140字小説まとめ その5
この男、手配犯の男と似ている気がする。スパイと共謀し重要人物を何人も殺している。捕まらなければ謎は解決しないし遺族も怒るだろう。君はあの事件の犯人かと私は尋ねた。彼は軽く視線を向けたが二度首を振った。私は本人がそう言うならとそのまま彼を殺した。謎も無く快楽のままに。#140字小説 「子供が巣立って、心に大きな穴が開いたの」「穴は塞げばいいのよ」「何で?」「もちろん愛でよ!」私は、最近近所で生まれた仔犬を持っていこうと思ったのだが、次に家に行った時、彼女は年下の愛人とともに夫を捨てて家を出て行った後だった。私は余計な発言がばれないうちに去った。#140字小説 一人の男を二人の女が取り合い、男は片方を選んだ。「どうしてそっちを選んだんだ?」「俺は関西出身。あの子は肉じゃがの肉が牛で、向こうは豚だった」しかし彼は違う女と浮気したらしい。「肉が合挽きだったんだ。違う魅力に俺はどうすれば」「とりあえず女性を肉で選ぶのやめろよ」#140字小説 「先輩ぼく彼女ができたんです!」「忠告しよう。彼女のことを調べたり、全て知ろうなどと思ってはいけない。化粧品や服の値段などを知ってはいけない。知っても『こんなに高いの!?』などと口にしてはいけない。そして突然家に行ったり冷蔵庫を覗くな」「何があったんです先輩!」#140字小説 「なりゆきで何か飼ってしまうことってあると思うの。植物とか猫とか金魚とか」「それは同意するけど、部屋で無職のオッサンが三人暮しているのはダメだと思う」「でもご飯を作ってくれたりするよ。たまに無職じゃなくて何か『構成員』だって言ってたし」「(無職よりヤバいやつじゃ)」#140字小説 重い物を落としてしまい、隣壁から「うるさい」と声がした。以来隣の生活音も気になったのだが、ある日大家さんと女が来た。「隣に越してくる○○です」「今住んでいる人は?」「誰も住んでいませんよ」その人は引っ越しをやめた。だがその後も物音がするので、私が引っ越そうと思う。#140字小説 「肉まん会議を行う」「ふかふかともちもちどちらを優先すべきか」「具との一体感を目指すべきだ」「肉質を優先するか他で個性を出すか」「……普段はみんな会長とか専務とか偉い人たちなんですよね」「もう案を出す立場じゃなくなったから、下らない事案に熱中する会を開いているのよ」#140字小説 「君は魅力的だしイタズラ好きだから、僕はいつもドキドキしっぱなしなんだ」「うふふ、私は人の顔色が変わったりするのを見るのが大好きなの」「こっちは心臓に悪いなあ」「うふふ、キャッシュカードの暗証番号を、誕生日にするのはやめたほうがいいと思うわ」「……えっ」#140字小説 「今日の料理はおいしいなあ! 何が入ってるの?」「あなたと子供への愛や、豚肉や、タマネギや、人参や、こんにゃくや、ジャガイモや、ママ友からの嫌がらせによるストレスや、お義母さんへの憎しみや、日々の生活の疲れが入っているのよ」「(急速に吐き出したくなってきた)」#140字小説 「お母さん私友達が欲しい」「異常なケチで友人を失ってきたアンタが何故」「旅行は複数で申し込んだら安いし、友人を紹介したら優待があるし、このネズミ講も友達に紹介したらお金がこれだけ入ってくるの」「アンタが欲しいそれは友人とは言わない。それは一般的にはカモと呼ぶものよ」#140字小説 こんな日はメランコリックな気分になるわ。白いレースの天蓋がついたベッドで、詩を読みながらアールグレイを飲むの。でも現実に転がるのは、マンガが散らかった部屋で昨日飲んでそのままになった缶ビールとおつまみが散らかるテーブルを掃除しなきゃならないって事実。結果、アンニュイ。#140字小説