BABYMETALの“ギミチョコ!!”と“KARATE”は革新的J-POPだ!
照沼:BABYMETAL初心者向けに説明しておくと、“ギミチョコ!!”は、2014年2月にリリースされた1stアルバム『BABYMETAL』収録曲です。マッド・カプセル・マーケッツの上田剛士さんが作った曲ですね。
田中:この曲はソングライティングに関してもプロダクションに関しても本当に舌を巻いた。
照沼:タナソーさんが関心したのは、特にどういうところですか?
田中:まずはJ-POP的な手法にほぼ頼ってないところ。構成としてはほぼAB形式だし、基本的にはリフ主体で、メタル・マナーに乗っ取ってる。リフで始まって、ヴァースもリフのまま。その後、ラップっぽい歌が入ってくるとか。
照沼:でも、コーラスはJ-POPっぽくないですか?
田中:確かにコーラスだけは和声感があるんだよね。いろんな解釈が出来るとは思うんだけど、トニックの5度の音が半音ずつ上がっていくっていうジョン・レノンが得意としたコード進行。アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーも多用するやつ。でも、ルートはほぼ動かないでしょ?
照沼:確かに和声的にはかなりストイックですよね。
田中:その代わりリズムの変化で曲全体に緩急をつけてる。曲前半はずっと裏打ちのスネアにブラストでしょ。で、コーラスになると8ビートになるんだけど、同時に和声的にも一気にカラフルになるから、いきなり視界が開けたような効果があって、実に効果的。
BABYMETAL - ギミチョコ!!- Gimme chocolate!! (OFFICIAL)
照沼:曲後半のブレイクで、キックの四分打ちだけになるところも効いてますよね。
田中:コーラスの後に、ヴァースと同じリフに乗せてチャントっぽいコーラスが入ってくるところも最高にいい。最後の30秒とか。
照沼:あれは耳につきます。なんとなく真似したくなる、クセになる発語感なのもいいですよね。
田中:さっきの“メギツネ”みたいに欧米のトレンドを意識してるわけでも、過剰にオリエンタリズムに頼っているわけでもない。かと言って、J-POP的なソングライティングでもない。これは本当にオリジナルなんじゃないかな。世界基準のポップ・ソングだと思う。
照沼:しかも、ある意味、メタルを更新してるわけですからね。
田中:そうそう。でも、なんでギミチョコなの? だって、どうしたって戦後の進駐軍と日本の関係を抜きには考えられないわけでしょ。欧米コンプレックスを逆手に取ったっていうこと? それとも、あまり意味のないサブカル的な引用なの?
照沼:海外の反応が増えてくる中、満を持して「このタイミングでやってやれ」というのはあったと思いますよ。
田中:どういうこと?
照沼:ライブだと最後の方にサビを全部客に歌わせるコール&レスポンスがあるんですけど、そこで「チョコレートちょうだい」というリリックを外人に歌わせているという光景、あれには正直胸が熱くなりましたね。「『はだしのゲン』で読んだあの世界が一回転したんだ!」みたいな。
田中:わかんないなー(笑)。エンターテインメント的な戦略の部分以外で、何かしらの社会的なメッセージ性というのはBABYMETALにはあるの? “Road of Resistance”みたいな曲タイトルもあるし。
照沼:基本的にはないと思います。全体的にはアイドルやメタルへのオマージュの連続で、ミッシェル・ガン・エレファントみたいな感じというか。
田中:どういうこと?
照沼:ミッシェルって曲もリリックもどこか記号遊び的なところあるじゃないですか。これまでロックンロールで描かれてきたテーマやモチーフを引用し、組み合わせていく。でも、その中にチバユウスケのパーソナリティーがどこかにじみ出てくるみたいな。
田中:確かにミッシェルはポストモダン的でもあったしね。
照沼:それと同じように、BABYMETALはメタルの各サブジャンルを横断して大文字のメタルをやりながら、メタルのクリシェをひっくり返すような部分がある。
田中:それはわかる。
照沼:メタル的なボキャブラリーと視点で、現代日本の日常を描いた「Gj!」とか、硬派でゴツいバンドサウンドにのせてパパにおねだりする小悪魔な娘の心情を歌う「おねだり大作戦」とか。
田中:すごいな! 俺にはまったくわかんない世界だ。
照沼:それこそ、この「ギミチョコ!!」も太りたくないけどチョコレート食べたくて仕方ないっていう内容だし。
田中:なるほど。社会的なコメンタリーに取られかねないモチーフを敢えて使いつつ、蓋を開けてみると、まったく関係ないっていう、そこの反転が肝なんだ? ボブ・ディラン的なほのめかしとか、はぐらかしがあるんだね。
照沼:でも、ここで歌われるチョコって本物かもしれないし、お金かもしれないし、性的なイメージも感じさせるし、何よりドラッグのことかもしれない。
田中:ハシシかもしれないよね。チョコだし(笑)。
照沼:そう(笑)。
田中:ない、ない。下らない冗談言った俺が悪かった(笑)。
照沼:それと、コーラスで吃音が入るじゃないですか。チョ、チョ、チョって。そこはザ・フーの“マイ・ジェネレーション”の引用なんじゃないかと思ってます。
田中:ホントに?
照沼:あると思いますね。
田中:まあ、“マイ・ジェネレーション”のヴァースに吃音が入るのは、自分たちの世代が世の中から相手にされない世代だっていう認識に対する皮肉でもあるわけだけど、それに近いものがあるっていうこと?
The Who - My Generation [Live at Woodstock 1969]
照沼:いや、そっちじゃなく、ドラッグで呂律が回らなくなってる説にのっとった解釈です(笑)。
田中:次、行こう!(笑)。
照沼:次の“KARATE”は、今年4月にリリースされた2ndアルバム『METAL RESISTANCE』からのリード曲です。
田中:これは戦略的なターゲットがもはや完全に世界向けになった後の曲?
照沼:完全にそうですね。国内盤先行だった1stと違って、2ndアルバムは世界同時発売だったので、世界中で聴かれることが前提のはず。『メギツネ』以来の和のモチーフがここに出てきてますね。
BABYMETAL - KARATE (OFFICIAL)
田中:これもbpm測ったんだけど、180、もしくは、その半分の90。これもbmpこそ高速だけど、コーラスになると、ハーフ・リズムになるでしょ。そもそもブローステップってスラッシュメタルの影響があると思ってて。スクリレックスって、それまで四分打ちだったのがビルトの部分でガンガンに盛り上げておいて、その後、ハーフ・リズムにするっていう形式を発明した人でしょ。
照沼:“ロックンロール”とかの中盤の展開ですよね。
Skrillex - Rock n Roll (Will Take You to the Mountain)
田中:そうそう。あれはホント大発明。メタルで言うところのブレイクダウンをダンス・ミュージックに取り入れた。だから、そもそもメタルとブローステップって親和性が高いとも言えるんだけど。
照沼:で、この曲の場合、もともとメタルの手法だったのをEDMが取り込んで、それをまたメタルが取り戻した。
田中:イントロはブレイクビーツだし。
照沼:これもかなり分析されたメモが残っていますね。
田中:構成もリズムの緩急もホント計算し尽くされてるんだよね。リフ部分は基本的にブラストビートで、ヴァースは四分打ちのキックにブラストとスネアのフィルをまぜて、1回落とす。そこからコーラスでは、ハーフの8ビートになるっていう。これはかっちょいい!
照沼:コーラスで下げるのはそれだけで偉い。
田中:うん。J-ROCKで一番かっこ悪いのは、ヴァースでハーフなのにコーラスで2倍になるっていう展開。あれは本当にダサい。
照沼:サビで疾走するやつ(笑)。
田中:コーラスのコード進行は、サブドミナントに行って、トニック戻って、ドミナントいって、6度のマイナー。でも、そうした王道が少しもいやらしくないんだよね。
照沼:初期の曲みたいな過剰な甘さはありませんからね。
田中:曲の後半に長めのブレイクあるじゃん。あそこにトラップっぽい細かいハットが入るっていう。あれも「おー、やってるなー」っていう。
照沼:なるほど。こんな感じで、古い順に5曲ほど聴きましたが、やっぱりBABYMETALの主軸ってもう海外なんですかね。
田中:もう海外なんじゃないの。ここに来る途中に、Wikipediaを見てて、初めて知ったんだけど、BABYMETALの欧米でのエージェントって、〈ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテイメント〉なんでしょ? 業界最大手のエージェンシーがついた時点で、「年間12ヶ月のうち、10ヶ月は海外の活動に充てろ」って言うと思うよ。
照沼:そうなんですか?
田中:90年代にhideとか、ミッシェル・ガン・エレファントとかが海外進出のチャンスがあったのに、それを果たせなかったのは、そういう海外からの要求を飲めずに日本での活動を重視したからってところもあるから。勿論、対するこちらも日本の最大大手のアミューズだから、どんな契約になってるのかは、わかんないけど。
照沼:でも、おもしろいのが世界同時発売になった2ndの制作スタッフなんですよ。
田中:具体的にはどうなってんの?
照沼:その前にリリースされたライブアルバムは、マスタリングが著名なエンジニアであるテッド・ジェンセンが担当してて「そりゃそうなるよな」と思ってたんですけど、2ndはほとんど日本人スタッフで固められてるんですよ。
田中:そうなんだ?
照沼:ソングライティング含め、もっと外人をたくさん入れてくるんだろうなと思ったんですけど。「日本人で作ったもので世界に攻めていくぞ」っていう。
田中:そこはやっぱりヒロシマ/ナガサキ的なところがあるのかな。と、敢えて不謹慎なことを言ってみました。
照沼:さっきの話みたくビジネスの座組みとしては欧米のシステムに乗っ取るけど、クリエイションの部分は日本人で固めたい、みたいな部分があるのかもしれないですね。
田中:でも、確かにBABYMETALって、そういうクリエーション全般に対するシステム作りに関しても、すごく新しいのかもしれない。新しいっていうか、今の欧米のスタイルっていうか。
照沼:というと?
〈続く〉