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Baby教室シオ

偉人『ルーシー・モード・モンゴメリー』

2021.03.19 00:00

小学生の頃無心で読んだ赤毛のアンシリーズ。隣家に住む叔母の本棚に行儀よく並んでいた本の中の1冊が『赤毛のアン』だった。叔母は外資系の石油会社に勤め独身を欧化し輝いて見え、そんな彼女が読む本は何だろうと好奇心から読んだのが始まりである。今回は空想の世界の重要性をこの女性作家から読み解いて欲しいのである。

『赤毛のアン」を読んだ事のある人ならアンと作者モンゴメリーの人生が重なることに気付くだろう。物語の主人公アンは幼くして親を亡くし孤児院で育った後、手違いで農家の養女になる。そこで年配の兄妹の養父母に育てられる。モンゴメリーもまた母を1歳9ヶ月で亡くし、母方の祖父母に引き取られ育てられた。

物語の舞台となるカナダのプリンス・エドワード島で生まれ、島でも名家の祖父母は厳格でルーシーが地元の子供達と遊ぶことを嫌い、そのため彼女は友達も無く空想の中の友達と遊び、空想の中に自身が自由になれる場所を作ったのである。主人公アンは彼女自身だった。

祖父母は文学的才覚のある一族で彼女は幼くして文学作品に多く触れる機会に恵まれた。小学生では既に文才が芽生え、15歳では作家になることを決意した。しかしこの育った環境も居心地が良いものではなく、父の再婚で一旦カナダ本土に移住するも養母との折り合いが上手く行かず再び祖父母とまた暮らすことになり、神経質な祖母との生活が始まった。

当時女性が進学することは難しかったものの祖父は孫娘の優秀さを見抜き進学させ、彼女は教鞭取得に2年かかるところを1年で取得。そこで満足することなく大学進学をするが経済的困難から断念した。不幸は更に続き祖父の死、作品の不採用、恋人の死と負の連鎖が続き、気難しい祖母の看病で気持ちが磨り減っていく。しかし転機が訪れ新鋭の作家として作品が採用されるようになった。

当時出版物はアルコール依存や自殺、セクシャル的な作品が台頭していた時代で、彼女のあまりにも清く美しい文学作品が世代を超えて人々に受け入れられた。それ以降は彼女の作品の数を見れば大成したことが分かる。

彼女はこの世を去る間際まで日記を記し、日々の生きていくことの難しさと苦悩を記していた。彼女は常に厳しい現実を受止めその苦しさに悶々としながらも作品の中では、その苦しさを乗越えるためもう一人の自分に強さと逞しさを与え、作品の中で清くしなやかに一人の女性を表現した作家である。

ではその強さと柔軟さはどこで培ったのであろうか。

母方マクニール家の文才的教育が大きく関係していることは勿論だが、幼少期の厳格な生活から心を解き放ち、どう喜びを見出すかを幼い頃から自然と空想の世界に見出していたのであろう。またその空想の世界は世界一美しいといわれる素朴な故郷の風景やそれらを取巻く空気感全てが、彼女の癒しとなっていたことが考えられる。

この仕事をしていると年に数回、子供達の言葉表現に驚かされることがある。大人の発する在り来たりの表現ではなく、純粋な子供にしかできない表現を耳にする度子供達の空想の重要性を認識する。そのような表現豊かな子供は自然界に身を置く経験を多くし、絵本を幼い頃からたくさん読んでいる、そして親子の会話にもたくさんのエッセンスがあるのだ。

特に印象深い子がいる。「・・・だったらいいのになぁ」「・・・だったら面白いかも」「わたし・・・になってみよう」と空想を楽しみ、お母様は彼女のことを『妄想っ子』と時折笑顔で例えていた。その妄想は空想であり、物事を前向きに捉えることができる才能でもある。朝露の葉から零れ落ちた一滴の夜露を彼女はこう表現した。「夜お空が流した涙が葉っぱさんのほっぺを滑って、ほくほくの土がごっくんって飲んだんだよ」

彼女の一語一句忘れてはならないと走り書きをした。

幼児が想像する世界は現実世界と非現実世界がある。現実世界を表現したこの言葉は朝早くの散歩で経験した実体験である。その実体験をどう表現するかは、彼女が多読してきた絵本の中の表現が積み重なって出てきた彼女の英知の結集である。

また非現実にはまだ経験していない実現可能な世界、近い将来経験するであろう世界、人生がどう引っくり返っても経験不可能な世界があるが、子供にとり絵本の世界においてはどの世界も空想を使えば経験が可能なのだ。

空想力は無意識に登場人物に感情移入し空想を広げ思いやりを育むこともでき、また対人関係においてどうすべきなのかを幼い頃から自然と学び社会性を身につけ、様々な情報を理解し思考を深め広げる知恵もつけることができる。また自分自身の意見を持ち自分の考えを人に伝えることもできるようになり、何より子ども自身の心や生き方を豊かにできるのだ。

100年あまり前の女性の地位がさほど高くない時代に作品にできた女性がルーシー・モード・モンゴメリーその人である。

彼女は実際の生活に悶々としたものを抱えつつも現実世界に眼を背けることなく、逃げることなく受止めて対処し、そして彼女の豊かな想像力で自分自身だけではなく多くの人々を幸せにしたしなやかさの中に逞しさを兼ね備えた女性である。

しかしその空想力を生み育むことはどんな時代であろうとも子供の普遍的成長発達に於いては変わらないものであり、その空想の芽をどの子も平等に与えられている。ただその芽を出させ伸ばすかの環境に違いがあるだけだ。親であればそのことに逸早く気付いてほしいと願うばかりである。

絵本の世界から児童文学への移行したら是非親子でルーシーの世界観を味わってほしいものだ。