鴨川のキセキ
いつか
長女にこのブログが見つかったら
きっと
怒られるだろう。
でもこのキセキの物語は
それすらも覚悟させるほどに
書かずにはいれなかった(笑)
今回卒業制作展のため
京都に出かけた日
長女と彼氏さんと3人で
昼食を食べていた時
長女の右手の薬指に指輪が
あるのを見つけた。
「あれ?その指輪。
川に捨てたんじゃなかったの?
もしや、また買ってもらったの?」
私が驚いて尋ねると
長女がニヤリと笑う。
「見つけたんだよ」
「えー!川に捨てたのに?
どうやって。。」
すると彼氏さんが
横から
静かにこう言ったのだ。
「金属探知機で」
それは昨年の
クリスマス前の出来事だった。
夜遅くに長女からの電話が鳴った。
最近はめっきり電話も少なくなり
用事もLINEで済ませることが多くなり
久しぶりの電話だった。
「もしもし、久しぶりね」
と言う間もなく
「もう頭にきた。
〇〇君とは別れる。
あんまり頭にきたから
鴨川に指輪も捨ててやった」
どうやら彼氏さんとケンカして
8キロ離れた自分のアパートまで
歩いて帰っている途中の電話らしい。
鼻息荒く
喧嘩の内容を話しているが
気持ちは
わからないでもないけど、
イキリたって
家を飛び出して
お揃いの指輪を
川に投げ捨てるほどの
内容でもなかった。
そう伝えると
「私はそういうのは
許せないもん。
そんなの知らんぷりするような
人は嫌いだし。
それだけでなくて、
その前からいろいろ
頭にきてることがあったから
お母さんには
わからないから」
「いや、だからと言って
指輪を橋から投げるとか
考えなしすぎるでしょ。
どうしてそう、
勢いだけで行動するかな〜」
「もう別れるから
捨てただけだし、
関係ないじゃん」
久しぶりではあるが
またですか。。
ため息がでる。
あんな出来すぎ君の彼氏さんに
勢いで
暴言を吐き
おまけに
橋から指輪を投げ捨てるとか
だいぶ大人になったなぁ
と、思えば
まだそんなことを〜。
ついつい説教口調になる私に
イラついた様子で
「もういい、お母さんには
わからないから!」
途中で電話を切られた。
翌日、
穏やかな文体で
「あなたも勢いで行動して
後悔してるところも
あるんじゃない?
たまには自分から
素直に謝ることも大切だよ」
と、LINEを送ってみた。
「もう別れるから
謝る必要はない。
1人って楽ちん」
その後も
「〇〇君がいないと自由」
と、送ってくる。
謝る様子のなさに
えー、これは
マジで別れるのかな。
あんな出来すぎ君の彼氏さん
というか、
私の精神安定剤
みたいな彼氏さんは
そうそう
現れないですよ〜。
と、私のほうが
オロオロ悲しい気持ちになる。
しかし
やはり
出来すぎ君は
出来過ぎいた。
そのLINEから
5分も経たないうちに
上着をきちんと着て
なぜか
包丁を研いでいる
出来すぎ彼氏さんの
写メが
送られてきた。
「仲直りできたのね!
良かった〜。
でもなぜ包丁をといでいるの?」
と、LINEを送ると
「謝りにきたから仲直りした。
今日は
〇〇君の誕生日だから
リクエストの包丁と砥石をあげたら
私の包丁を研いでくれている」
との返信。
ホッと胸を撫で下ろしたものの
「誕生日に包丁と砥石を
リクエストする23歳男子」
その写メが
面白すぎて
嬉々として夫に話すと
「その包丁で刺されないように」
ってLINEで返信しとけって、
笑っていた。
安心して指輪のことを
すっかり忘れていた。
一度は思い出して
どうしたかなー、
と心配したものの
年末の慌ただしさで
すっかり記憶の底に
落ちていた。
その日、
京都で
長女の指に
指輪を発見するまでは。
「き、金属探知機?
え、川の中から金属探知機で見つけたの?」
指輪をさがすのに
金属探知機を思いつくとは。
相変わらず
突拍子もない。
彼氏さんの言葉を繰り返す。
すると
長女が言う。
「謝りにきてくれたから、
ヤバい、指輪さがさなきゃって
思って。
金属探知機を検索したら
レンタルできたんよ」
彼氏さんは言う。
「予定を共有してるんで、
僕の予定にも金属探知機レンタルの
予定が入ってきて
ピンときました。
〇さんが、
ごめんね、実は〜って
言った時点で
金属探知機ですね、
指輪さがすんですねって」
「そ、それで。
川の中に入って
金属探知機で見つけたの?」
と、かぶりつくと
長女が
「 橋の上から投げた場所
河原だったんよ。
だからさがせるかなって
思ったんだけどさ、
砂利がゴロゴロしてて
砂鉄とかにも反応するから
面倒になって
金属探知機ほったらかしで
結局しゃがんで
捜してたらさー」
「変なおじさんがジーって
見ててさ。
話しかけられたら面倒くさいなって。
ひたすら下向いて捜してたら
どんどん近づいてきてね。
『あのー、すみません』
て、声かけられてね。
キッと顔を上げたらね、
『あなたがさっきから
捜しているものは
これですか?』
って私の指輪を見せたんだよ!
もう、びっくりして
しがみつくように
それですーーーって。
『いや僕もさっき
そこで見つけたんですが
あなたが何か捜しているようだったので
これかなぁと声をかけてみました』
そう言って渡してくれたんだよ」
「えーーー。
すごいね。
そんなキセキのような
話、あるんだね〜。
2.3日経ってて
捜してるときに拾ってくれる
なんてことが。。」
驚きと感心が、
見知らぬおじさんに対する
感謝に変わり
改めてこの
短気すぎる長女が
どこか
常に
守られていることを
感じるのである。
2年ほど前にも
長女が
バスに乗ろうとして
一万円札しかなくて
バスの運転手さんに両替できますか?
と尋ねようとしたら
強風がふいて
手に持った一万円札が
ハタハタと空高く
飛んでいってしまった
ことがあった。
周辺を探し回っても
見つからず
その時も
半ベソで
電話をかけてくるもんだから
取り敢えず
警察に紛失届けを出すように伝えた。
(息子がしょっちゅう財布や学生証を
落としていたが
必ず警察に行くと
届けられていたので)
すると、
驚いたことに
その一万円札も
警察に届けられてきた。
紛失した場所から
そう遠くないところで
落とし物として届出があり
長女の手元に戻ってきたのだ。
その時も
そんなことがあるのね、
と
勧めた自分ながら
驚いたのだけれど。
今回の話はそれを上回る
出来すぎた話だった。
面白すぎるキセキのネタに
地元に戻ってから
家族はもとより、
たまたま遊びにきた
義妹家族にも
ベラベラと話しまくり
おおいにウケて
気を良くしていた。
調子に乗って
亜紀ちゃんの整体でも
面白話として
披露したのである。
すると
亜紀ちゃんは
笑うことなく
こう言ったのだ。
「えーっと。
多分そのおじさんは
人間じゃないかもしれませんね」
びっくりした。
そこまでは全然
思いもよらなかった。
たしかに
偶然にしては
出来すぎな話ではある。
つい亜紀ちゃんに
身を乗り出して尋ねる。
「え、え、人間じゃないなら誰?
えータヌキとか。」
その勢いに押されて
亜紀ちゃんも
「タ、タヌキ?
いや、タヌキというより、
川の精とか、かな」
何とまぁ!
変なオジサンが鴨川の精。
でも
でも、
しごく納得な気もするのである。
長女はずっと鴨川に
スケッチしに通っていたのだ。
鴨川の精かぁ。
鶴の恩返しみたいでもあり
(恩はないけれど)
胸が暖かくなる。
長女の指輪を見つけてくれて
ありがとう。
大切な指輪を
川に捨てた行為は
いつか自分を責めたくなる
原因にもなっていた
かもしれない。
でも、キセキのおかげで
この出来事は
2人の
忘れられない
特別な思い出に
昇華されていた。
見えていないだけで
実は
わたし達にも
いろんなエネルギー体が
サポートしてくれているのだとしたら。
大きくても小さくても
キセキが
エネルギー体の
プレゼントだとしたら。
そんなことを考えだすと
まるで子供の頃の
絵本の世界へ
戻ったような
秘密を見つけたような
わくわくした
気持ちになっていた。
そんな妄想と
笑われるかもしれない。
けれど、
いつだって
妄想は
願っている
現実を創りだす
源なのかもしれない。
川の精のイメージ