【長柄ダム】豪雨時の対応
令和元年10月25日に発生した大雨により、支川村田川の上流に位置する長柄ダムが越流。下流域の田畑に大量の土砂が流れ込んだのをはじめ、住宅が床上浸水するなどの被害がもたらされました。床上浸水したお宅では、川が増水していることが分からず、気づいた時には家の中に水が入り込み、あっという間に腰の位置までになったそうです。幸いにも、消防団が駆けつけていただいたおかげで、九死に一生を得たとのことでした。
温暖化の影響で、同じような集中豪雨は今後も発生すると予想されます。被害を避けるためにも、これまでに各所に問い合わせた内容に基づき、当時の状況と今後の対応を自分自身の備忘録としてまとめました。
利根川と南房総をつなぐ房総導水路
長柄ダムを語るうえで、まず知っておいていただきたいのは房総導水路事業です。
房総導水路とは、房総地域の水道用水や工業用水の需要に応えるため、利根川で取水した水を大多喜町まで送るための約100kmに及ぶ導水路です。取水地より標高の高い丘陵地帯へ水を送るために、五つのポンプ場と二つのダム(東金ダム、長柄ダム)があります。
長柄ダムは房総導水路の中継地点であり、利根川方面からポンプアップされてきた水を貯留し、周辺地域の飲料水として使用されるほか、南房総方面の飲料水として、また、臨海工業地帯の工業用水として送水されます。
(独立行政法人 水資源機構ホームページより)
長柄ダムの特徴
ダムは、その目的によって3種類に分類されます。
一つ目は治水ダムです。大雨が降った際、山間部(上流)から平野部(下流)に水が一気に流れると洪水になってしまいます。そのため、流れてくる水を一時的にダムに貯め込み、下流に流れる量を調節することで洪水による被害を抑えるための水門(洪水調節機能)をもっています。
二つ目は利水ダムです。川の水をダムに貯めて、その水を水道水や工業用水、農業用水などに利用したり、水力発電に利用したりする働きをもっており、長柄ダムが該当します。
三つめは多目的ダムといい、治水ダムと利水ダムの両方の役割を担うダムです。高滝ダムが該当します。
10月25日の雨量と越流
千葉県では、25日3時から16時頃にかけて雨が降り続き、広い範囲で日降水量100mmを観測し、県内6カ所のアメダスでは200mmを超える大雨となりました。この日最も多く雨が観測された地点は市原市のアメダス牛久で、285.0mmを観測し、佐倉では観測史上1位となる248.0mmを記録しました。10月の降水量の平年値は、牛久で218.6mm、佐倉で185.8mmであることから、およそ半日で1カ月分を超える量の雨が降りました。
長柄ダムは利水ダムであるため、高滝ダムのように下流河川の洪水量を減らし、被害軽減を図る洪水調節機能はありません。そのため、貯水位が一定以上となった場合には、ダムに流れ込んできた分だけ、水を流す専用の場所(洪水吐き)から越流して、支川村田川に放流することになりますが、10月25日の記録的豪雨により、水位がダム洪水吐きの高さを越え、支川村田川への放流へと至りました。
長柄ダム管理者の動き
管理開始以来の記録的豪雨であり、洪水吐きを超えることが予想されたことから、市原市役所をはじめ、県の市原土木事務所(河川管理者)や警察へ連絡するとともに、地域住民に危険を知らせるための警報を鳴らすため、長柄ダムから村田川へ合流するまでの6か所にある警報局(古都辺、竹ノ谷、犬成、身の肌、永吉、下野)へ向かいました。
しかし、途中の道路が土砂崩れにより寸断されており、警報を鳴らすには現地に行ってスピーカーを吹鳴させなければならなかったため、6警報局のうち1局(古都辺)のみしか警報を実施することができなかったようです。
令和元年10月豪雨を踏まえた警報局の整備について
- 警報局操作方式の変更
道路が土砂崩れにより警報局まで行くことができなかった反省を踏まえ、スピーカーの吹鳴が確実に行えるよう、管理所から遠隔でスピーカーを吹鳴させることができる「遠方操作方式」への変更。
※この変更には、機器や通信方式の検討・設計を行ったうえで、機器の製作、現地での設置工事が必要になるため、運用開始は令和3年10月を目途に行うようです。
- 長柄ダムの貯水位の暫定運用
長柄ダムは本来、渇水に備えて貯水位を高く保つ必要があるが、警報局が遠隔操作方式に変更となる令和3年10月までの出水期(6月から10月)においては、暫定的に従来の管理水位から0.5m程度下げた水位での運用。
※水資源機構に確認したところ、管理水位とは洪水吐きより0.5m下がった位置であるため、合計で洪水吐きより1m下がった位置での運用となります。このことにより、10月25日豪雨でダムに流れ込んだ水以上に貯留が可能となるようです。
- ダム越流前の直接連絡
河川周辺居住者に対しては、管理所から直接連絡を行う方法を合わせて実施。
※地域住民の把握はできているか確認したところ、10月25日豪雨の際、道路が不通となり帰宅できなかった方や浸水被害を受けた方は把握し、連絡先も把握しているとのことでした。
- 市原市役所と連携を強化し、ダム放流(越流)発生前の周知
放流(越流)が想定される1時間前までに市役所へ連絡し、連絡を受けた市役所は防災行政無線や市原市情報発信メール、ツイッター、Yahoo防災速報で市民への周知の徹底。
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昨年の豪雨により、県管理の高滝ダム(市原市)や亀山ダム(君津市)では、豪雨が予測される際には、あらかじめダムの水位を下げておく事前放流という考え方が取り入れられました。利水が目的の長柄ダムは、放流設備を持ち合わせていない一方で、ポンプの制御によりダムの水量を制御できることから、今後の対応について見解を伺ったところ、以下の回答が得られました。
「揚水機場のポンプを停止することで、送水を止めることは可能である。今後、豪雨が予想される場合には、上流域(大網揚水機場)のポンプを停止するとともに、下流域である南房総方面と袖ヶ浦方面への送水を行い、ダムの水位を下げるようにする。」
なお、10月25日も大雨の予想であったため、上流側のポンプを停止し送水して送水を行わなかったとのこと。
同様の被害が二度と出ないことを望みます。
【参考資料】
「水資源機構」作成の回覧資料など