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砕け散ったプライドを拾い集めて

たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ

2021.04.07 12:00

最初の出会いは……


 ──三月の甘納豆のうふふふふ

だった。

次は……

 ──たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ


 坪内 稔典(つぼうち としのり、俳号では:ねんてん)という人の句作である。 ※京都教育大学教授。「船団の会」元代表。研究者としての専門は日本近代文学で、特に正岡子規に関しての著作・論考が多い。

 坪内ねんてんさんは、俳句の本質を「口誦性」と「片言性」にあると捉え、俳論などでしばしば論じている。「口誦性」とは「簡単におぼえてどこででも口にできる」ことであり、「片言性」とは、ことわざなどと同じように短く、言い尽くせないということで、そのことによって却って読み手から多様な解釈を誘い出し、言葉の多義性を豊かに発揮できるのだとしている。

他の句をいくつか……。            

──春の風ルンルンけんけんあんぽんたん
──晩夏晩年角川文庫蝿叩き
──水中の河馬が燃えます牡丹雪
──魚くさい路地の日だまり母縮む
──がんばるわなんて言うなよ草の花

 子規研究家でもある坪内ねんてんさんの句作の原点って正岡子規なのだろうなって思う。
とりわけ、……

 ──柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

柿は正岡子規の好きな果物だった。学生時代の子規は樽柿を7つか8つ食べるのが常習だったという。
明治28年の作だが、この年の秋、子規は松山の漱石の下宿に転がり込み、一月半近くそこで病後の日々を過ごした。東京に戻る途中に奈良によって子規はこの句の着想を得た。
丁度、御所柿のシーズンだったという。 いまではこの柿と法隆寺が一体化していて、なかには法隆寺で柿を食べると鐘がなるようになっていると思いこんでいる人もいるらしい。
 子規はこの不思議な取り合わせが成功したことに大変満足していたらしい。 唐突で意外性。でもその意外性は法隆寺がうまく呑み込んでいることを子規は喜んでいたという。

資料:『柿喰ふ子規の俳句作法』『俳句のユーモア』(共に坪内稔典著)