのです。

もっと近づいてみると、そこで惨劇が行われているのです。

それぞれの色が憎しみ合い、白は黒を、黒は黄色を、黄色は赤を、赤は白を、互いに憎しみ合い殺し合っているのです。

青い雲はこの惨劇を目にすると、この火事を消すために雨を降らせることにしました。彼が降らせる雨は青い雨で、青い雨の、大雨を降らせるのです。最後の一滴まで、彼は雨を降らし、そして消えてしまいます。

惨劇の街の火事は治まり、青い雨に降られた人々は皆青一色に染まり、平和が訪れます。そしてお祭りが始まります。

そして、この廃墟からは新しい街が、自らを犠牲にしたその青い雲を悼み、青く染められた新しい街ができましたとさ。

ウンゲラーは不思議な魅力を持った作家です。個人的には「お話」の力においては、絵本の世界でモーリス・センダックと並んで20世紀を代表するの偉大な作家であると思っています。

彼の代表作「すてきな三にんぐみ」でも感じると思うのですが、彼の物語の深さは「とても古い物語のように感じる」ということだと思っています。グリム童話の中でも特に優れたものを読んだ時に感じるような感覚を覚えるのです。

それは人間の深い部分に作用する象徴の操作をとても上手に扱っている、というような、物語の原型、と言いますか、物語が持つ力の中でも普遍的で基本的な、それだけに力強い部分を、とても効果的に使ってお話を作り上げている感じがするのです。

グリム童話などにおいてはそれが素のままに表れている感じがするのですが(それも魅力なのでしょうけれど)ウンゲラーの作品においてはその同じ根を持つ力がかなりソフティスケートされた形で表されていると感じられます。

わかりやすい形容で言うと「現代のおとぎばなし」のように感じるということなのです。

これが何故なのか、ということまで書いていくと随分と長くなってしまいますので(いつか「すてきな三にんぐみ」について書く時に考察してみたいです)深入りしないでおきますが、ひとつはこのお話が、ある一定の人々にとっては普遍的なもののひとつである「色」についてのお話であることが言えるでしょうか。

そうした根源的な要素を扱って物語を作っている強さがありつつ、しかしその「色」をただ使うだけではなく、色と色が殺し合っている、という社会的な表現にまで持ってきたところにきっと、洗練を感じるのだと思います。

(色と色が殺し合うという表現は20世紀以降の人間にしか不可能な表現だと思います。もしもっと以前にそうした表現がなされていたとしても、今ほどの力をその作品は持ち得てはいないでしょう。「需要と供給」と言う言葉を使うとかなり乱暴ですが「癒やすものと癒されるもの」として20世紀以降の社会においては「色と色が殺し合う」という表現に居場所が与えられているのです)

長くなってしまいました。

素晴らしい作品は、色々と考えることが出来てとても面白いですね。

日本語版は「あおいくも」として出ておりますが、当店の在庫商品はフランス語版です。シンプルなお話なので、フランス語初学者でもストレスなく読めるかと思います。お薦めです。


当店在庫はこちらです。

Le Nuage Bleu」TOMI UNGERER