クテノポマ ウィークシィ(Ctenopoma weeksii)の産卵・孵化に成功
2018年9月から始めたクテノポマ ウィークシィの繁殖への取り組みは、ついに産卵・孵化の成功まで至ることが出来た。以下にそこに至るまでの取り組みをまとめてみる。
【飼育環境】
水槽:90×30×36cm水槽
照明:コトブキ社フラットLED900 1灯
(10:00~23:00まで点灯)
濾過:スポンジフィルター×3
隠れ家:塩ビ管、アヌビアスバルテリー、人工水草
餌:コトブキ社フライミックス(小粒~中粒)※2018年9月の飼育開始時よりフライミックス単食
【~2020.12】
2018年の取り組み開始初期から2020年12月までは、ペアが揃っていて、健康に育てていればそのうち産卵するのではないかという安易な考えから、一般的に魚を性成熟させるのに重要と言われる日照時間を意識しつつ、クテノポマ属の棲息環境をイメージして、身近なもので代用しながらその環境を再現することに注力していた。
しかし、雌がふっくらした体型になり、抱卵していると思われながらも、全く産卵する気配がなかったことから、産卵のトリガーやそれまで許容範囲内にあると思っていた水質についても再考を余儀なくされる。
【2021.1】
クテノポマ ウィークシィの好適pHについて、「FIsh Base」では6.2~7.2と示されているが、我が家で使用している水道水のpHは7.4前後であった。まずはこれを上記の範囲内に整え、それを常態とすることにした。そこでテトラ社の「pH/KHマイナス」を換水時に用いることに加え、換水頻度を落として硝酸の蓄積による酸性化を利用しながら、pHをおおよそ6.2~6.5の範囲に落ち着かせることができた。
また、それと同時に、産卵のトリガーとして海外の文献にもあった「一時的な水温低下」を実践してみることとした。2021年1月に実践したのは、約17~18℃の水道水で1/2~3/4量換水し、水温を最大-6℃(26℃→20℃)まで約15~30分程で変化させたこと。また、その際、自然化では雨季の降雨による一時的な水温低下、水質変化があるものと考えたことから、pHの変化も加えようと思い、飼育水と同程度またはpH5.5程度に調整した水道水を用いた。しかし、これらの換水による明らかな行動の変化は確認できなかった。
【2021.3.4】
上記の換水による刺激では明らかな行動の変化が確認出来なかった為、これまでの換水量より多い、約80%強の換水を行った。これにより水温はこれまでで最も変化の大きい25℃→18℃となった。尚、この時点で元々の飼育水のpHは、上記の飼育水より低めのpHの水による換水により、常にpH6弱となっていた。
【2021.3.6】
3月4日の換水の二日後の夜、雄が雌を追尾しているのを確認(動画参照)。このような行動は初めて確認される。確認できた限りでは、追尾は1時間30分以上続いた。この時点で水槽の照明がタイマー設定に従って消灯し、それまで落ち着きなく泳ぎ回っていた雌は水草の茂みの奥へ隠れ、それに伴って、雄の追尾も終わった。
【2021.3.7】
雌の落ち着きのない行動と雄による追尾が見られた翌日の夜、産卵が確認された。卵は人工水草周辺に浮かんでおり(画像参照)、卵のみ掬い出すのは容易であった。この時点でペアのみならず、その他の個体も水草の茂みや塩ビ管の中に隠れており、姿を確認することは困難であった。産卵行動があったことで、水槽内の全個体に普段とは異なる影響があったものと思われる。
水槽から掬いだした卵は、計6つの容器(プラケースや小型の瓶)に分けてみることとした。この時点で無精卵は全体の2~3割ほどであった。
【2021.3.8】
3月8日7:00(産卵から10~22時間経過)、卵の中に、おそらく眼球と思われる黒い2つの点が確認できる。そして18:00の段階で既に多数孵化している個体が確認できた(画像参照)。孵化した個体は水面に浮いたまま、刺激がない限り微動だにしない。
【2021.3.9】孵化後2日目
仔魚は2mmほどの大きさに見える。試しに稚魚用粉末飼料をごく少量与えてみるが、やはり全く反応しない。
【2021.3.10】孵化後3日目
仔魚の大半は前日と同様に水面で静止しているが、一部ケースの壁にくっつくように静止している個体を確認。粉末餌には反応なし。
【2021.3.12】孵化後5日目
ブラインシュリンプを与えてみるが反応なし。
【2021.3.13】孵化後6日目
前日に比べ刺激がなくても遊泳している個体をちらほら見かけるようになる。ブラインシュリンプと粉末飼料を与えてみるが、はっきりと食べている瞬間は確認できない。
【2021.3.14】孵化後7日目
孵化確認から約132時間経過後、初めてブラインシュリンプを捕食している姿が確認できた。
【2021.3.15】孵化後8日目
稚魚は日に数匹程度は死んでいる様子。稚魚を管理しているケースはエアレーションをしていないため、死んだ稚魚や油膜のようなものが水面に蓄積する。それらを竹串の先端に付着させて取り除く作業を毎日行う。
一部の稚魚の尾ひれの付け根付近に黒い点が確認できるようになる。体型は魚の形に近づいている様子。
給餌は6:00、15:00、18:00、20:00、22:00の5回実施。夜の給餌の合間に1/3程度の換水を行う。
【2021.3.17】孵化後10日目
ブラインシュリンプの孵化率がアップしてきた。数百匹はいるであろう稚魚の中でも、積極的に食べる個体はそれほど多くないように見える。そうなると、夜間の2時間置きの給餌は多過ぎるようだ。あまり泳がず、水面に留まっているだけの個体は自然淘汰されていく気がする。そこから残る強い個体だけを育てていくべきか迷うところ。
【2021.3.19】孵化後12日目
最も大きい個体は4mmほどに達している。10日目には体部後半の黒い部分の面積が大きくなり、本日までに頭部が少し白っぽくなっている。これがウィークシィのマダラ模様の原型か(画像参照)。
【2021.3.20】孵化後13日目
夕方、一時的に最も飼育密度が高いケースのみ、稚魚たちの一部が集団で水面に向かっての上下運動を繰り返しているのが確認される。その後、この行動は見られなくなった。(動画参照)
【2021.3.21】孵化後14日目
大きめの個体では胸ヒレの存在がはっきり確認できる(画像参照)。
【2021.3.25】孵化後19日目
飼育密度が最も高いケースの死亡率が明らかに高い為、ケースを9つに増やし、稚魚を分散させて管理することにする。飼育密度が低く、比較的成長率が高いケースでは、中層域を漂うように静止、または遊泳している個体が多い。逆に密度が高いケースでは水面に留まっている個体が多い印象。
【2021.4.4】孵化後27日目
最大径7~8cm程度の小瓶に微生物を発生させて(いるつもりで)管理していた5、6匹が最も大きく成長していたが、ここ2日ほど、よく成長している個体が1匹ずつ落ちていく状態が続いた。狭い容器であった為、争いが生じたか、水質の悪化か不明だったが、良くない状況であると思われた為、小瓶で管理していた個体を全て、比較的飼育密度が低いケースへ移すことにした。
この時点で、最も大きい個体は体長10mm程に成長していた。
【2021.4.12】孵化後35日目
最も大きく成長している個体は全長15mm近くまでになっている。体部中央のバンド中心部には、ウィークシィの特徴のひとつでもある黒斑が確認できる。
【毎日のメンテナンス】*2021.3,20時点
○稚魚管理用ケース
・毎日1/2~1/3換水(スポイト使用)
・給餌 平日3回/日(6:00,16:00,20:00) 土日5回/日(7:00,10:00,13:00,16:00,20:00)
○餌関係
・ブラインシュリンプを皿式にて沸かす(8枚のトレイを毎日3~4枚ずつローテーション)
・ブライン用塩水を作る(毎日)
○換水
・換水用の水道水をタンクでキープ(pH6~7に調整)
↓追尾の様子
↓普段の様子
↓産卵直後 白く見えるのは無精卵、その周辺には透明な有精卵が浮いています。
↑ 孵化開始直後
↑孵化後12日目
↑孵化後13日目 飼育密度の高いケースでのみ、稚魚たちの水面に向かっての上下運動が繰り返される
↑孵化後14日目 胸ヒレがはっきり確認できる個体が
↑孵化後19日目
↑孵化後21日目 体長は5~6mmほど
↑孵化後26日目 体長は大きい個体で10mm近く。多くの個体は7mmほど。
↑孵化後29日目 大きい個体は背鰭の鰭条やウィークシィらしい斑模様が確認できる。
↑体部中央バンド内の黒斑が確認できる
↑孵化後34日目 最も大きい個体は全長15mmほど。
↓孵化後49日目 このあたりから餌は乾燥アカムシ・乾燥イトミミズメイン、補助的にブラインシュリンプを与えるようになる。この時点で、大きいものは20mm近くまで成長している。
↓5月4日現在サテライト以外で管理している最も飼育密度の高い水槽は、1日に数匹ずつ稚魚が落ちていっている。大きく成長している個体まで落ちていくのはこれまでになかった。反対にサテライトで管理している個体たちはほとんど落ちることはない。
謝辞
今回クテノポマ ウィークシィの産卵・孵化までたどり着けたのは、月間アクアライフの山田氏、ブログ「コリドラス7.2cm」の運営者ざうらー氏を始めとした、先輩諸氏のご教授があったからに他なりません。今回、クテノポマ ウィークシィの産卵・孵化の過程で得られた知見が、クテノポマの繁殖を試みる何方かのお役に立てることを願って、その全てをここに記しておきます。