色と多様性 – はだいろ・肌の色
先日、あるコンビニエンスストアチェーンが自社ブランドの衣料品を自主回収したというニュースを目にしました。その理由は、「はだいろ」という色名の表記。社員や加盟店から「人種や個人などにより肌の色は異なる」という指摘があったのだそう。
「はだいろ」を切り口に、色と多様性について考えてみます。
(SATOMI)
消えた「はだいろ」
「はだいろ」と聞いて「こんな感じの色かな」とイメージできるのは30代以上の方に多いのではないかと思います。なぜなら、この年代の方が子どもの頃に使った色鉛筆やクレヨンのカラーバリエーションには「はだいろ」という色名が存在していたからです。
しかし、それも2000年頃までのこと。現在は同じ色に「うすだいだい」や「ペールオレンジ」といった色名が使われています。つまり、20歳前後やそれよりも年齢が若い方には「はだいろ」という色名にあまり馴染みがない場合もあるようです。
なぜ、「はだいろ」の色名が消えたのでしょう?その理由は、「多様性」を認め合うことの大切さが叫ばれる現代社会において、想像に難くないと思います。
英語の「はだいろ」は?
日本語の「はだいろ」は、私たち日本人の一般的な“肌の色”を指しています。JIS(日本工業規格)の色名規格にも「はだいろ」は存在しており、マンセル値は「5YR 8/5」。まさに、「うすだいだい(ペールオレンジ)」ということです。
色鉛筆やクレヨンにあったような、カラーバリエーションとしての「はだいろ」を英語で表現するならば「beige(ベージュ)」や「peach(ピーチ)」が色名としては近く、前述の自主回収された商品の英語表記も「beige(ベージュ)」となっていたようです。
一方で、「はだいろ」を“肌の色”という意味で訳すなら「skin color(スキンカラー)」となります。
日本語の「はだいろ」も、もともとは“肌の色“という意味ですが、同じ“肌の色”でも、「はだいろ」と「skin color(スキンカラー)」ではややニュアンスが違って聞こえます。「はだいろ」よりも「skin color(スキンカラー)の方が、色みや明るさの異なる広い色域を指すように感じられるのは、日本人にとって「はだいろ」は、色鉛筆やクレヨンにあったような特定の色というイメージが強いからでしょうか。
多様な“肌の色”
「はだいろ」について調べる中で、ユニークな商品を見つけました。イタリアの文具メーカーが発売している、 “肌の色”ばかり12色がセットになった色鉛筆です。そのパッケージには、多様な肌の色の子どものイラストが描かれており、裏面には様々な言語で商品の説明が記載されています。
また、あるネイルの技能検定では、実技試験に用いられる指定色の一つに「スキンカラー」があるそうです。試験要項には「ナチュラルスキンカラー」とされており、そのカラーチャートには特定の色ではなく、色幅をもたせた「スキンカラー」が示されています。
身近なところでは、スマートフォンで使う絵文字アイコン。テキスト入力画面で人物やハンドサインのアイコンをロングタップ(長押し)すると、肌の色が選べることをご存知でしたか?
筆者のスマートフォンでは、6種類の「スキンカラー」を選ぶことができました。さらに、人物のアイコンには髪型の異なるアイコンも用意されており、「多様性(Diversity)」や「ジェンダー平等(Gender equality)」といった考え方が、日常の中に浸透してきているのだなと感じることができます。
色と多様性 - WE NEED COLORS
私たち色彩生活コーポレーション株式会社が、色彩生活サステナブルコンセプトとして育んでいる“WE NEED COLORS”には、「選ぶ色は違っても、その違いを尊重し、違いを認め合うことの大切さに気づかねばならない」という意味が込められています。
「はだいろ」についてのニュースに触れたことで、改めてその重要性を感じる機会となりました。引続き、人の気持ちを前向きにさせるチカラがある色彩の魅力を、より多くの方に伝えていきたいと心新たにしています。