第十七回 岩村醸造株式会社(岐阜県恵那市)
「自分の作った酒が可愛くて仕方がない」
7代目 社長 渡曾 充晃 氏
創業1787年。
岐阜県中津川市で233年以上の歴史を誇る酒蔵。
1185年(鎌倉時代)に築城された町のシンボル岩村城のふもとにある。
岩村城築城800年を記念して誕生した銘柄が「女城主」です。
Interviewee: 社長 渡會 充晃(以下 渡會)
Interviewer: 美宴 吉田 綾子(以下 美宴)
美宴:城下町らしい、とても素敵な町並にお店がお店と酒蔵がありますね。
渡會:はい、ありがたいことに、うちは観光客が多いので店売りが多いです。
毎年2月から3月上旬まで毎週蔵開きを開催しているのですが、今年は新型コロナウイルスの影響で3月分は中止しました。その代わり、送料300円で家飲み企画を打ち出しましたら、結構レスポンスが多くて良かったです。今まで来店のお客様が多かったため顧客名簿をどうやって使って行こうか考えています。
美宴:観光客はどのような方が多いですか?
渡會:日本人が多いですよ。
中国人はほとんどいなくて、外国人だと欧米の方が多いですね。歴史や日本の古いものを学びに来るんです。ただそういう方達は、色んな所を旅されるので、日本酒を買っていくというより、体験を大切にされます。
和食と日本酒が合うのは当たり前なので、洋の食材と日本酒のペアリングの提案をしながら楽しんでもらっています。実際に対応していると、お客様のレスポンスが分かるし、好みが分かりやすいんですね。売りたいものをオススメできるのも良いです。
美宴:岩村醸造さんには三つのブランド「女城主」「幻の城」「ゑなのほまれ」がありますが、それぞれの違いを教えていただけますか?
渡會:「ゑなのほまれ」は大正10年からずっと続く一番古いブランドです。
代替わりするときに新ブランドを作る酒蔵は多いですが、うちは昔からの特徴を大切にし強くPRしています。昔、流行っていた甘味を重視し、淡麗辛口が流行していた時代でも頑なに守り抜いてきました。
「女城主」は、30年ぐらい前の築城800年を記念してできた岩村醸造の酒の基本です。全体の7割をこのブランドが占めています。それとほぼ同時にできたのが「幻の城」です。山田錦を使用し、大吟醸クラスの極限の味を追求して造っている銘柄です。
美宴:岩村醸造さんが大切にされていることは何ですか?
渡會:地元の米、ひだほまれを使うことです。
地酒というからには、穀物と水の相性が大事だと思います。やはり地産地消ですね。
美宴:酒蔵で良かったと思うことは?
渡會:自分で造ったものでみんなが楽しんでもらえるのは良いですね。そして、酒造りは楽しいですよ。
美宴:社長自身、酒造りに携わられていますか?
渡會:携わっていましたが、自分の造った酒が可愛くて仕方がなくって、気持ちが入り過ぎてしまうんですよ!理想の味の方向性は私ですが、造りは杜氏に任せています。だから、今は酒造りのプランニングのみ携わっています。
美宴:輸出はされていますか?
渡會:はい。国によって好みの味が違うのは興味深いですね。ヨーロッパは古酒や甘いもの。アジアは辛口でシャキッとしたもの。アメリカでは香りの良い純米吟醸が好まれます。
美宴:目指していることは何ですか?
渡會:うちの信条が「玲瓏馥郁(れいろうふくいく)」なんです。
透き通るように美しく輝き(玲瓏)、良い香りが漂う(馥郁)酒を目指しています。大量生産ではない、ひと雫まで心に響く酒を醸すこと。そして長く愛される酒を造ることが目標です。
美宴:日本酒とはどのようなものだと思われますか?
渡會:日本酒は、麹を使って造るという複雑さや、奥ゆかしさがありますよね。
とにかく繊細なものだと思います。日本人だからこそできたものなのではないでしょうか。テロワールという言葉があるように、その地の米、水で造ることも日本酒の魅力を生かす面白さだと思っています。