耳の奥で聴こえる声 vol.56 ~マシュマロに包まれて~
2021.03.30 08:00
作/チームCOL
ママとみーちゃんの声がする。
ふたりがボクを揺さぶってる。
「はち、はち!」
「はっちゃん!!」
目を開けようとしたけど、
意識がどんどん遠のいていく。
ママ……。
みーちゃん……。
ふたりの声がだんだんと
小さくなっていく。
ママとみーちゃんの顔、
もう一度、この目で見たかったな。
ふたりの笑顔を思い浮かべてたら、
まぶたから涙がじんわりと流れた。
ボク、しあわせだったなぁ。
ママが牧場にむかえに来て
くれた、あの日のことが
ハッキリと思い出されてくる。
ママやみーちゃんと
毎日お散歩に行ったこと。
ウィル君やモモちゃん、
ハルちゃん、ミノンちゃんに
出会えたこと。
ウィルパパやモモママ、
ハルじいやミノンねえさんに
毎日おやつをもらったこと。
ぜんぶ、鮮明に覚えてる。
毎日、毎日、ボクは楽しかった。
ずっとずっと、しあわせだった。
みんなに出会えて、
ほんとうに良かった。
ふいに、まぶしくて、あったかい、
マシュマロみたいなものが
ボクをほんわりと包んだ。
あれ、ボクどこへ行くんだろう。
目を開けると、白いもくもくした
雲の中にいた。
そのモクモクが晴れてくると、
ボクのほうに一直線に
走ってくる姿が見えた。
もしかして、あれは……
なつかしいウィル君の、
優雅に走る姿が
はっきりと見えてきた。
会いたかった!
会いたかったよー、ウィル君!
ウィル君は満面の笑みで、
「ずっとずっと、待ってたよ」
そう言ってるように見えた。
ボクは、思いっきり駆けだした。