バロックの時代34-大王とバッハ音楽の捧げ物
2021.02.25 09:26
1747年5月7日、62歳のバッハはポツダムのサンスーシ宮殿に到着した。何とかのフリードリヒ大王からご指名があったのだ。実は次男エマニュエルが大王の宮廷演奏家となって仕えていたのだから不思議はないが、大王は重い宗教音楽よりも軽いフランス風音楽を好んでいたのである。
長男と一緒に行ったバッハは、宮廷に着くや否やそのまま正装に着替える時間もなく、宮廷にある音楽室のフォルテピアノを試奏するように命じられた。そして、なんと大王自ら「王の主題」を演奏され、これを即興で「三声のカノン」に展開して見せよというのである。
さすが、即興演奏の大家バッハは、それをあっさりやってのけて、その場の貴族や宮廷音楽家らから大きな喝采を浴びた。ところが大王は、「では6声に展開してみせよ」というのである。バッハは、「かくも優れた主題をその場で6声にするのは力及ばずでごさいます」と降参して、別の主題の6声を演奏した。
しかしこんなことで済ますバッハではない。後日、見事で複雑極まる6声のフーガを作曲し、銅板印刷して大王に捧げた。バロック音楽の最高傑作といわれる「音楽の捧げもの」はこうしてできたのである。その2年後、バッハは脳卒中に倒れ、1750年に息を引き取る。