歌枕と、「聖地巡礼」
http://ina.under.jp/utamakura.html 【歌枕と、「聖地巡礼」】 より
歌枕1我が家から歩いて行ける所に、一級河川の「名取川」がある。仙台に引っ越した頃、なんか聞いたことのあるような名前だなと思っていたら、古代の和歌に詠まれた歌枕だった。
歌枕というのは、古代の歌人が、和歌に詠み入れた山や川や土地名であり、その和歌が有名になるにつれて、そのイメージが膨らんで、後代の歌人にとっての、憧れの対象になった名所である。
その歌枕が宮城県にはけっこう多い。なぜかというと、平安時代に大和朝廷が、蝦夷を従わせ、東北地方を統治する拠点としての鎮守府である「多賀城」を置いた土地だったからだ。そこには、京都から貴族が、代わる代わる、役人として派遣されるのだが、当時の貴族は皆、なにかしらの歌詠みである。万葉歌人として有名な大伴家持も、多賀城の長官となって来ている。
京都朝廷の貴族にとって、東北の蝦夷地に赴くというのは、最初は心が重かったと思うが、実際に来てみると、西国地方とは違う自然の風景や、風土が新鮮であり、驚き、魅力を感じようである。
東北出張から、京都に帰ってきた公家達は、友人達に、「おまえら知らんだろう。すげーぞー、見たこともないような景色ばかりで、見たこともないような花が咲きまくって、天国のような景色だぞお!」と吹聴しまくったのである。そのため、少なくとも和歌の世界では
ロマンチックな土地として、東北は憧れられたのである。
そして、平安末期に西行法師が東北を旅行し、その紀行文の和歌に詠んだ歌枕が有名になると、江戸時代には、松尾芭蕉がその歌枕に憧れて、いちいち訪ね回っては「奥の細道」を書くに至るのである。
名取川も、その歌枕であったし、今の仙台市は、平安時代には「宮城野(みやぎの)」と呼ばれ、萩の花が乱れ咲く、幻想的な土地と思われたのであった。しかし、実際の萩の花というのは、雑草にも近い、紫色の小さな地味な花であり、ずいぶんイメージを膨らませたものである。芭蕉は、宮城野の萩について激賞しているが、彼が仙台に来たのは夏であり、秋の花である萩は咲いていなかった。想像の世界で、胸キュンして楽しんでいるのである。そして、似たような現象は現代にもある。
それは、映画で観たロケ地を訪れるということだ。撮影された場所などは、ネットで検索すると、ほぼわかるようになっているので、そこに若者がやって来て、仲間と一緒に記念写真を撮るというのが流行っている。そういうのを、「聖地巡礼」と呼ぶらしい。気に入った作品があると、日本中のどんな遠くでも出かけていって、その場所に立って、胸キュンするらしい。
実は、ぼくら夫婦も同じことをやったのだ。近くのレンタルビデオ店に行くと、「仙台を舞台にした映画作品」というコーナーがあり、おもしろそうなので、夫婦で観た後に、「これ、あそこじゃない?」という会話になり、「いい風景だけど、あそこに、こんな所があったの?行ってみようか」ということになり、実際にそこに行ってみると、「あ!ここだ、ここだ」となにかしらミーハーになって、感激するものである。うれしくなって、「多分、カメラはここから映したのよ!」と妻も興奮し、「あなた、そこに立って手を振ってみて」と注文をつけられ、スマホで何枚も写真を撮るのであった。これが現代の歌枕である。
もし、芭蕉の時代に、スマホがあったら、松島でも多賀城でも、歌枕の前で、同行の曽良に「うまく写せよ」と言いながら、ポーズを決めてめっちゃやたらと写真を撮りまくっていたのではなかろうか。
https://www.smt.jp/library/av/special/2006/03/ 【3月の特集「みちのくの歌枕」】 より
和歌に詠まれた地名や名所のことを歌枕といいます。 宮城県は古くはみちのくと呼ばれていましたが、このみちのくを能因法師(のういんほうし) (平安時代を代表する歌人の1人)は京都、奈良に次ぐ第3の歌枕の国として位置づけています。 最近話題になった野球場のある「宮城野」も歌枕の1つです。 この歌枕が詠み込まれた歌は『源氏物語』の「桐壺」にも見ることができます(『源氏物語』の項で紹介します)。
このほか、
「宮城野の もとあらの小萩 つゆをおもみ 風をまつごと 君をこそまて」(『古今和歌集』)
「さまざまに 心ぞとむる 宮城野の 花のいろいろ 虫のこえごえ」(『千載和歌集』)
などがあります。
身近にある歌枕を訪ね、数少ない言葉に込められた気持ちや情景に触れてみてはいかがでしょうか。
和歌
日本に古くから伝わる詩の形式。奈良時代以降、万葉集や古今和歌集、新古今和歌集などの和歌集が編集されてきました。平安時代になると和歌によって語られる「歌物語」が登場しました。
タイトル メディア 内容 請求番号
犬養孝わたしの万葉歌碑 1-3 VHS 万葉学者犬養孝が書いた「万葉歌碑」を訪ね、「犬養節」朗誦を聞きながら、いにしえの万葉びとの心にふれる。 Y1イヌ1-3
CD紀行 犬養孝わたしの万葉歌碑 CD 万葉学者犬養孝の「犬養節」朗誦を聞きながら、いにしえの万葉びとの心にふれる。 Y1イヌ4
暗唱したい万葉の歌 CD 奈良時代後期にできた歌集『万葉集』。この現存する日本最古の歌集からよく知られる87首を収録。 G8ココ1
アニメ古典文学館6 万葉集 VHS 日本最古の歌集『万葉集』の世界を印象深くアニメ化。親しみやすい作品をとりあげ、その背景、作者の心情を詩情豊かに描く。子どもたちを初めて出会う歌の世界へ興味深く誘う。 W2アニ6
万葉集 VHS 飛鳥時代から奈良時代を中心に約4500首集めた『万葉集』の中から代表的な歌人の作品を美しい映像と絵画を背景に解説する。 Y1マン
四季 万葉紀行 1-4 VHS 多くの万葉の歌から四季の自然にスポットをあてたものを選び、その歌が詠まれた場所を訪ねている。万葉歌人が心ひかれた風景を味わう。 O4シキ1-4
古今和歌集 VHS 醍醐天皇の命により成立した、我が国最初の勅撰和歌集。『古今和歌集』の代表的名歌をとりあげてその作者にふれる。歌に詠み込まれた情景への想像を誘う映像が用いられている。 Y1コキ
新古今和歌集 VHS 後鳥羽上皇の命によって鎌倉時代はじめに成立した勅撰和歌集。西行、藤原家隆などの代表作を厳選して紹介し、彼らが詠んだ景観をしのばせる映像を用いて『新古今和歌集』の世界を描く。 Y1シン
そらんじたい和歌170選 CD 中国の詩「からうた」に対し、日本固有の歌である「やまとうた」を意味する和歌。その集大成である古今和歌集より、百人一首にある歌も含めた170首を収録。 G8ココ8
知ってる?百人一首(館内視聴のみ) VHS 歌、作者、言葉の意味などをイラストやアニメで簡潔に紹介。和歌の世界が現代にも通じる身近なものとして楽しむことができる。 Y1シツ
伊勢物語 VHS 「歌物語」として有名なばかりでなく、王朝物語の代表作のひとつ。在原業平をモデルとする主人公の成人以後の恋、友情などを描いた物語。 Y1イセ
伝えたい美しい日本のことば CD 声に出して読んでみたい名文の数々。誰でも知っているうつくしい言葉36編を『伊勢物語』、『奥の細道』など古典文学、近代文学、近代詩から収録。 G8ココ4
無常の歌人 西行 CD 平安後期の漂泊の歌人・西行は旅と自然の詩人として、また人間の生き方の理想を表すものとして親しまれてきた。その生涯と作品は日本人の美意識を具現化したものとも言える。 G8ココ25
『源氏物語』
『源氏物語』の「桐壺」の一節に「宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを 思ひこそやれ」と、 若宮を小萩にたとえてその身を案じた和歌があります。
タイトル メディア 内容 請求番号
源氏物語 VHS わが国小説史の中で質量ともに圧倒的な存在である『源氏物語』の一部「桐壺」、「若紫」を紹介。作者と作品の概要を簡潔に示し、流麗な朗読と貴重な映像で作品への関心を誘う。 Y1ケン
聴いて味わう日本の三大古典 CD 物語文学の集大成『源氏物語』と日本最初のエッセイ作品『枕草子』。そしてこの2作品の流れをくみ、随筆というジャンルを確立させた『徒然草』。三大古典からの抜粋を収録。 G8ココ9
『奥の細道』
江戸時代前期の俳人松尾芭蕉が能因法師や西行法師などの跡をたどって、東北・北陸地方の歌枕を巡った旅を文学化した作品。
タイトル メディア 内容 請求番号
奥の細道 VHS 松尾芭蕉が46歳の時の旅を記した紀行文学。芭蕉の人生観や芸術観を探るとともに簡潔な中にも円熟した文章を味わう。 Y1オク
奥の細道 CD 江戸時代の日本の風景、古代遺跡、芭蕉自身が人々と接した心のふれあいが記された『奥の細道』を俳優寺田農が原文のまま朗読。 G8マツ
奥の細道をゆく 1-10 VHS 江戸時代に書かれた紀行文学『奥の細道』。芭蕉に思いを寄せる著名人たちが自ら旅人となり、芭蕉の足跡を訪ね歩く。 O4オク1-10
にほんごであそぼ ややこしや編 CD NHK教育テレビ 「にほんごであそぼ」のCD化。『奥の細道』、『枕草子』などを収録。 W2ニホ
アニメ古典文学館5 おくのほそ道 VHS 松尾芭蕉が記した紀行文学の最高傑作『奥の細道』をアニメでたどる。教科書でお馴染みの「序章」、「平泉」を中心に「那須」、「遊行」、「尾花沢」、「立石寺」、「最上川」、「越後路」、「大垣」などを描く。 W2アニ5