これが火球の正体だ ~火球目撃からわかること~
河越彰彦
2月28日の火球
米子市と鳥取市のほか多数の目撃情報かあったが、軌道計算に使えるものは少なかった。使用データはどちらもドライブレコーダ動画で、米子市も鳥取市も撮影地点を見つけて計算をした。以下に結果を示す。
実経路計算結果
実経路 隠岐の島の北東海上を北東に飛行(地図参照)
発光点 高度約90km、但し米子動画が途中からの撮影なので発光点は
もっと隠岐側になるだろう。
消滅点 高度約25km。経路長約88km。継続時間が約6秒だから、対地速度15km/sec
2021-2-28の火球の実経路図
日心軌道
放射点 α0~20度 δ0~+30度の範囲だが対地速度を考慮すると
α0度、δ+10度(うお座)になる。
軌道長半径 3.0(AU)天文単位
昇交点黄経 339度
軌道傾斜角 4度
近日点距離 0.8AU
離心率 0.7
周期 5.2年
遠日点 5.1AU、木星族。
ホイップルのK指数 0.26(小惑星的軌道を表す)
近日点引数 130度。
降交点出現で降交点距離0.9962AU>0.9933AU(流星出現確実範囲)
物理的性質
絶対等級-6等(実視等級-5等)。光エネルギー10の12乗エルグ/秒。発光時の火球半径1.4cmなどが計算でわかる。しかしこの半径の計算はいろいろな仮定が入っているから精度は低い。1cm程度が妥当か?
この程度の大きさでは燃え尽きて隕石にはならない。動画でも爆発分裂は見られていない。
火球の正体
以上の結果からこの火球は典型的な黄道型流星で、起源は木星族の小惑星にあるようだ。皆さんご存知のペルセウス座流星群流星とは似ても似つかない天体である。
簡単な特徴からの判断
とても明るい流星を総じて火球と呼ぶことがあるが、厳密には適切ではない。明るい流星と火球は生まれも育ちも違う。前者は彗星に起源を持ち後者は小惑星に起源をもっている。さらに前者は地球に様々な方向から飛び込んでくるが、後者はだいたい方向が決まっている。その多くは地球と同じ方向に公転しているから、相対速度(みかけの速さ)が小さい。即ちゆっくりと飛行する特徴がある。また粒(流星物質)が比較的大きいので速度が遅くても明るく長い時間発光している。真夜中に較べ、夕方は粒に出会うチャンスが多いのでそれだから一般の人に目撃されやすい。
ひとつの特徴。ゆっくりと長く流れ明るいのでまさに火の球。西の空から東方へ向かう傾向がある。
火球のふるさと
小惑星が起源である。その小惑星も彗星のなれのはてもあれば、太陽系の始めから小惑星として今日まで運動しているものもある。これらの天体はたいてい黄道面(太陽と地球を含む面)付近に存在している。黄道付近にいれば地球の引力に引かれ大気圏に突入しても、その突入角は浅いことが多いので、浅い突入角は長時間の発光を助け、場合によっては燃え切らずに地面に到達して隕石を残すものもある。
ひとつの特徴。火球は小惑星のなかまで隕石になるものもある。そこに価値がある。
大流星群は隕石にならない
大流星群(たとえばペルセウス座流星群)などは、彗星から放出された比較的小さい粒が多い。たまに大きいものがあっても、地球に正面きって突入してくるから明るくても短時間で燃え尽きる。だから明るい流星でも隕石にはならないし、上述したような火球の特徴もない。
ひとつの特徴、大流星群に火球は出ない。待っていても出ない。
おとめ座火球群?
ちょうど今頃、3月から4月にかけて活動するおとめ座流星群が過去に隕石を降らしたことがある。1959年4月7日、おとめ座に放射点もつ天体がチェコ・スロバキアに隕石となって落下した。後年しらべると単なる偶然ではなくおとめ座の一角(赤経175~185度、赤緯0~+10度)には隕石候補とおぼしき天体が分布していることがわかった(筆者の軌道計算でも確認済)。だからと言って流星群でも隕石を降らせるとは言いがたい。それはおとめ座流星群とは各種小規模流星群の複合体あって、ペルセウス群のような巨大単一群ではないからだ。
実はおとめ群のみならず、夕方西空低いところには隕石候補の天体が地球に飛び込む準備をしている。総じて火球群と言いたいような様相である。今回の火球の飛来方向、うお座ものその候補である。
ひとつの特徴と予測。夕方の西空に火球が出やすい。こっちのほうが目撃チャンス大。
皆さんにお願い
皆さんや、お友達が火球を見たり撮影されたら、その正体を解明できるようなデータ保存と提供をお願いします。月日、時刻、場所(町のレベルまで)、発光点位置、消滅点位置、明るさ。発光時間が必要です。
そしてよく耳にする識者の「これを機会に天文に興味をもつきっかけ」は、このデータから火球の正体がわかって初めて未知への興味が生まれる。ただ目撃しただけではそれでおしまい、何も進まない。以上
追伸 片腕を伸ばし親指を立てた時の、それぞれの寸法を測っておけば、
立てた親指の長さが見かけの角度です。筆者の場合約10度。
これで方位角と仰角が推定できます。