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過去10万年間の気候変動 ~プランクトン群集を用いた古環境復元~

2018.03.16 07:00

http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/special_exhibitions/PLANET/05/05-10.html【過去10万年間の気候変動 ~プランクトン群集を用いた古環境復元~(1)】 より

 地球温暖化をはじめとした、気候変動への関心が高まる中、現在の地球環境の理解と過去の地球の気候変動の把握が必要とされています。

 このパネルでは過去10万年間程度の気候変動を中心に、そのメカニズムと、気候変動解明のための一つのアプローチとして、海底堆積物中のプランクトン群集を用いた研究の例を挙げていきます。

気候変動のメカニズム(ミランコヴィッチ周期)

 温暖な白亜紀が終わり新生代にはいってから、地球の気候は寒冷化が始まりました。300万年前からその傾向は強まり、265万年前以降、北半球においても大規模な大陸氷床が形成されました。この頃から温暖期、寒冷期の周期がみられるようになり、その振幅は次第に大きくなっていきました。

 200万年前以降の周期は、歳差運動、離心率、地軸傾斜の3つの天文学的要素の変動から説明できます。そして、62万年前以降、10万年の周期を持つミランコヴィッチ周期が確立し、地球の気候は氷期・間氷期を繰り返しています。

 ミランコヴィッチ周期の中にはダンスガードオシュガー周期やハインリッヒ周期として知られる2~3千年の短い周期の気候変動も発見されていますが、その詳しいメカニズムは天文学的には説明できず、まだよくわかっていません。

離心率

 地球の公転軌道は、常に円ではなく、離心率が0.01~0.05までの楕円軌道です。このため、地球と太陽の距離が変わるため太陽の日射量が変動します。また、その周期はおよそ10万年です。ミランコヴィッチ周期では、この影響が強いです。

地軸傾斜

 地軸の傾きは現在およそ23.4°ですが、この傾きは22°~24.5°で周期的に変化します。傾きが大きくなると夏・冬の差が激しくなります。また、その周期は4万1千年です。

歳差運動

 地軸が黄道面に対して傾いているため、地球は、倒れかけのコマのような運動2万1千年の周期でしています。このため現在は北半球が冬至の時に太陽と地球間の距離が最も近くなりますが、1万年ほど後には夏至の時に最も近くなります。よって、北半球の夏は現在より暑くなると考えられます。


http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/special_exhibitions/PLANET/05/05-11.html 【過去10万年間の気候変動 ~プランクトン群集を用いた古環境復元~(2)】より

セディメントトラップ

沈降粒子の捕集

ピストンコア

海底堆積物の採取

プランクトン4大群集

 過去の気候変動を推定する、ひとつの方法として、海底堆積物中のプランクトン群集(上図)を用いるものがあります。

 プランクトン化石を用いる理由としては、少ないサンプルで多くの個体数が得られること、また多様性が高く環境の変動に鋭敏に反応することなどが挙げられます。 ピストンコアで採取した堆積物中のプランクトン化石の群集組成の変動などから、過去の気候変動を推定します。

 また過去を知るためには、現在のプランクトンに関する詳しい情報が不可欠であり、そのためにセディメント・トラップを用いて、採取した沈降粒子試料から、プランクトンの季節変動や沈降、溶解の過程を明らかにする研究も行われています。

プランクトンの中で有孔虫(Foraminifer)は、その殻の酸素同位対比が氷期・間氷期の指標として、よく利用されます(右図)。

 これは酸素には16Oと18Oの2種類がありますが、軽い16Oは海水が氷になる際に取り込まれやすく、氷期には海水中の18Oが増え、その結果、海水中に生息する有孔虫の殻にも18Oの割合が増えることによります。

サンプリング地図(オホーツク海&ベーリング海)


http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/special_exhibitions/PLANET/05/05-12.html【過去10万年間の気候変動 ~プランクトン群集を用いた古環境復元~(3)】より

オホーツク海における研究例

オホーツク海は、世界で最も低緯度で海氷の張る海域です。その原因は、オホーツク海が周囲を陸地に囲まれており、アムール川から流入する大量の淡水により表層が低塩分化し冬の冷たい季節風が冷やすためです。またオホーツク海で冷やされた水は北太平洋中層水の形成に大きな影響を持つといわれており、地球規模の熱輸送(地球の温度調節)の点からも重要な役割を果たしています。

オホーツク海の海氷の様子

(網走市役所ホームページより)

上図は、オホーツク海 における全レディオラリア(珪質殻を持つ単細胞動物性プランクトン)化石のAccumulation Rate(AR:堆積速度)を示した図です。ARは、1平方センチメートルあたり千年間に堆積した個体数を表しています。つまりARとは、その当時のレディオラリアの生産量を示しています。上図の白い部分は間氷期、青い部分は氷期、斜線部は氷期の中で比較的温暖な時期を示しています。全体を通じて氷期にレディオラリアの生産性は低く、間氷期に増加する傾向が見られます。この傾向は、おおむね前述のδ18Oのカーブに調和的で、氷期におけるARの減少は、海氷の発達による影響と考えられます。

レディオラリアの1種であるLychnocanoma nipponica sakaii という種は、他のレディオラリアが減少する氷期に増加し、約6万年前を境にして急激に減少しその後絶滅するという特異な変動を示しています(上図)。

 L. nipponica sakaii は、北太平洋亜寒帯においても約5万年前に絶滅したことが報告(Morley and Nigrini,1995)されており、おおよそオホーツク海での絶滅期とほぼ一致しています。従って、これらの海域における本種の層序学的意義(年代の指標)は大きいといえます。 

 また、これらの海域における本種の絶滅期の一致は何を意味しているのでしょうか?オホーツク海と北太平洋とのつながりを解くカギとなる種として注目しています。


http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/special_exhibitions/PLANET/05/05-13.html 【過去10万年間の気候変動 ~プランクトン群集を用いた古環境復元~(4)】 より

ベーリング海における研究例

 ベーリング海は、太平洋と大西洋を北極海を通じてつなぐ海域です。しかしベーリング海峡は水深50 mより浅く、氷期には陸続きとなりました。このように開放と閉鎖を繰り返してきたことから、この海域の環境変動は非常に激しかったと考えられます。

 海水の循環は熱のバランスに大きく影響するため、地球規模の気候変動を知るうえでも、ベーリング海の環境変動を理解することは重要です。

 またこの海域は、世界的に高い生物生産を持ち、中でも珪質殻を持つプランクトン、特に珪藻の生産が高いことで知られています。珪藻の繁殖する海は二酸化炭素の吸収能力が高く、地球温暖化の観点からも注目を集めています。

 珪藻は珪酸塩の殻を持つプランクトンです。このプランクトン群集は海洋・及びに汽水・淡水に生息し塩分や水温・光量と言った環境因子によってその種組成・生産量を変動させることが知られています。今までの研究の結果によって、珪藻はベーリング海において基礎生産を考える上で最も重要なプランクトン群集であることが分かっています。つまり珪藻の量がベーリング海の生物全体の量に大きな影響を与えている、ということです。

 左図及び下図はこの珪藻を用いたベーリング海における古環境解析の結果です。ベーリング海の東部(UMK-3A)と中南部(BOW-12A)で掘削されたピストンコア(地図参照)中の珪藻群集解析を行った結果、ベーリング海では、環境が特徴的に変動していたことが分かりました。

 ベーリング海の一次生産者である珪藻の堆積量(AR)は時代とともに、大きく変動しており(左図)、これはベーリング海内の環境変動に伴って、生物生産量が大きく変動していたことを示します。

 珪藻の種ごとの変動を詳しく調べていくと(下図)、寒冷種(気候が寒い時期に増える種)がどちらのコアでも、多く確認されたことから、ベーリング海は過去20万年間、比較的寒冷な気候が続いたと考えられます。

 また氷縁種(氷の縁に生息する珪藻)はベーリング海の東部で多く中南部では少ない結果になりました。このことから、アラスカから発達した海氷の影響がベーリング海の東部にまでは届いていたと考えられています。 

 このように同じベーリング海でも場所によって環境が異なっていることが分かっています。別地点にあるピストンコアの解析を進めることによって、空間的広がりを持ってベーリング海の古環境を復元することが出来るのです。また、長いコアを採取することができれば、ベーリング海峡の開放と閉鎖の歴史も、珪藻群集の研究から詳しくわかるようになるかもしれません。