日本が好きすぎるDJ、ポーター・ロビンソンと原宿をぶらつく
アメリカ出身のDJ、ポーター・ロビンソン(Porter Robinson)が緊急来日した。
「ポーター・ロビンソンって誰?」って人はいないと思うが、一応説明しておこう。彼は12歳のとき、音楽ゲーム「ダンスダンスレボリューション」のBGMを聴いたことがキッカケで、作曲活動を始めた。2010年、18歳でシングル「Say My Name」をリリース。その後、多くのグラミー賞を受賞してきたDJ、スクリレックス(SKRILLEX)に才能を認められ、2011年にシングル「Spitfire」、2014年にファーストアルバム『Worlds』をリリースし、多くのイベントに出演。顔文字の【=◈︿◈=】をシンボルマークに、アニメーションを駆使したVJやMVも話題となり、いまや世界的に有名なDJのひとりとなった。
ポーターはコンビニ袋片手に言った。
「日本のことが本当に大好きで、嫌いなところが見当たらないよ」
そう。来日回数は数え切れないほどで、彼は日本が好きすぎることで有名だ。今回来日した目的はなんなのだろう。一緒に原宿をぶらつく機会があったから聞いてみた。
「今回、来日したのはマデオン(Madeon)とコラボした楽曲「Shelter」のMVを日本でプロモーションするためなんだ。そのMVは『A-1 Pictures』っていうアニメの制作会社と作ったんだよ。僕は日本が大好きで、MVを作るまでに何度も来てる。今回の作品はすごい自信があるし、アニメだからね。どうしても日本で最初に公開したかったんだ。昨日、渋谷のタワレコ前の大きなビジョンでプレミア公開してきたんだよ。たくさんのお客さんが見に来てくれて、とてもうれしかった。そうそう、今もちょうどうれしいことがあったんだ。僕のMVは昨日からいろんなところで配信されてるんだけど、YouTubeで4位ってことが分かったんだよ。たくさんの人に見られるのはとてもうれしいよ」
このMVは2016年10月18日(火)22時15分に、渋谷の大型街頭ビジョンにて世界最速上映された。集まったファンは約200人以上。生で見た日本のファンからも大絶賛の声があがっている。ポーターは、このMVを作るまでに何度も日本を訪れ、ストーリー原案を考えた。悲観的でノスタルジックな映像と、Shelterの曲がマッチして素晴らしい作品になっている。彼のこういったセンスはどこからきているか気になった。
「僕はハッピーなものよりも、トラジックでエモーショナルなものが好きなんだ。今回のMVは『おおかみこどもの雨と雪』と『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』に影響されてるよ。この2作はみんなにオススメしたいくらい大好きなアニメなんだ。音楽だとダフトパンクの『Discovery(ディスカバリ)』っていうアルバムが昔から大好きで、すごい影響を受けたよ。僕は今、エモーショナルで感情的な音楽を作ることを目標にしている。エレクトロなクラブミュージックよりも、映画のサウンド、BGMに興味を持っている。これからやっていく音楽は作っている段階だから、秘密なんだけど、アニメに出てくるピアノやオーケストラから影響を受けているよ。もしも僕が映画のサウンドトラックを作るってなったら、納得いくものじゃないと作りたくないな。前に好きなアーティストが映画のサウンドトラックを作ったときに、疑問を持ってしまったことがあってさ。監督さんとの話し合いで個性を失ってしまうアーティストが多いと思うんだ。もし僕が今後やることになったら、納得のいくものじゃないとやりたくないって思ってる」
なるほど。ポーターはエモーショナルなもの、日本で言う「エモい」ものが好きなのか。彼のMVを見た日本のアニメファンから「オタクで良かった」「涙が出た」などの声があがっている。海外の映画やアニメが日本を描くと、おかしな表現になるものが多い。しかし、ポーターが作ったMVは、日本のアニメをかなり理解して作っていることが分かる。納得いくものではないと作りたくない彼だからこそできたのか。そもそも日本が好きな理由を聞いてみた。
「簡単に言えばホスピタリティとエチケットかな。アメリカに戻ったとき、いつも実感するんだ。日本人はきちんとしているって。僕は来日するたびに、日本のことを学んでいきたいって思うよ。あとはアニメや音楽のサブカル的なところと、ファッション。日本は世界で1位、2位を争うくらいファッションが進んでる国だと思うよ」
ポーターは音楽活動だけでなく、過去にストリートブランド「GALAXXXY(ギャラクシー)」とコラボしたり、「ALLSAINTS(オールセインツ)」のモデルを務めたりするなど、ファッションにも意欲的だ。最近はどんなファッションに興味を持っているのだろう。
「ファッションは、ここ2年くらい興味を持てなくなってしまったんだ。今、僕にとってのファッションは新しいインスピレーションを待ってる段階だと思ってるよ。最近はだれも知らないスニーカーとかを探して買うくらいかな。前はRAF SIMONS(ラフシモンズ)みたいなスタイルが好きだったけど、多くのファストファッションやブランドが真似してる感じがしてしまって。ブランドが醸し出すライフスタイルがトレンドになってしまって悲しいよ。僕の好きなファッションスタイルは、男の子なんだけどガーリーでミステリアスなルック。自分に似合ってるかどうか分からないけど(笑)。ALLSAINTSやLAD MUSICIAN(ラッドミュージシャン)の、カットの繊細さとかも好きだよ」
みんなと同じスタイルはしたくない。ポーターは音楽だけでなく、ファッションにおいても、強いこだわりを持っていることが分かった。今回の来日で、どこかで買い物したか聞いてみた。
「忙しすぎて、ショッピングする暇がないんだ(笑)。けど日本で仕事するのは本当に楽しいよ。こうやって話したり歩いたりするだけでも最高だ」
ポーターは、原宿を歩きながらも観光客が好きそうな場所には興味がなく、裏の住宅地だったり、シャッターに描かれたグラフィティだったりが気になっている様子だった。それは、どこか寂しくて、ノスタルジックな場所。まるで彼の作品を体現しているかのようだ。