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地域計画家・高尾忠志

【日南市中活CD】油津まちづくり会議 基本方針「五箇条」:総論賛成なき各論賛成はありえない

2014.11.02 21:04

◾︎チーフディレクターに就任

 2011年度も終わりに差し掛かった日に、日南市から今後進める中心市街地活性化事業のコーディネーターを務めてほしいとの依頼があった。日南市は、大学院から民間会社に就職して初めて出張に行った思い出の地、社会人として初めて地域計画を策定した思い入れの強い地域だった。依頼は光栄であったし、かねてから募る想いもあって、断るという選択肢はなかった。しかし一方で、十年前に見たあの寂しい商店街の風景が思い出された。自分は商店街再生の専門家ではない。由布院や五島で培ってきたコミュニティ・デザイン的なアプローチと、地域の良いところを伸ばしていく景観まちづくり的なアプローチで何かの役に立てるだろうかと自問自答した。国の制度による中心市街地活性化事業の期間は5年間。短いようで長い、長いようで短い期間ではるが、地域の向かう方向を軌道修正するには適切な期間でもある。少し短いくらいだからこそ全力で走りきれる。コーディネーターとして全力で走ろうと決意した。

 中心市街地活性化事業には、タウンマネージャーという多くの場合商業専門のコーディネーターを置くことが一般的である。しかし、今回のようにむしろ行政側に主軸を置いて中活事業全体をコーディネートするポジションは珍しい。しかも私の専門は景観や市民参加、プランニング、プロジェクトコーディネートである。新しい職能には新しい名前をつけたい、それは私の覚悟のあらわれにもなるだろうと思い、プロジェクトチームメンバーと相談して「チーフディレクター」とした。私の役割は、約50の日南市中活事業のディレクションを統括的に行うことである。もちろんそのディレクションは、各事業の関係者を自立的に動かす強さと柔軟性を持っていなければいけない。5年後に地域が自走する状況をつくることが中活事業において最も重要な目標であるからだ。

◾︎ファーストインプレッション

 4月となり、久しぶりに油津を訪れた。天気が良く、宮崎らしい気持ちのよい日に、夢ひろばで中活事業の担当者の皆さんとご挨拶した映像をはっきりと記憶している。地域の状況を細かく説明していただきながら、現地を見て回った。相変わらず良いところで、人々も暖かいし、ご飯も美味しい。でも、その魅力を十分に活かしているとは言い難かったし、地域の人々の力が同じ方向に向かっているようでもなかった。中心市街地活性化事業の5年間で何に取り組むのか、問題設定や行動指針が曖昧なまま中心市街地活性化基本計画が国の指導やフォーマットに従って作成されているように感じた。もっと情報や認識、思いを共有していくような体制やプロセスが必要ではないかという議論になった。

◾︎五箇条の作成

 一般的には「総論賛成各論反対」と言われて、総論賛成自体を軽視するように感じるケースもある。しかし、まちづくりでは総論賛成なき各論賛成はありえない。むしろ強力な総論賛成、大賛成を形成し、議論が難しくなった場合に常に立ち戻れる場所をもっていることが、事業遂行における合意形成上非常に重要となる。そのため、チーフディレクターの最初の仕事として、基本方針「五箇条」を作成した。これを作成するにあたっては、油津地区に限定しない多くの市民に話を聞かせていただき、その肌感覚を大切にしながら文面を考えた。油津地区の活性化は油津地区の人だけでできることでもないし、油津地区の人だけのためでもない。もっと長くて大きな視野で日南市のまちづくりを捉える必要があると思い、以下のような主旨文と五箇条を作成した(日南市「油津まちづくり行動計画」より抜粋)。市民の中には旧城下町の飫肥地区や市役所がある吾田地区ではなくなぜ油津地区が中心市街地なのかという疑問、批判もあるが、私はむしろ中心市街地活性化事業はひとつの「道具」に過ぎず、ここで取り組んだことを日南市全体に展開してくことこそが本当の狙いであると認識したほうがよいと思っている。逆に言えば油津地区のまちづくりにはそれだけの責任が伴っているのである。

◾︎主旨文:日南市における「新しいまちづくり」のモデル的取組みとして

 二十年後の日南市は、人口が現在の四分の三となり、高齢化率が41.5%になると言われています。また、東九州自動車道の開通にともない、周辺他都市と比べて交通利便性が劣る事態も予想されます。地域の担い手が減り、地域の交通利便性は相対的に下がります。このような状況において、地域を元気に維持していくためにはどうすればよいでしょうか。

 答えは簡単には見つかりませんが、試行錯誤しながらアイデアのこもった取組みを積み重ねていった先に、日南市の未来があります。ひとつひとつの取組みにおいて、一人ひとりが考え、工夫し、行動していく。そして、行政と市民、市民同士が、立場や世代、既存の制度を超えて力を合わせ、地域社会や地域経済に貢献していく。そこに、地域外からの応援団や専門家が参加する。そうした「協働」のまちづくりに持続的に取組んでいくことが求められています。

 また、交通利便性のデメリットを克服していくためには、「ここにしかない価値」を生み出していくことが必要となります。そのためには、歴史、文化、自然、風景、産業、人と言った日南市に来ないと味わえない、持ち出し不可能な環境や資源を再評価し、市民自身がそれらを楽しみ、表現することが重要です。そして、その「楽しみ方」や「表現」が時代の共感を携えている時、それは人々を惹きつけ、交流を生み出し、その交流がまた地域の文化を醸成していくでしょう。

 油津地区における中心市街地活性化事業は、こうした日南市における「新しいまちづくり」のモデル的な取組みです。中心市街地活性化事業は、日南市における「新しいまちづくりのカタチ」を問うための事業です。

 この「油津まちづくり行動計画(案)」は、こうした「新しいまちづくり」に参加する人々の羅針盤となるべく、油津地区におけるまちづくりの方向性や取組み内容をまとめたものです。個々の取組みにおける試行錯誤から得られた経験や知見は、油津まちづくり会議においてこの計画にフィードバックされます。この計画から「(案)」がなくなることはありません。まちづくりとは「プロセス」そのものであり、常に進行形であるからです。

◾︎油津まちづくり会議 基本方針「五箇条」

 上に述べた主旨に従って、油津まちづくり会議の基本方針を下記の通りに定めます。

一.油津地区は、日南市の「中心市街地」としての役割を担っており、本会議で検討される事項は、油津地区の地域社会、地域経済の向上を目的とすると同時に、日南市全体の地域社会、地域経済の向上に貢献するものでなければならない。

二.本会議で検討される事項は、他地域の物まねではなく、「日南市オリジナル」の豊かな暮らしの創造を目指すものでなければならない。その際、本会議で目指す「豊かさ」については、経済的なものに加えて、精神的なもの、文化的なものなども含めた総体的なものとして考えることを基本とする。

三.本会議では、今後、中心市街地である油津地区と市内外の各地域がどのように連携していけるのか、その中で、油津地区においてどのような施策・活動を展開することが効果的であるのかについて、検討を行なうものとする。

四.本会議では、日南市における次世代の暮らしを常に意識し、10年後、20年後、50年後の日南市の地域社会と地域経済に貢献することを基本方針としながら、今年、来年、再来年と言った現在から近未来に具体的に何ができるのかについて検討することとする。

五.本会議を軸とした油津地区におけるまちづくりの取り組みは、今後、日南市の他地域におけるモデル的な存在となることを意識して、官民協働におけるまちづくりの推進方策について、常に評価、検証を行ないながら検討を進めることとする。