「何をやるのか」よりも「誰とやるのか」41歳で挑んだデンマーク留学で見つけた幸せのヒントー高野清司(介護福祉士/NPO法人ReMind理事)
近年、人の考え方や価値観が多様になる中で、「幸せになるためにやること」といった自己啓発本があふれ、幸せになるには「何をやるのか」を考える人が多いように思います。
しかし、今回のゲスト高野清司さんは介護福祉士として介護の現場で働き、福祉大国と言われるデンマークへ留学を経験したことで幸せの要素として「何をやるのか」以上に「誰とやるのか」が大切だと気づいたそうです。
そして、その想いが介護福祉士をしながらNPO法人Remindの理事と務めるという「ニソクノワラジ」につながっているとのこと。
世界一幸せな国と言われるデンマークで見つけた「コト」ではなく「ヒト」にフォーカスする幸せのヒントについて伺いました。
<profile>
高野清司
介護福祉士。2019年にデンマークのフォルケホイスコーレに留学。3か月間デンマークの福祉・教育を学ぶ。帰国後は介護の仕事をしながら、NPO法人ReMindの理事や合同会社IDEAに参画し、様々な背景の人がフラットにいられる居場所づくりをしている。
自分はただ作業をこなす人ではなく、人と関わりながら居心地の良い空間を作れる人になりたかったんです。
―高野さんはなぜ介護福祉士になろうと思ったんですか?
もともと冷凍食品製造や携帯開発の技術職として働いていたのですが、ちゃんと働いているという世間体を重視して決めた仕事だったのであんまり興味もなく、人間関係でも疲れてしまい辞めました。その後、飲食店でのアルバイトがきっかけで、人と関わることがすごく楽しいと思うようになったのですが、飲食店だと忙しい時はどうしても人と向き合う時間は少なくなってしまう。だから、もう少しじっくり人と向き合える仕事がしたいと思っていました。そんな時、たまたま見ていたテレビ番組で介護を特集していて、「介護はじっくり人と関わりながら仕事をしています。」と紹介をされていて。直感的にこれだ!と思い、介護の世界に飛び込みました。でも、実際入ってみるとめちゃくちゃ忙しくて「聞いてたのと違う!」ってなるんですけど(笑)。
―(笑)。高野さんが幸せについて考えるきっかけになったのがデンマーク留学だと伺いました。デンマークを知ったきっかけはなんですか?
自分が介護を始めた時に、たまたま見ていたテレビ番組のシーンがすごく印象に残ったんです。それは介護施設で利用者さんが使っているテーブルに、家で使っていたお気に入りの物が置かれていて、その人が家で過ごしているように穏やか顔をしているっていうシーンで。それを見て、介護はここまで人を穏やかに居心地よくできるんだと知って、すごく衝撃を受けました。それで、そのシーンはデンマークで介護をしているシーンだと知って、いつかデンマークで学びたいと思っていました。
―なるほど。日本ではその光景は珍しかったんですか?
そうですね。当時としてはすごく珍しかったと思います。自分が働いていたのは病院だったんですが、ただ寝かせるためのベットが並んでいる、すごく無機質な空間でした。でも、利用者さんは長期的に入院される方や、そのまま最期を迎える方も多かったので、ここはこの人たちにとって「病院」じゃなくて「家」であってほしいと思っていました。自分はただ事務的に作業する人ではなく、利用者さんと一緒に居心地のいい空間を一緒に作っていくことがしたかったんです。
―仕事を休んで留学するのは勇気いる決断だと思います。仕事を休むことに抵抗感はなかったですか?
なかったですね。福祉国家と言われるデンマークで、福祉を学んできたってすごく希少性のあることじゃないですか。そのメリットの方が世間体を気にするより、圧倒的に大きいなと思いました。留学を決める時期は何事もポジティブに考えるようになっていたのかもしれません(笑)。
デンマークで自分にとって幸せには「何をやるのか」よりも「誰とやるのか」が大切だと気づきました。
―「幸せ」というところでデンマーク留学を通して学んだことや変わったことはありましたか?
幸せって外の世界にあるものではなく、自分の中にあるものだと考えるようになりました。自分は留学を通して、ありのままの自分に出会うことが出来たんです。例えば、自分はフォルケホイスコーレという学校に通っていたんですが、そこではいろんな背景を持った人が一緒に暮らしているんです。それで、その中にハンディキャップを持った人たちもいて、その中の一人が毎朝「昨夜はよく眠れた?」と自分に欠かさず聞いてくれるんです。そうやって声をかけてくれる朝食の時間が、いろいろ悩んでいた時自分にとっては、本当に支えてもらっている時間で。他にも、年齢関係なくみんなでワイワイふざけあったりする中で、自分が今まで持っていた「年齢」や「職業」、「健常者」といったレッテルから抜け出した、ありのままの自分でいられたような気がしたんですよね。
あと、学校では「あなたは何者か?」とよく聞かれていて、それも自分にとってはすごく大きな問いでした。
―「自分は何者か?」すごく深い問いですね。
そうなんです。日本では自分について考えることがないので、最初はすごく苦しかった。でも、学校でいろんな人と一緒に過ごしていくうちに、少しずつ自分の姿と自分が幸せだと思う状態が見えてきて、自分は人と一緒に幸せになりたいんだと気づいたんです。人の幸せって色々形があると思うんですけど、僕は「何をするか」よりも「誰とやるか」がすごく重要になるんです。自分がありのままでいられる、信頼や安心感がある状態が自分にとって幸せなんだと気づいたんです。
―人と関わることが好きな高野さんだからこそ、見える幸せのカタチですよね。
自分が一緒にやりたいと思える人と、人のつながりを作る活動へ
―今は介護の仕事も続けながら、新しい活動もされていますよね。
はい。今は介護の仕事の傍ら、NPO法人ReMindの理事として参加したり、IDEAという会社の経営に関わったりしています。
ReMindは「みんな違って当たり前、みんな違ってみんないいんだよ」という想いから、みんな対等な社会を目指しています。活動としては、どんな人でも入ることが出来るバリアフリーカフェの立ち上げ準備をしたり、介護をしている人が集えるケアラーズカフェの運営をサポートしたりしています。
IDEAは小伝馬町という場所でカフェやコワーキングスペース、レンタルスペースなど、いろんな機能を備えたマルチスペースを作ろうとしています。そこではフォルケホイスコーレ留学を経て、日本で生きづらいなと感じている人や、そうでなくても生きづらいと感じている人が集まれる場所になればと思っています。今はオンラインイベントとかもあって話す機会はあるけど、予定や目的が合わないと話すこともできない。だけど、場所があれば行きたいと思った時にふらっと行けるし、いつでも自分の大事にしたいものや悩んでいることを話して、周りの人と一緒に学べる。それができる場所を作りたいんですよね。だから、みんなにとっての安心できる秘密基地のような場所を作りたいと思っています。
―2つとも「居場所づくり」というところが共通していますよね。なぜ居場所づくりをしたいなと思ったんですか?
それは自分がデンマーク留学を経て、介護領域だけでは解決できない問題があると気づいたからです。デンマークで福祉を学んで、自分は人とじっくり関わりたいと思ったんですけど、日本の福祉はビジネス的な側面もあるので、やっぱり効率性とかが重視されてしまう。その効率性のなかで、「人との関わり」はこぼれ落ちていると思ったんですね。だから、NPOやIDEAの活動を通して、人と人がじっくり関われる場所を作りたいと思っています。
あと、NPOもIDEAも一緒にやっている人がすごく好きなんですよね。さっき「何をやるのか」ではなく「誰とやるのか」という話をしましたが、今一緒にやっている人たちは一緒にやりたいと思っている人たちなんです。
―自分が一緒にやりたいと思える人に出会えるのはすごく素敵ですね。最後に高野さんの今後の展望を教えてください。
デンマークには今あるこの場所を最大限楽しむ「ヒュッゲ」という考え方があります。NPOでもIDEAでも、みんながフラットに居心地がいいと思える「ヒュッゲ」な居場所を作っていきたいです。自分のやっていることはすごく小さなことだし、一人で0から10に一気に変えることはできない。でも、0を1に変えたいと思っている人と10人繋がれば、10にもそれ以上にも変化は起きると思っています。だから、自分に出来ることをやりつつ、自分が一緒にやりたいと思える「誰か」とつながりながら、自分も居心地よくやっていきたいです。
―これからの活動がすごく楽しみですね!応援しています!
取材執筆/編集 外村祐理子