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組織の盛衰 何が企業の運命を決めるのか

2021.03.21 17:48

  本書は 通産省(現、経済産業省の前身)官僚で経済企画庁長官など歴任し、その後小説家/評論家へ転身した堺屋太一さんの代表作の一つで、日本における組織について歴史的な出来事や自身の官僚時代の経験を基に論じている組織論です。堺屋さんの特色としては、現代における問題にしろ、日本の歴史からの主題にしろ、日本の独自の官僚組織の特徴(組織における日本人の考え方や行動パターン)というフィルターを通して、するどい考察を行っているところだと思います。そこが、堺屋さんの物書きとしての生命線なのだと思います。(最近では、元官僚が書いた書籍を本屋さんでよく見ますが、堺屋さんの本はそのはしりだったのではないでしょうか。たまにその手の本を読みますが、自らの守備範囲である特定産業における考察や持論なんかは深いところまでいってタメになりますが、その一方、どうも視野が狭い感じがします。その点、堺屋さんは、いろいろな分野の勉強をされていのか考察が広く、メッセージに力強さがあると思います。)

  いろいろタメになることが書かれていますが、興味深かったのは、第四章の「死に至る病」という組織が衰退する原因を論じたところです。その原因の一つに「環境への過剰反応」というのがあります。太古に存在していた恐竜が6千年にも渡り地球上で繁栄を続けていたのにある時期ごく短い期間で絶滅したというのは皆さんご存知だと思います。(例えば隕石落下説とか、気象変動説とか。。)要するに環境変化に適応できなたっかのが恐竜死滅の原因ですが、ここから堺屋さんはもう少し深くつっこんで恐竜死滅の原因を語ります。「恐竜の栄えるのに適した環境が、何らかの理由で、寒冷化し乾燥化し、身体が小さく動きの早い哺乳類に有利な状況に変わった。ところが恐竜はその化石類から見ると末期になるほどますます巨大化しているという。つまり、恐竜の『進化』は、環境変化とは逆の方向に向かっていたのである。」(P183) 

  換言すると、ある環境に適応し、その環境下で他の生物より優位に立った生物は、あまりにもその環境に適応しすぎたため、いったん環境変化が起こったら、その環境変化に対応することができなくなり、(ここが面白いのですが)「自らが繫栄してきた過程を繰り返し、適応とは逆の方向へ変化する、」というのです。これを堺屋さんは自らの組織論に置き換えて、ある環境下に完全に適応した(つまり、成功を収めた)組織は、その環境が変化した時には改革をうまく進められず、むしろこれまで自らが成功してきたやり方を維持、強化してくことで環境変化に対応しようとするのだそうです。堺屋さんはこの例として、日本のかつての花形産業であった石炭産業、映画産業、大手百貨店などを挙げています。

     このほか、堺屋さんは組織における二つの構造、ゲイマンシャフト(共同体)とゲゼルシャフト(機能体)についてもいろいろ論じています。ゲイマンシャフトとは、家族や地域社会、趣味の会に見られるような利益を追求する集団ではなく、構成員の満足、心地よさが追求される集団のことで、一方のゲゼルシャフトとは、企業のような利益追求、軍隊のような国の防衛、行政機関のような行政運営などある目的を遂行する集団のことを指します。堺屋さんはこの二つの異なる組織について日本や中国の歴史上の人物(織田信長やモンゴルのチンギス・ハン、高祖の劉 邦/りゅう ほう。。)が創り上げた組織と比較考察をおこなったり、その目的にあったリーダー、組織形態、必要な人材などについて論じます。

  この二つの異なる組織形態に関連し、堺屋さんは日本においてゲゼルシャフトの組織がいつしか、なれあいの組織になりゲイマンシャフト化する危険について指摘します。要するに、企業でいえば、利益追求を本来目的にすべきなのに、徐々に機能、能力重視(つまり、能力主義、競争、)の姿勢がなおざりにされ、前例を踏襲し、皆にとって居心地のいい(つまり共同体化した)組織になっていく、自衛隊のような軍的組織では、旧日本軍のように、前例主義(成功体験を繰り返す)や年功序列制度偏重に陥り、本来必要な、戦闘前の敵や状況を十分に分析しなかったり、軍を指揮する人間も、職位が上というだけで、そのまま同じようなポストへ配置されるといった弊害が起きやすいのです。

  本書において最後に堺屋さんはこれからあるべき組織について述べますが、日本の最大の課題は、世界の冷戦構造を最大限享受し、外国からの批判をかわし、業種別の縦割り型生産者優先行政を強化していった、その国内システムに慣れ切った官僚機構と企業組織の変革であるとしています。 そのため、例えばこれまで評価基準としていた「三比主義」(前年比、他社比、予算比)をからの脱却し新しい評価基準を創り出すことや、これまで企業が前提としていた「コスト+適正利潤=適正価格」(つまり、コスト削減の努力もせず、積みあがったコストに利益を上乗せして、それを適正価格とみなす経営)の経営の発想から「価格ー利益=コスト」(市場で勝てる価格を最初に設定し、それに適正利潤を加算した場合、どれぐらいのコストをかけられるか? どれだけ、コスト軽減の努力をして利益を出す方法を考える経営)へ発想転換する必要性などを主張しています。本書は1993年に出版されましたが、その内容は30年後の今読んでも含蓄に富むものであると思います。