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幻暈と吐き気の目標

2021.02.28 23:19

幻暈や吐き気と言ったメニエル症状に対して、どのような鍼灸治療のアプローチがあるか、というのもケースバイケースなのは間違いありませんが、陽明病の胃腸障害が大きな役割を果たしていることが多いように思います。 


朝から急に嘔吐と眩暈があって立っていられないぐらいの状態になったと朝から調整にやってきました。以前にもそういうことがあったそうです。胃の痛みも頭の痛みもあるという状態です。 


背中をパッと見ると、左肩甲骨から背中の緊張があり、盛り上がっています。

傷寒論の陽明病の反応がありました。

陽明病というと表証よりやや裏証に入りかけの段階です。 胸部から左腕のリンパ管の反応があり、それが上腹部までつながっています。胸管には「水」「熱」の機能異常が存在していることは間違いないだろうと思います。 


吐き気だけでなく朝だけ下痢をしたそうです。 便秘ではなく、下痢なのに便秘傾向のある人に処方する三黄瀉心湯を手に持ってもらうと背中の緊張やお腹の脹りがなくなります。昨日と同じ漢方薬ですが、症状は全く違います。三黄瀉心湯を持ってもらうだけで背中の上部の緊張がなくなり、下部は残る感じです。下部には別の異常が関係あるということだろうと思いました。

漢方薬の適応は、このような判断の時にも非常に有効です。また、三黄瀉心湯が如何に上部の異常を治す方剤なのかもよくわかります。


三黄瀉心湯は、心窩部のつかえをとり、上半身の充血を下に下げる。つまり、のぼせ気味の人にも良いという瀉下剤です。虚証体質の人には使えないとされています。つまり実証向きの方剤と言えます。

虚証体質ではありませんが、あきらかに弱っている状態で一見虚です。下痢もしていることから、普通の常識なら適応にはならないかもわかりませんが、手に持った感じとしては、肩の緊張も左側が強かったのがなくなり、胸椎の3~7番あたりまでの緊張がなくなりました。 


漢方薬の守備範囲というのは、教科書に書いてある範囲だけではないということが良くわかる例です。教科書通りに処方しようと思えば、眩暈を中心に考えてしまいがちですが、それでは効かせることができないのは明白だろうと思います。 

ただ、背部の下部は胃の調子と直接関係があるみたいだったので、別のアプローチも必要なのがわかります。 三黄瀉心湯の後に桂枝茯苓丸を追加すると背部下部の緊張が抜け落ちていきました。この時点では背部を押さえてみると痛みより気持ち良さに変化していました。これは今回の問題ではなく、以前からの問題なのではないかと思い、これ以上追求することはしませんでした。


桂枝茯苓丸も眩暈などに使いますが、このような強烈な眩暈には使わないのではないかと思います。主には駆お血剤という血の流れを良くする目的が主目的だと思います。桂枝茯苓丸は経絡で言えば胃経に入ります。

桂枝にはのぼせを下げる効果もある為、全体的には、補性、燥性、虚証で湿証の人向きです。 三黄瀉心湯とは虚実が真逆です。また胸に「水」の反応もある為、駆お血剤ですが、このような処方が効果的なのではないかと思いました。


三黄瀉心湯は、瀉下剤ですから実向き、桂枝茯苓丸は虚向きの方剤ですから、東洋医学における先補後瀉という考えに反します。先に補して、後から瀉すというのが常識なのですが、この組み合わせの場合は、真逆となります。 

漢方薬は、処方の仕方によっては、まだまだ可能性のある治療法だと思えます。このような処方と同等の鍼灸治療を行い、胸の水分の異常やのぼせの状態がなくなり、気分よく帰っていかれました。 


胃腸の調子が悪く、眩暈やのぼせが出る例は春になってきて多くなってきたようにも感じます。 鍼灸師であっても漢方薬を学ぶ理由はこのような理解を深めるのにとても良いように思います。  

あくまでも飲ませる訳ではありませんが、鍼灸の調整には非常に役立ちます。目的がハッキリすることで更にワンランク上の調整ができます。


あんなに気分悪そうに入ってきたのに10分後には、スッキリして頭の痛みもなくなり、上腹部の気持ち悪さもなくなって足取りもしっかりして帰っていかれたので良かったなと胸をなで下ろしました。