ポリネシア諸語
https://www.aloha-program.com/curriculum/lecture/detail/474 【ポリネシア諸語】 より
ハワイ語をはじめ、太平洋の島々で広く使われてる言語です
ダニエル K. イノウエ ( Daniel K. Inouye ) 国際空港。
日本からハワイへの玄関口、そして隣島への乗継に何気なく利用しているホノルル空港。
ここにアオレレ通り ( Aolele St. ) と云うハワイ語の名の道が在ります。ハワイアン航空が使用している第1ターミナルの山側、郵便局の大きなビルの前からダイアモンドヘッドの方向、ケエヒ ( Keʻehi ) ラグーンに向かって長く延びる通りです。
ハワイアン航空が使用するターミナル1の屋上から見る、郵便局とアオレレ通り
「アオ」はハワイ語で雲や陽の光、「レレ」は飛ぶことを意味しますので、アオレレは貿易風に乗って流れてくる雲を表していて、ホノルルに到着した時に感じる何とも爽やかな気候を象徴するような名です。
実はホノルル空港の周辺には、この他にもアオの付く通りの名が幾つも見つかります。例えばアオケア
プレイス ( Aokea Pl. ) は、白い雲。空港のエヴァ側(西側)、ハワイアン航空の整備場や島間航空貨物を扱う会社に通じています。
アオケア プレイスの道路標示
これらの道の名付け親は、一度消滅しかけたハワイ語の真髄と意味を後世に伝えようと、ハワイ語辞書や、ハワイ語の格言集「オレロ ノエアウ」 ( ʻŌlelo noʻeau ) 、「ナナ イ ケ クム」 ( Nānā i ke kumu ) を編纂したメリー カヴェナ プクイ ( Mary Kawena Pukui ) さんだと、ある本に紹介されています。
このホノルル空港から、ネイティヴハワイアンと同じポリネシア人のマオリ ( マオリ語では Māori ) の人々の住むニュージーランドのオークランドまでは直行便で9時間ほど、7千キロ以上の距離があります。
ニュージーランドはマオリ語でアオテアロア ( Aotearoa ) と云い、白く長い雲のたなびく地を意味します。
同じポリネシア語の中でも、マオリ語とハワイ語は、太平洋を隔ててこんなに遠く離れているのに極めて似ており、マオリ語のTの音をハワイ語のKの音に変えて発音すると同じ意味になることが多くあります。アオテアロアの「アオ」はマオリ語でも雲を指します。テアは、Tの音をKに変換してみると、山頂に白い雪を頂くハワイ島マウナケアの「ケア」、白を意味します。そしてロアはマウナロアの「ロア」、ハワイ語でも横に長く延びることを云います。実に似ているでしょう!
太平洋に広がるポリネシア語の類似性を表す1例です。
これはハワイ島ヒロから見たマウナケアですが、アオテアロアの光景はこんな感じなのでしょうか
ポリネシア考古学では、ハワイには先ずマルケサスから人々が初めて到達し、その後、紀元後千年から千3百年頃にはタヒチとハワイとの間に双胴カヌーによる双方向の交流があったと考えられています。
一方、マオリは紀元後千年以降にタヒチのあたりから西へ移動した人達だと考えられていますので、大海で隔てられているものの、ハワイアンとマオリは、多くの文化的共通点や言語の類似性を持っているのです。
ポリネシア人の移動を示す概念図(ビショップ博物館パシフィックホールの展示物より)
さて、ポリネシア諸語はオーストロネシア語族に属する言語です。
オーストロネシア語族の言語が使われている地域の北端は台湾、東はポリネシアのイースター島、南はマオリが住んでいるニュージーランド、そしてインド洋を越えて遥か西のマダガスカル島まで、洋上に広範囲に拡散していますが極めて類縁性の高い言語で、その中でも台湾原住民の言語に最も古い形が残されていると考えられています。
ポリネシア考古学で、ポリネシア人は元々、中国南部や台湾のあたりからフィリピンやソロモン群島の島々を南に移動して、今から約3千年前にサモアやトンガにたどり着いた人だと考えられているのと、一致する結果でもあります。
その中で、ポリネシア諸語は幾つかに分類されていますが、ハワイ語は、タヒチ語やマオリ語、マルケサス語などと共に、東ポリネシア諸語に属します。
難しい分類はさて置き、ハワイ語とマオリ語が何故近い存在であることが解るでしょう。
以前、ビショップ博物館で踊りを披露したマルケサスからの一行
ポリネシア諸語と、それを含むオーストロネシア語族の言葉がどのくらい似ているか、ビショップ博物館本館のパシフィックホールに、それを示すビデオ画面がありますので、いくつか紹介してみます。
元々、文字を持たなかった言語ですので、欧米人がアルファベットに置き換えて書き留めた際に、聞こえ方によってL で表記したかR にしたか、表記方の違いはあるものの、音の類似性を見極めて下さい。
先ずは、数字の5。 ハワイ語でリマ ( lima ) 。タヒチ語だけは故有って違う発音になっていますが、他はほぼ同じです。
オーストロネシア語に属する各地の言葉で5は何と云うか、示した画面(ビショップ博物館パシフィックホールの展示より)
飲む。ハワイ語でイヌ ( inu )
魚。ハワイ語でイア ( iʻa )
鳥。ハワイ語でマヌ ( manu )
火。ハワイ語でアヒ ( ahi )
詳しくは是非、ビショップ博物館本館3階のパシフィックホールで確かめて下さい。他にも類似する言葉が紹介されています。
ところで、1881年(明治14年)にハワイ王国第7代目の王カラカウアが世界一周の旅に出ました。サンフランシスコで船を乗り換え、最初に到着した東洋の地が横浜でした。東京で明治天皇に謁見したカラカウア王は、その後、関西、中国、タイ、シンガポール、インドなどを経由して欧州に向かいますが、シンガポール滞在中に対岸ジョホールのマハラジャから招待を受けました。
その時、マレーの言葉とハワイ語が似ていることに気が付き、驚愕したことが記録されています。
今のようにオーストロネシア語族などと云う概念が全く無い時代です。遠いアジアの国で母国語と同じ言葉を聞き、さぞかし驚いたことでしょう。その1つが数字の5、リマでした。
今でも、マレーシアやインドネシア、フィリピンでも数字の5はリマと発音されています。
ジョホールバルに現存する宮殿。カラカウア王はこの宮殿に招待されたのだと思われる。
タヒチ語を仲立ちにして、ハワイ語とマオリ語が似ていることに話に戻しますが、神をハワイ語でアクア ( akua ) と云いますが、マオリ語ではKの音がTになりアトゥア ( atua ) と発音します。マオリ語で歌われるニュージーランド国歌の一小節目に出てきますし、ハワイ語と同じ愛情を表すアロハと云う言葉も国歌の歌詞に出てきます。
ニュージーランド南島の主要都市、クライストチャーチは2011年に大地震に見舞われ、市の中心部に在った聖公会の主教座聖堂も壊れてしまったと聞いていますが、この大聖堂の入口近くに、マオリ語で書かれた主の祈りの大きな石板がありました。ハワイ語を解する人なら英語を介さなくても、ある程度理解出来るものです。
ニュージーランド南島、クライストチャーチの大聖堂にあった主の祈りの石板。地震の後も壊れずに残っていることを望みます。
この章のポイント
ハワイ語は、太平洋に広がるポリネシアの島々で話されているポリネシア諸語の1つです。
付帯的な情報・発展情報
ポリネシア語を、ハワイ語ではオレロ ポレネキア ( ʻŌlelo Polenekia ) と云います。
ネイティヴハワイアンの人々は、自分達、純血のハワイアンを、カナカ マオリ ( kanaka maoli ) と称します。