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KANGE's log

映画「すくってごらん」

2021.03.17 08:08

【金魚すくいと人生は、破れても、敗れても、そこからが勝負】

ももクロのファンでもあるので、これまで小出しの情報をずっと追ってきましたが、実際に見てみるまで、どんな映画なのか、さっぱり分かりませんでした。結論としては、ジャンルでいえば、ミュージカルであり、喜劇であり、ラブストーリーであり、大林宣彦的実験映画であり、舞台のパロディであり、金魚すくいであり…というところでしょうか。

まあ、ミュージカルです。丘の上のシーンがあるのは、「ラ・ラ・ランド」を意識しているのかも。

これをあえて「ミュージカル」と呼ばず、「新感覚ポップエンターテインメント」と謳っているのは、ミュージカルガチ勢への遠慮か気後れなのでしょうか。あるいは「いやぁ、ミュージカルはちょっと…」というアレルギー体質の方もとりこみたいということですかね。

セリフではなく、感情を歌で表現するのがミュージカルだとすれば、本音を隠して、うまくこなしているつもりが、知らないうちに心の声がダダ漏れしてしまう主人公は、「生きているだけでミュージカル」です。

その本音ダダ漏れ事件が原因で、本社から奈良の片田舎の金魚の町へ左遷されてしまったエリート銀行員の香芝誠。仕事はできるものの、荒れ気味の香芝は、謎の金魚すくい店を営む吉乃に一目惚れしたり、彼に興味津々なライブ喫茶・バーの娘・明日香のことも気になったり…という物語。

タイトルの「すくってごらん」が、金魚すくいの「すくう」と「救う」の掛詞であることは、想像していました。金魚すくいに使われる小赤は、観賞用の金魚としては評価されず、弾かれてしまった金魚であるというセリフもありました。もちろん、主人公・香芝の境遇と重ね合わせている(ここは、セリフで説明しすぎ)わけですが、吉乃も明日香も、ある意味、小金と同じ弾かれてしまった身の上でもあります。

そして、金魚すくいのシーンでは、ポイが破れてしまっても、金魚をすくい続けるところが印象的です。これは、ポイが破れても、そして、仕事や恋愛、人生のいろいろな場面で敗れても、それですべてが終わるわけではなく、そこから戦い方を変えて粘り続けることができるということを示唆しているのだと思います。

ラストの展開は、香芝がそのことを理解したということなのでしょう。

ただし、最初に教えられる金魚すくいのポイント「追いかけるのではなく、待つ」は、あまり活かされていないかな…。

よくミュージカル嫌いの人が「いきなり歌い出すとかワケわからない」とか言われたりしますが、この映画の場合は、お芝居の上でも歌うシーンであったり、心の声がダダ漏れの歌になるところは、それ自体がワケわからない状況なので、あまり違和感がないかもしれません。

曲も、非常にキャッチー。これは確かに「新感覚ポップエンターテインメント」です。尾上松也・百田夏菜子、元劇団四季の柿澤勇人はもちろんですが、意外だったのが石田ニコルの歌のうまさ。モデルのイメージが強いのですが、ミュージカルの舞台も経験している方なんですね。歌と演技の両方ができる人を揃えているので、破綻がありません。

個人的には、やはり百田夏菜子に注目してしまいます。面白いのは、彼女たちが「ももクロ」として演技をする際には、アイドル役であったり、あて書きであったり、素の「ももクロ性」が求められるのですが、彼女がソロで演技の仕事をする際には、ももクロの百田夏菜子であることは求められていないんですよね。ブラックパンサーの時には、天才科学者でしたし(笑)。今回も、彼女が営む金魚すくい店紅燈屋は、明らかに遊郭を思わせるイメージでしたし、影があるというか、妖しい女性を演じています。えくぼよりも、後ろ姿のうなじに目がいってしまいます。

金魚すくいがテーマなだけに、全体的に、まるで夏祭りの縁日のような非日常感。色彩も、ちょっといかがわしさを感じるところが、とてもいいです。

演出的に面白かったのは、主要な登場人物以外は、ほぼほぼ顔を出さないというところ。そこは顔を伏せることで、あえて舞台のように「そこいることにしている」感を出しているのかと感じました。途中休憩(笑)もありましたし。先ほどの、非日常感にも通じるものがあります。

歌詞やキーワードが字幕として出てくるのがウザいとも思いますが、最後の最後で「あぁ、これがやりたかったのか」ということが分かりますので、ここは許容することにします。

気になったのは、つながりが不明なところがいくつかあったところ。

例えば、銀行のみんなで飲みに行ったところ、支店長は香芝に対して、明確に人事からの通達を伝えていません。てっきり、香芝の早合点で後から「ズコーー」という前振りなのだと思っていましたが、そのまま話が進んでしまいました。あえて、ミスディレクションする必要があるのか、不明なところでした。

また、RANCHUで待ち合わせをしたものの、仕事で遅れてきた香芝は、王寺のパフォーマンスに涙を流す吉乃を見て、いろいろ察してそのまま立ち去ります。後日、吉乃は香芝にその日のことを謝っていましたが、あの流れならば、謝るのは店に来なかったことになっている香芝の方のはず。「んっ?」と思いました。

そういう細かいところを気にしなければ、曲の強さが圧倒的に印象に残ります。きっと帰り道は「この世界をうまく泳ぐなら」が頭の中でリピートしているはずですよ。いや、それどころか、香芝のように、無意識のうちに、口ずさんでいるかもしれません。

ということで、キャストそのままで、ライブステージ「すくってごらん」を上演していただけませんか?