においと記憶
3月になりました。
少し春めいたり、まだまだ寒かったり、調整が難しい時期ですね。
入試真っ只中の子どもさんたちもいるでしょう。
私の高校時代は2年間ドップリ部活、その後半年は運動会の企画にのめり込み、ようやく3年の秋から受験生らしい生活を送りました。
5時起きくらいの朝型にして、軽食をとってから勉強する毎日。
定番は、小ぶりの冷凍ピザと源氏パイとティーパックの紅茶でした。
MTVが人気の頃で、トースターでピザを焼きながら、ちょうどその時間テレビから流れてくる音楽を聴くのがルーチンになっていました。
それから数年経った頃、当時のMTVでよくかかっていた曲を街中で耳にしました。
その途端、プーンとピザのにおいがしてきたのです。
驚いてキョロキョロ見回しても、周りにピザを焼いているお店などありません。
鮮明なそのにおいは、私の頭の中だけのものでした。
早朝のMTVとピザのことなんてすっかり忘れていたのに。
においを嗅ぐと、それにまつわる記憶が蘇ることをプルースト効果というそうです。
フランスの作家マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』という小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した際、その香りで幼少時代を思い出す場面が由来になっているのだとか。
ふと漂った香りで誰かを連想したり、食べもののにおいから昔のことを思い出したりすることはよくあります。
その逆で、記憶からにおいが蘇ることもあるのですね。
「嗅覚は古い脳と直結している」と言われます。
においの分子は鼻の奥の受容体にくっつき、電気信号に変換されて脳に伝わります。
その伝達路が大脳辺縁系へ繋がり、記憶をつかさどる海馬と、情動に関連する扁桃体に隣接しているのだそうです。
だから、においは記憶や情動と深く関わるのですね。
扁桃体が暴走すると、痛みや不安・怒り・パニックなどを引き起こします。
暴走が止められないと、ストレスホルモンが出っぱなしになり、自律神経も乱れてしまいます。
においと上手に付き合えば、扁桃体を鎮めて症状を緩和することにも繋げられそうです。
あるミュージシャンが、「帰宅するとまず猫を抱きしめてにおいを嗅ぐ」と言っていましたが、確かに、興奮やネガティブな気分をなだめてくれるにおいってありますよね。
この頃は、朝起きるころホームベーカリーから漂ってくるパンの焼けるにおいが幸せです。
そこに、先に起きた家族が淹れるコーヒーのにおいが合わさったりして。
脳の奥でじんわり「ありがたいなぁ」と感じます。
大切にしなくてはね。