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「大嘗祭」の本質を探る

2018.02.27 03:12

https://www.kokugakuin.ac.jp/article/90085  【「大嘗祭」の本質を探る】より

日本列島に暮らす人々とともに

神道文化学部在学生卒業生企業・一般教職員文化

神道文化学部 教授 岡田 莊司 2018年11月14日更新

 天皇陛下の譲位による「御代替わり」まで5か月余り。皇位継承のクライマックスとも言うべき「大嘗祭」について、國學院大學では折口信夫博士の「大嘗祭の本義」などによって研究されてきた。「大嘗祭」の研究を専門とする神道文化学部の岡田莊司教授は「新帝が新穀を供えて感謝を捧げる大嘗祭は我が国の伝統祭祀を貫いてきた。さらに、そこには災害への恐れと備えという日本固有の想いも込められている」と述べる。大嘗祭はまさに、稲作を中心とした日本に暮らす人々の生き方を示すものと言えそうだ。

米だけでなく粟も供え豊穣を祈る

 「大嘗祭の本質は何か」と問われたら、「日本列島に暮らす者たちの生き方の現れ」と答えたい。農耕国家であると同時に自然災害に見舞われることの多い列島で暮らす人々のため、新天皇自らが祈りを捧げ、皇室の祭祀だけではなく「国民とともにある」ことを示すのが大嘗祭の姿だ。

 天皇が毎年お祀りする新嘗祭が基本で、一代一度、皇祖・天照大神を初めてお祀りするときに規模を拡大し、「御代替(おだいが)わり」の最初に行われる新嘗祭が大嘗祭となる。現在では天照大神と全国の神々である天神地祇(てんしんちぎ)に報告するという形を取っているが、本来は天照大神だけだったはず。神饌供膳(しんせんきょうぜん)といってお食事を差し上げる作法が2時間以上続き、日本の国土で穫れたものを神前に供えて天皇もともに頂くことに意味がある。

 大嘗祭で供えられる神饌には、ウミガメの甲羅を焼いて占う「亀卜(きぼく)」で選ばれる悠紀(ゆき)・主基(すき)2つの国(地域)で収穫された米と、その米から作られる「黒酒(くろき)」「白酒(しろき)」が知られる。加えて、奈良や京都といった内陸の都では入手しづらかった海産物や、阿波(徳島県)の麻織物「麁服(あらたえ)」と三河(愛知県)の絹織物「繒服(にぎたえ)」などの地方産品もある。これは、列島を挙げて一代一度の神祭りを協賛することを示すものだ。

 さらに、庶民の食べ物である粟が含まれることに注目したい。米は天照大神からの頂き物で大切なものとして供えられるが、災害対応や国民の食料を守るため「粟も順調に育ててください」との祈りがもう一つ入っていると思われる。中世の祝詞に見られる禍を鎮めるための祈りも含め、災害が多い列島で共同体を維持するための「想い」が組み込まれているのではないか。

皇室と国民が一つになって守り続け

 古代から近世まで国家行事の最高位に位置づけられた「即位礼」は「礼服(らいふく)」などをまとった唐風(かんぷう)の儀式で、中国からの先進情報を盛り込むことで統治者としての力を「外向き」にアピールする狙いがあった。これに対し、大嘗祭は日本古来の伝統を踏襲した形を維持し続けており、内外のバランスを取ってきたと言える。それが明治になって中国的な色合いが排除され、日本古来の姿に近づいてきた。一方、「大嘗祭は御代替わりにおける最も重要な神祭り」とされ、古来伝統的な形式を皇室と国民が一つになって守り続けてきた。

 大嘗祭には悠紀・主基の国の人々が何千人も参加して、祇園祭の山鉾(やまほこ)や各地の祭の山車(だし)の原形となった「標山(ひょうのやま)」というものを引っ張る。宮中祭祀は難しく捉えられがちだが、国民も協賛して社会を維持することや人間が生きていくための一番の本質を天皇の立場で伝えてきたと考えるとどうか。30年前の御代替わりでは、昭和後期の超能力ブームなどと相まって「秘事として見ることはできない部分で呪術的な行為が行われる」との説も流布されたが、そのようなことはあり得るはずがないと分かってくる。

相次ぐ災害、復興への「想い」

 日本は自然災害が多い。特にこの7年を見るとその思いが強い。古代でも災害や飢饉にどのように対応するかということが、天皇をはじめとする人々の一番の「想い」だったのではないか。

 伊勢神道では「元元本本(げんげんほんほん)」と言うが、原点に返ることが神道の根本にある。東日本大震災以降、各地で相次ぐ災害の被災者は「平常に戻りたい」と皆が言い、復興の象徴として「祭」を盛り上げるのに力を注ぐ。日本は「豊葦原瑞穂国(とよあしはらみずほのくに)」といって豊かで瑞々しい稲穂が実る素晴らしい国との理解がある。その姿に戻そうという「想い」を象徴的に表したものが大嘗祭であるのだ。(談)

参考)大嘗祭の主な儀式

【事前に行われる儀式】

斎田(さいでん)点定の儀 アオウミガメの甲羅を焼いて占う「亀卜」によって、神饌となる米を育てる悠紀・主基2つの国(地域)を定める。

大嘗宮地鎮祭の儀 大嘗宮を建設する皇居東御苑での地鎮祭。

斎田抜穂の儀 勅使である抜穂使の点検のもと、悠紀・主基の2国で実った米を大田主(おおたぬし=斎田の所有者)が刈り取る。

庭積机代物(にわづみのつくえしろもの)の奉納 全国47都道府県の特産農林水産物が大嘗宮南庭に供えられる。

【大嘗祭当日の儀式】

悠紀殿供饌の儀

(2019年11月14日)

大嘗宮に設けられた悠紀殿で、天皇自らが神饌を供え、ともに頂く儀式。大嘗祭初日の夜に行われる。

主基殿供饌の儀

(2019年11月15日)

大嘗宮に設けられた主基殿で、天皇自らが神饌を供え、ともに頂く儀式。大嘗祭2日目の未明に行われる。

【後日に行われる儀式】

大饗(だいきょう)の儀 大嘗祭参列者に神饌として供えられた悠紀・主基2国の新穀が振る舞われる直会(なおらい)で、大嘗祭の翌日から催される。