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九条 顕彰・台本置き場

声劇台本「消罪-しょうざい-」

2021.03.07 01:56

声劇台本「消罪-しょうざい-」

作:九条顕彰


※はじめに※

こちらは声劇台本となっております。

コピーなどでの無断転載、自作発言、二次創作はおやめ下さい。

ネットでの生放送(ツイキャス等)のご使用に関しては自由です。

※YouTube等での音声投稿や有償での発表(舞台での使用等)に関しては作者の方に相談してください。

使用報告なしで構いませんが、なにか一言あるととても励みになります。飛んで喜びます。

物語の内容にそっていれば、セリフアレンジ・アドリブは自由です。

大幅なセリフ改変・余計なアドリブを多く入れることはおやめ下さい。




〜story〜

───「本当の罪は、一生消えない。」

これは、人を殺した男の、滅ぼすことの出来ない罪滅ぼし。



演者:2人


比率

♂:1 不問:1



上演時間:約30分




登場人物


アッシュ(男)

終身刑の囚人、人殺し


テリー(不問)

週刊誌記者、ヘビースモーカー

※終盤に出てくる「?役」はテリーが兼役でお願いいたします


※テリーのセリフは基本男性口調で書かれてあります。女性が演じる際は一人称を「あたし」にすれば男勝りの女性でいけると思います。




役表

アッシュ:

テリー:







〇本編セリフ〇




アッシュ:あんたはなんもわかっちゃいねえ…いいか、本当の罪っていうのは、一生消すことは出来ねえのさ…


テリー(M):そういった彼の表情は、まるで安堵してるような、優しい表情だった







───1週間前…車内で煙草をふかすテリー







テリー:…(煙草の煙を吐く)……くそ…なんで俺が…こんな仕事やらにゃいけねえんだ




テリー(M):雨音の響くレンタカーの車内、俺は肺の中に残ってる紫煙を吐き切ると、やる気の出ない重い体を動かし、ドアを開けた




テリー:はぁ…売れない週刊誌の端っこに載っけるネタのために、なんでこんなとこに…ついてないな…



テリー(M):数々の犯罪を犯した凶悪犯達が収容されている刑務所…俺は今日、先輩に仕事を押し付けられて、ここに収容されている、ある囚人の「取材」をする事になっていた…先輩も嫌がるくらいの「面倒な仕事」ってやつだ



テリー:面倒なら引き受けなきゃいいんだよ…というか、人殺しの残した言葉なんて…そんなの誰が読むってんだよ



テリー(M):俺は警備員に案内され、厳重なゲートをくぐり中に入る…囚人たちの暴言や看守の罵声がそこかしこに響いている…まるで動物園の猛獣ゾーンの檻を案内されている気分だった…ただ一つだけ安心なことは、こいつらは二度と、檻の外に出されることはないって事だ、そんな事を考えながら面会室に案内された




テリー:さぁーて、いよいよ殺人鬼とご対面かぁ…こんな仕事さっさと終わらせて、帰ってビールでも飲みたいぜ……それにしても…冷たい空間だな…窓のない、真っ白い壁…頭がおかしくなりそうだ


アッシュ:そうだな


テリー:!?


アッシュ:けど、このガラスの向こう側にいけば、もっと頭がおかしくなるぞ?


テリー:あ、あんた…




テリー(M):いつの間に居たんだろうか…面会室の、分厚い透明なガラス板の向こう側に、銀髪の背の高い男が、こちらを見て不気味にニヤリと笑っていた…こいつが今回の取材対象なのか…?確か、名前は…




アッシュ:俺はアッシュ・グラントだ…看守から、俺の事件の取材をしたいヤツがいるって聞いたんだが?


テリー:あ…はい、どうも…えっと…週刊誌記者のテリー・キャデラック…です


アッシュ:ふーん、週刊誌、ねぇ…ニュースや雑誌は大嫌いだ、あいつらは嘘ばかりつくからな


テリー:い、いや…まあ、そうは言っても…彼らも、もちろん俺も、一生懸命やってるんですよ…仕事ですから…


アッシュ:ほう?じゃああんたも、他の記者も、嘘をつくのが仕事なのか?その嘘で、金稼いでんのか?


テリー:えっ!?いや…それは…


アッシュ:…ははっ、すまんすまん、困らせてしまってしまったな、まあ、ニュースや雑誌記事の全てが嘘ばかりじゃないってのは分かってるさ…それに、あんたは嘘は書かない、そうだろ?


テリー:な、なんで、そんなこと…言いきれるんですか?


アッシュ:あんたが、真面目で馬鹿正直そうなツラしてるからさ


テリー:馬鹿正直って…


アッシュ:目を見ればわかる、あんたは嘘はつかない…いや、つけない


テリー:…そんな事はないですよ…俺も、嘘はつくし…


アッシュ:ふーん、まあそんな事は置いといて、取材、なんだろ?俺はあんたに何を話せばいいんだ?昔話か?それとも、犯した全ての罪を懺悔すりゃいいのか?あぁ?


テリー:!?ち、ちょっと待って…ください…えっと、1個ずつ、こっちの質問に答えて欲しくてですね…


アッシュ:おい


テリー:はいっ!?


アッシュ:その敬語やめろ、嫌いなんだよ、そういう話し方(←睨むアッシュ)


テリー:うっ…わ、わかったよ、わかったからそんなおっかない顔すんなって…じゃあ質問をはじめるぞ…まずは…


アッシュ:…


テリー:……誕生日は?


アッシュ:…ん?は?


テリー:いや、だから、君の誕生日はいつだって聞いてる…


アッシュ:(吹き出し大笑いする)


テリー:へ?!


アッシュ:あははははは!!お、おいおい、なんだよ、それ!最初の質問が誕生日って…あんた本当に記者かよ?ここは合コンの席でも婚活パーティ会場でもじゃねえんだ、それに、ガキが大人をナンパするにはまだ早ぇぞ?


テリー:は?……あっ!?いや、ナンパとかそういうんじゃなくて、取材内容に書いてあってだな…って言うか、誰がガキだよ!!俺は大人だ!ガキじゃねえ!!!


アッシュ:あはは!悪かったって、冗談だよ、冗談!…ほんと、おもしれえなお前、話してて飽きねえわ


テリー:ふん、そりゃ良かったな…


アッシュ:さて、それじゃ…誕生日だったな


テリー:…え?


アッシュ:俺は8月15日生まれだ


テリー:……


アッシュ:ん?何ぼーっとしてんだよ、質問には答えたぜ?メモ取らねえのか?


テリー:!!わ、分かってるよ…


アッシュ:変なやつ


テリー:それはこっちのセリフだ…(ボソッと)


アッシュ:なんか言ったか?


テリー:い、いや!なんでもない!じゃあえっと…次の質問は……




テリー(M):それから俺はアッシュに様々な質問をした…出生、好きな食べ物、好きな曲……まあ正直な話、犯罪者にろくな奴なんていないと思ってたし、大量殺人鬼って聞いてたから、初めはどんな怖いやつが来るんだろうと身構えていたが…アッシュは殺人鬼なんて雰囲気はひとつも見せず、むしろ気さくに全ての質問に答えてくれた




テリー:…あ、もう面会終了時間か…じゃあ、今日はここまでにしとこう…また明日、取材しに来るよ、今日はありがとな


アッシュ:……なあ


テリー:?なんだ?


アッシュ:その記事、いつ頃出るんだ?


テリー:え?さ、さぁ…?俺に決定権はないし…上司の判断次第、だな…


アッシュ:…そっか


テリー:どうしたんだ?


アッシュ:……いや、なんでもない…ちょっと気になっただけだ


テリー:?


アッシュ:また明日、来るんだろ?


テリー:あぁ、そうだな


アッシュ:ならさっさと帰れ、俺も久しぶりに人と話して疲れたんだよ


テリー:あ、ああ、すまない…じゃあ、また


アッシュ:…またな




テリー(M):「またな」、そう言った彼の顔が、不思議と曇って見えた…




アッシュ:…なんで、俺なんだよ…なんでその話なんだよ…思い出させんじゃねえよ…クソが







───次の日、車から降りるテリー







テリー:ふう…さて、こっからがいよいよ本題(メインイベント)だ…





テリー(M):今日はアッシュの犯した罪を聞きだす…これがメインの取材だ…昨日の質問は親交を深めるためのもので、正直どうでもよかったものらしい…上司の考えてる事は分からない…落ち着かないのか、いつもよりタバコに火をつける数が多い気がする




テリー:(タバコの煙を吐く)…問題は、ちゃんと話してくれるか、だな…まあ、心配しても仕方ない…行くか




テリー(M):警備員に案内されゲートをくぐる…相変わらずここは動物園だ…来て2日目だが、何度来ても慣れそうにない…重い足取りで、俺は面会室まで来た




アッシュ:よぉ、キャデラック、遅かったな


テリー:!…す、すまない、準備に手間取って…というか、アッシュの方は早かったんだな


アッシュ:あぁ、看守に無理言って早めに待たせてもらってたんだ


テリー:…そうなのか…


アッシュ:…?なんだよ、どうしたんだ?今にも死にそうな顔しやがって


テリー:い、いや…なんでもない


アッシュ:ふーん?さーて、今日はキャデラック記者様に何を話せばいいのかな?


テリー:…


アッシュ:…キャデラック?おーい?充電切れの機械みたいな反応してんなよ……おい!


テリー:あ、ああ悪い……今日はな…アッシュ…アンタの犯した「罪」について聞きたいんだ


アッシュ:…


テリー:…あ、アッシュ…?


アッシュ:フッ、なんだ、そんなことか…改まってなんだよ、それがお前の仕事なんだろ?


テリー:だ、だって…はっきり言えば、怖かったんだよ…仕事とはいえ、罪を聞き出すんだから…


アッシュ:あのな、他の囚人と一緒にすんな、俺はそんなことで子供みたいにキレたりしねえ、だからそんな怖がんなよ


テリー:そ、そうだよな、悪ぃ


アッシュ:まあでも、俺も犯罪者には変わりないけどな


テリー:うっ…その冗談が冗談に聞こえないような言い方するの、やめてくれよ…心臓に悪いだろうが


アッシュ:ははは、すまないなぁ、それは本当の事だからな……まあでも、俺の罪、か…少しは知ってるんだろ?


テリー:ああ…俺が学生のときだったから、うろ覚えだが…確か、住んでたアパートの住人を一晩のうちに全員殺した…だっけ


アッシュ:そうだ、なんだ、しっかり覚えてんじゃねえか


テリー:いや…近所に住んでたから…ただ人が殺されたって噂を聞いただけで事件の詳細は知らなかったから、母親と2人で一晩中震えたのだけは覚えてる


アッシュ:…なるほど…怖がらせちまってすまない


テリー:いや……それで、その…あんたはなんで、あの日、あの時…アパートの住人全員を殺そうと思ったんだ?


アッシュ:全員、か……本当はそんなつもりじゃなかったのにな


テリー:え?


アッシュ:俺はあの日、一生消えない罪を背負っちまったんだ


テリー:一生?…でもあんたは今ここで、自分の犯した罪を償おうとしてるんじゃねえのか?


アッシュ:償う、か…


テリー:?


アッシュ:…お前はなんもわかっちゃいねえ……いいか、テリー、本当の罪っていうのは、どんなに自分が償おうと思っても、一生消すことは出来ねえのさ



テリー(M):そういった彼の表情は、まるで安堵してるような、優しい表情だった



テリー:…何を、言ってるんだ?現にあんたはこの刑務所にいて、終身刑になって…


アッシュ:そんなもんで、本当に償えてると思うのか?


テリー:…え?


アッシュ:いいかテレンス、たとえどんなに小さな犯罪でもな、犯した罪の重さも、その行為も、過去も…魔法でもない限り、変わることも変えられることも、もう出来ねえんだ


テリー:…


アッシュ:どこの刑務所に収容されようが、俺がどんだけ改心しようが、犯罪を犯したことには変わらない…手を出しちまったもんの重さに毎晩うなされながら、それでも生きていかなきゃ行けねえんだ…忘れようとしても、忘れられねえんだよ


テリー:…アッシュ


アッシュ:お前に、その重さが耐えられるか?


テリー:…俺には……分からない…


アッシュ:分からなくていい…わからないでいて欲しい……人は、殺すもんじゃない…罪は重ねるもんじゃないんだ…


テリー:どういうことだ…何を言ってるんだ?…あんた、一体あの日、何をしたんだ?


アッシュ:…残念だが、時間だ、テレンス…続きはまた今度、な…


テリー:え?おい、待てよ、まだ話は終わってないぞ…おい、アッシュ!!……行っちまった…なんなんだ、アイツ…



テリー(M):腑に落ちないまま、今日の面会は終了した…それから取材に行っても当の本人は現れず、しばらく取材と面会を拒否され続けた…






───────(間)3日後







テリー(M):あれから3日後、今日は向こうから連絡があった…取材の続きをお願いしたい、と……時間のかかる取材だとは分かりきっていた。けど、アッシュのあの態度、あの言葉…あの時、明らかに様子がおかしかった…彼は本当に、犯罪を犯した殺人鬼なのだろうか…俺は、仕事も取材も抜きにして、アッシュのことをもっと知りたくなった…そしてまた俺は、あの冷たい部屋に入る






テリー:ア、アッシュ…


アッシュ:…よぉ、テリー…この前はすまなかったな


テリー:あ…いや…大丈夫だよ


アッシュ:…あー、なんというか……あんな話でも記事になるのか?


テリー:ああ…あれはどうかな…まあ最終的に文章に書き起すのは俺だから…あの部分も入れて欲しいなら、入れとくよ


アッシュ:そうか…ま、その辺はお前に任せる


テリー:わかった…よし、それじゃ……この間の続きから始めようか


アッシュ:ああ…俺の罪について、だったな


テリー:そうだ


アッシュ:……なあ、いじめってなんで起こるんだと思う?


テリー:…は?


アッシュ:だから、いじめだよ


テリー:え?い、いきなり何の話だよ?


アッシュ:いや、ちょっと気になったからさ…どっかの国では、「いじめられる方の心が病んでる」からカウンセリングを受けさせるんだそうだ…しかし、別の国では「いじめる方の心が病んでる」から、カウンセリングを受けさせるらしい…どちらが正しいんだろうな?お前はどう思う?


テリー:ど、どうって…うーん…まあ、「いじめる側」の心に問題があるのは間違いないよな…「いじめられる側」は周りより弱いから結果、そこを狙われるわけで…どちらが正しいとか、そういうのはないんじゃないのか……っていうか!その話がお前の罪となんの関係があるんだ?また適当に話をはぐらかそうとしてるんじゃないだろうな?


アッシュ:…俺、昔な…「いじめられる側」だったんだ…


テリー:!?


アッシュ:だから、俺の心に問題があったからあんなことしちまったのかなって…俺も、あの時カウンセリングを受けていれば、こんなところに居なかったのかなと、少し思っただけだ…けど、お前の「いじめる側の心にも問題がある」という言葉には、少し救われたよ…俺だけに問題があった訳じゃなかったんだな


テリー:……アッシュ…俺は時々、あんたが分からなくなる…本当に、大罪を犯した殺人鬼なのか……それにしては…あんたはなんというか…優しすぎる気がして…


アッシュ:はは、優しいか…本当に優しい人間だったら、こんなとこにいねえよ


テリー:…そんなの、分からないだろ…


アッシュ:…さぁて、無駄話しすぎちまったな、悪い悪い…そろそろメインディッシュといこうか…俺の罪について、お前に全てを打ち明ける…こっからが長いから、しっかりメモしておけよ


テリー:あ、ああ…


アッシュ:…うーん、そうだな…どこから話すべきか……俺はあの日、本当は人を殺すはずじゃなかったんだ


テリー:まあ、大抵の犯罪者はみんなそう言うよな


アッシュ:おいおい、その言い方は傷つくなあ…ただ「こうなるはずじゃなかった」をやらかしてしまうのが人間だ


テリー:それは…俺にも経験はある


アッシュ:フッ、正直でよろしい…んじゃ、続けるぞ……あの日は…仕事帰りだった…俺は当時…同居人と2人で、事件を起こしたあのボロアパートに住んでいた…2人で何とか家賃をやりくりして、生計を立てていたんだ


テリー:ち、ちょっと待て…同居人?同居人がいたのか?それは初耳だぞ


アッシュ:ああ……あいつの事については、あの当時の記者にも警察(サツ)にも……誰にも話してなかったからな……言いたくなかった…アイツは俺の唯一の友達だ……友達、だった


テリー:?どういう事だ?


アッシュ:…あの日、残業でいつもより帰りが遅くなっちまってな…アイツの誕生日だったって事をすっかり忘れちまってたんだ……思い出した時にはもう日付が変わっててな…仕方ねえから、アイツの好きなビールでも買って、忘れてた事を誤魔化そうと思って、玄関を開けた……そしたら……


テリー:…?


アッシュ:…………集団レイプされてたんだ…アイツ…アパートの上の階に住んでた、頭のおかしいヤク中共に


テリー:!?


アッシュ:薄明かりの中で見たアイツの姿は…顔も体も殴られて、ボロボロにされて…ひどい有様だった……元々は綺麗な容姿をしてたんだ…遠目から見ても、女なのか男なのか分からないくらいに…綺麗だった


テリー:…そう、だったのか…


アッシュ:……俺が、「どうしたんだ、何があった」って聞いても、何も答えてくれなくてな…ようやく口を開けたと思ったらアイツ…虚ろな目で俺の見て、言ったんだ……「殺して」って


テリー:…え?


アッシュ:俺もびっくりしたよ…開口一番に「殺せ」だなんてな…お願いだ、殺して欲しい、こんな汚れた身体でいたくないって何度も何度も…俺にすがって泣きついてきた…!…俺はそれだけは出来ねえとキッパリ言った…!ちゃんと病院に行って、警察行こうって、何もお前が死ぬことなんかないって……そしたら、アイツ…泣きながら言うんだ




-回想-


?(テリー兼役):キミには分からないよ…こんな…汚されて…消せない傷を背負ってまで、それでも我慢して生きろなんて、そんなの、出来ない…ねえ、なんで…?なんで、早く帰ってきてくれなかったの…?早く帰るって言ってたくせに…!約束したのに…!!…ずっと、呼んでたのに…あの時ずっと…助けて、アッシュ、って…


-回想終わり-





アッシュ:……アイツ…まだ頭が混乱してたんだろうな…まるで、俺が悪いみたいな目をして見つめて、そう言ったんだ


テリー:それは…偶然が重なった悲劇だったんだ…それにアッシュは何も悪くないだろ


アッシュ:けど本当は早く帰るはずだった!約束してたんだ…!それを忘れて俺は……俺が忘れてなけりゃこんな事にならなかった……それが俺の1つ目の罪だ…2つ目は、アイツを守れなかった事…そして、3つ目の罪


テリー:3つ目?


アッシュ:……俺は、アイツを殺した


テリー:…!


アッシュ:…泣いてすがりつくあいつが、まるで昔の自分を見ているようで、辛かった、苦しかった、耐えられなかった……アイツの最期に言った「殺して」が聞こえたあとは、もうなんにも覚えてない…気づいたら、身体中、血まみれで…血の海の中に立っていて……アイツのことも、上の階のヤク中どもも……関係の無い、他の人間も…全員……この手で……


テリー:アッシュ…


アッシュ:…この「罪」を消せると、償えると、本気で思うか?…俺が改心すれば?生きてさえいれば?いつかきっと償える?許してもらえる?……答えは、無理だ…無理なんだよ、テレンス…たとえ全て許されたとしても、終わっちまったものを消すことは出来ねえんだ…失くしちまったものを取り戻すことは出来ねえんだよ…二度とな…


テリー:……確かに…アッシュの言う通りだ…過去は変えられない…たとえどんな理由があろうとも罪は罪…あんたの犯した罪も、消すことは出来ないだろうな…これからも悪夢にうなされ続けて、この冷たい壁の中で毎日を過ごすわけだ…


アッシュ:…


テリー:けど!!!


アッシュ:?!


テリー:けどなぁ!!それに縛られてんなよ…!勝手に!自分を縛りつけてんじゃねえよ!!


アッシュ:…っ!!


テリー:俺にはあんたの罪も!気持ちも!もちろんあんたの友達(ダチ)の気持ちも、何も分からねえさ…!!……俺があんたの立場になったら、もしかしたら同じように思うかもしんねえ…考えるかもしんねえ…けど、自分で自分を縛りつけたら、元も子もねえだろ!償う気持ちが少しでもあるんなら、その心を見せればいいんだ!まだ許されてないと思うのなら、許されるまで頑張ればいいんだよ!!全部あんた1人で背負わなくていいんだよ!!!


アッシュ:テリー…


テリー:…俺が、あんたの罪を消す


アッシュ:?!…はは…負けるよ、お前には…でも…どうやって俺の罪を消す気だ?


テリー:…あんたが今、俺に話してくれたことを、あんたの事件の事実を、包み隠さず全部記事にする!あんたの最後の一言まで全部!嘘偽りなく書く!……そんな事で、あんたの罪の全部を消せるなんて思ってねえし、あんたの事を完全に救えるとは思ってねえ…けどあんたを縛りつけてる枷が、鎖が少しでも軽くなるなら…上になんと言われようが俺は最後まで書く!だから!!!


アッシュ:くっ…あはははは!!


テリー:…アッシュ?


アッシュ:あーあ、本当におもしれえなぁ……楽しみにしてるよ、テリー…お前が俺の背負ってるモンを軽くできるのか……取材に来たのが…話を聞いてくれたのが、お前で良かったよ、ありがとうな


テリー:な、なんだよ、改まって礼なんて…なんか恥ずかしいだろ


アッシュ:照れるな照れるな


テリー:照れてねえよ!バカ!


アッシュ:ははは!…さあ、もう時間(タイムリミット)だ…気をつけて帰れ


テリー:ああ、そうか…じゃあ、また来るよ、アッシュ


アッシュ:…いや…さよならだ、テリー




テリー(M):その後、俺は早速、アッシュとの会話を記事に起こし、上司に直談判して、この記事を大々的に載せてもらうことになった。そのことをアッシュに報告しようと、俺は刑務所に向かった…




テリー:…は?ちょっと待って…今、なんて…なんて言ったんですか…?




テリー(M):看守の報告に思わず耳を疑った…彼は、隠し持っていた針金を凶器に、首を切り、死んだそうだ…つい1時間前の出来事だった…まるで俺がここに来る事を予知していたかのような死の報告に、俺は愕然としていた…その後、俺は看守から、一通の手紙を受け取った




テリー:差出人は…アッシュ…?





───テリー、アッシュからの手紙を開ける





アッシュ(M):やあ、テレンス、元気か?これを今読んでるってことは、俺は死んだってことだな…なぁんて、ありきたりな文面はさておきだ…まずは、すまなかった…お前が書いた記事を読むことが出来なくて…そして、死んでしまって…本当にすまなかった。



テリー:なんだよ…本当だよ…あんたのために書いたのに…あんたを救うために書いたのに…なんで死んだんだよ…馬鹿野郎



アッシュ(M):あぁ…俺が死んだ理由…か…そうだな……お前にはきっと、一生分からないだろうな……いいんだ、お前は分からなくていい、わからないでいて欲しい……まあ、ただひとつだけ言えるとしたら、これが俺が出した「こたえ」って事だ………最後に、ありがとう、テリー…お前に出会えてよかった…お前と話せて楽しかった…面と向かっては言えなかったが、お前はアイツにそっくりだったんだ…



テリー:え…?




───泣くアッシュ、涙で文字が歪んでいる




アッシュ(M):…お前は、本当にアイツに似てた……話し方も、声も、顔も……また最愛の友に出会えた気がして…許されたような気がして…本当に、嬉しかったんだ…



テリー:…アッシュ…



アッシュ(M):…はは…こんな事で泣くなんてな…俺も歳をとったのかな……あの日のお前の言葉のおかげで、心の枷が外れたよ…本当にありがとう……俺は死んでしまったけど、お前が忘れない限り、俺はお前の心の中で生き続ける…覚えておけ…人が本当に死ぬ時は、肉体が消えた時でも、魂が消えた時でもない…人の記憶の中から…心の中から、忘れら去られた時だ……さあ、お別れの時間だ…いつかまた、どこかで会える日を願って……さよならだ……親愛なるテリーへ…アッシュより



テリー:……ああ…あぁ…忘れないよ、アッシュ……あんたのような、凶悪で残酷で、優しい囚人が、この世に居たって言うこと…たとえ他のやつが忘れても、俺は……俺だけはずっと、お前を忘れない…約束だ




テリー(M):「忘れる」というのは、時に酷く残酷で、時に酷く恐ろしく、そして時に酷く優しい…彼が本気で、自身の罪の呪縛から解放されたと願ったのなら、なぜ「死」という道を選んだのか……それはもうきっと、彼自身にしか分からない。……以上、雑誌記者、テリー・キャデラックより…この雑誌をご購読頂き、本当にありがとう。またいつか、この雑誌でお会いしましょう。






終わり





あとがき

「忘れる」ということの罪の大きさは計り知れない。

しかし、それは時に優しさに変わるのかもしれない。