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Giji Rockerのギジ録工房/Giji Rock Workshop

おっさんのあとさき

2021.03.06 11:50

僕が就職して最初の職場についての記憶。

もう30年近く前のこと。

でも、かなり鮮明に覚えている。


例えば、僕にとって初めての課長であるMさん。

M課長と僕の間には30歳くらいの年齢差。

M課長から見れば僕は若造。

僕から見ればM課長はおじさん。

もちろんお互いにそう呼ぶわけではない。

でも、そういう存在には違いない。


課には合わせて20人くらいの職員がいた。

3つの係に分かれ、それぞれに係長がいた。

だから、僕から見れば、課長との間に係長がいる。

ヒラの僕と課長が直接やり取りする機会はそれほど多くない。


しかしある時、M課長と僕が2人きりになる場面があった。

ある外部の会合にM課長が出席する際に、

その業務の担当者である僕が「カバン持ち」としてお供したわけだ。

(実際にカバンを持ったわけじゃないけど…)


その会合は、まさにおじさんたちの集まりだった。

別にそれが嫌だったわけじゃない。

とはいえ、確か30人くらいの会合。

そのうち29人がおじさん。

1人だけが20代の若造。

自分がその異分子であることの落ち着かなさ。

それは今も記憶に残っている。


会合が終わると懇親会が始まる。

自分の財布から会費払って自主的に参加する形。

業務外だけど、業務のためのお付き合い。

別にそれが嫌だったわけじゃない。

とはいえ、ビール立て続けに注がれると、酔ってしまいそう。

初対面のおじさんたちが明るく楽しく声を掛けてくれる。


飲んで食べて、一段落すると、カラオケの時間。

おじさんたちが順番に歌う。

M課長にも「さ、どうぞお歌いください」と声が掛かる。

しかし、M課長はこれを固辞。

「いえいえ、私は結構です。あ、そうだ、君、歌いなさいよ。」

えっ、僕を生け贄に差し出すの?

そりゃないよ~!


これも修行。仕方あるまい。

覚悟を決めて僕は歌う。

曲目は「北酒場」。

うまく歌えたりしないけど、元気に声を張る。

それが若造に務まる役目だろう。

おじさんたちは喜んでくれた。


おじさんたちは二次会に突入するようであった。

M課長はこれも固辞。

「私はこれで失礼します。」

おっと危ない。僕も一緒に失礼します。

生け贄の2回目は遠慮したい。


我々はゲスト的な立場なので、

この頃合いで退散する。

それが通例になっているようだ。

そういうこと(マニュアルには書いていない)を肌で感じるOJT?

(OJT:オン・ザ・ジョブ・トレーニングの略。

 おじさんトレーニングじゃないよ)


駅に向かう道すがら、M課長が僕に一言。

「よかったらもう一杯軽くやってから帰ろうか。」


静かな飲み屋のカウンターの奥に並んで座る。

課長とサシ飲みすることになるとは予想外の展開。

1時間ほどの濃密な時間。


温厚なM課長。

でも、仕事の場面しか知らない。

一体どんな話をするのだろう?

まったく予想できなかった。


すると、M課長は若い頃のことを語り始めた。

就職した頃のこの街の様子のこと。

そして、趣味の話も。

20代の頃は、仲間とヨットで海によく行っていたそうだ。

お猪口を傾けながらそう語るMさんの目は輝いていた。


へーっ、そうなんだ。

僕が見ていた職場でのM課長。

それはMさんという人間のごく一部にすぎない。

Mさんの人生には歴史があり、それはこの先も続く。

僕が見るMさんの姿は、歴史の流れのなかの一瞬。

スナップショットにすぎない。


おじさんは、最初からおじさんだったわけじゃない。

おぎゃーと生まれ、育ち、青春時代を過ごす。

そして、色々な喜びと苦労を経ておじさんに至るのである。

(その後、おじいさんになる予定)


そんな当たり前のこと。

なのに、僕はまったく意識していなかった。

この気付きは結構強烈だった。


この夜のことなどMさんは覚えていないだろう。

僕にとっては忘れられない場面となった。


あれから30年。

当時のM課長と同じ年代に僕もなった。


あの後、流れ者として生きてきた僕。

組織で上に立つような経験もない。

見た目の貫禄もない。

30年も経ったはずだけど、成長した実感もない。


とはいえ、月日は確実に経ったわけで、

僕はいま確実に、おじさんだ。

これまでの歴史を経て、いまのおじさんである自分がいる。

そして、この先にどのような続きがあるのだろう?


そんな昔のことを思い出す50代のおっさん(僕)。

若い頃も確かあったはず。

でも、20代で「北酒場」を歌っていたのか。

じゃ、既におっさんだったのかも!?

こんな残酷な気付きはいらなかったぜ~(涙)。


(ギジ度:95%)