真冬のバカンス-1-
2019年初冬。「武漢で原因不明の肺炎」の報が俄かに世間を騒つかせたその数ヶ月後。
瞬く間に話は大きくなり、国境を封鎖するしないまでの騒ぎにまでなりつつあった2020年2月のこと。それでもこの頃は発熱さえしていなければ自由往来がある程度可能であり、航空便の運行も刻一刻と状況は変わりながらもそれなりの数のフライトとその経路も未だ多岐にわたる事から何か旅程に影響を与える事態が発生したとしてもどうにかリカバリー出来る確信があった。
尤も、フライトの尽くは空気輸送もいいところであり、そのおかげかグッスリと睡眠を取り翌早朝。夜もあけきらぬバンコク・ドンムアンへ降り立った。
超混雑で悪名高いバンコク各空港のイミグレも極めてスムーズに通過し、そのままの勢いでバンコク行きの列車に飛び乗る。
夜行列車の気怠い雰囲気を感じながら、熱帯の生温い風を浴びる。
やがて列車はフアランポーンの構内へ進入する。
時刻は朝の7時頃。タイ各地から続々と到着する列車から手際よくサボが取り外され、リネンが車外へ放り出され、やがて客車が車庫へ勢いよく格納されていく。見方によれば雑な作業ではあるがそこはマイペンライ。
フワランポーンへ到着する列車の朝ラッシュが一段落すると共にこの日私に出来ることは早くも終わりを迎える。郊外へ出かければ見たいものは幾らでもあるもののバンコクへ着いたこの日の夕方にはスワンナブームから次へ飛ばなければならない。
バンコク周辺で撮りたいもののあれやこれは様々湧いてくるが今回の目当てはバンコクに非ず。極限られた日数での渡航故にこればかりは次回以降に懸けるしかない。
いざ現地に降り立つとあまりにも潔くバンコク界隈での撮影を切り捨てた当初の判断に後悔が生じるが、幸いにして日本からのバンコクへのアクセスは両手でも収まらぬ程に数多ある。バンコク周辺くらいであれば土日の暇潰し程度に訪れることも可能なのだから問題ないと己を慰める。
どうせ初のバンコク、仮にも一般的にはこの都市だけでもディスティネーションになり得る所である。柄にもないが街をそぞろ歩きしてみる。
本当なら中国を始めとするインバウンドでごった返す寺院もCovid騒ぎで客は激減。驚くほど静かにバンコク随一の観光地を散歩できるその状況は憂うべきでもありながら心の底では喜んでいた。適当にジュースを買ってその辺の路地を彷徨うのもまたよろし。よく晴れた日の下にあってとても穏やかな一日が流れていく。