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Pascul(パスカル)~京都大学フリーペーパー~

繁華街の夜、ネオンに照らされて

2015.04.14 15:00

ここでは中島らもの自伝的エッセイ『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』と、中谷美紀主演の映画「嫌われ松子の一生」というクズを描いた2つの作品を紹介する。




酒に溺れたクズ、中島らも

かの有名な”灘校”に8番の成績で入学したらもの成績は、酒を飲んだり、ドラッグをやったり、悪さをしているうちに面白いほどに下がっていった。進学校の片隅で過ごす「落ちこぼれ生活」で、彼は母親を何度泣かせたのだろうか。結局らもは浪人し(といっても勉強はしなかった)、芸大に進んだ。そして学生結婚をし、知り合いのつてで印刷屋に就職する。 


ただぼうっと時が過ぎるのを待つだけの人生でも、酒はやめなかった。らもは高校の修学旅行の夜から、ライター時代に死にかけるまで飲み続けた。昼は「書くための酒」、夜は「人と会う酒」、最後は「死ぬための酒」。酔うことによって、憎い自分自身を腐りきった世界と共に破滅させようとしたのだ。


ある日、らもは身の危険を感じて、仕事と金銭の処理を遺書のごとく書き残して病院にかけこむ。「黄色い目」と「鉛色の顔」をした彼は、すぐに病棟へ叩き込まれた。アルコール中毒と肝炎による50日間の入院生活で、らもはたくさんの患者が亡くなっていくのを目にする。


何も悪いことをしていない人たちが病魔に命を奪われていく一方、快楽とタナトスで病気をたぐり寄せた自分は安静にするだけで回復していく。だから彼は生きることにした。そうでなければ病気で亡くなった人に申し訳がたたない。


らもは浪人生活中に自殺した友人を思い返し、こう言う。


めったにはない、何十年に一回くらいしかないかもしれないが、『生きていてよかった』と思う夜がある。一度でもそういうことがあれば、その思いだけがあれば、あとはゴミクズみたいな日々であっても生きていける



異性に溺れたクズ、川尻松子 

川尻松子は、どこにでもいる普通の女の子だった。誰しも親に「愛されたい」と思う。しかし、この「愛に対する飢え」は、松子をどこまでも不幸へと引きずりこむ。小さい頃から病弱な妹に父親の愛を独占されていた松子。修学旅行中に教え子の悪事をかばって教師をクビになったことをきっかけに、彼女は妹に対するコンプレックスを爆発させ、家を飛び出す。 


それからは男に依存しては裏切られる日々。最初に同棲した男は目の前で自殺。次は愛人生活の末、捨てられて娼婦へと身を落とす。次の男には浮気で金を使い込まれ、衝動的に殺害。罪を犯した松子は、自殺しようと訪れた玉川上水で理容師の男と出会い、つかの間の幸せを手にする。


しかし、捜査の手が伸び、彼女は投獄される。松子が8年間の刑務所生活を終え、理容師の資格を手に男のもとへ戻ると、彼は別の女性と結婚して子供をつくっていた。失恋した松子は、ヤクザとなった「ある男」に再会し、同棲を始める。しかし、その男も逮捕され、また独りに...。男の出所を長いこと待ったにもかかわらず、松子は拒絶されてしまう。


どん底の松子はアイドルの追っかけを始めるが、そこに待っていたのは廃人生活...そして死。 松子の人生は、目まぐるしいほどの不幸の連続だ。


しかし、ラストシーン、松子は星空の下、こう思ったのではないだろうか。「生きていてよかった」と。ただ「愛されたい」がために、松子は生きた。どんなに惨めな人生でも、松子にとってはそれだけで十分だったのではないだろうか。



2人の生き様は、フラワーカンパニーズの名曲「深夜高速」に歌われている。「生きていてよかった そんな夜を探してる」と。「恥の多い生涯」でも、「生きていてよかった」と思える一夜があれば、それでいいのではないだろうか。私は最近そう思う。