4月10日はS.H.i.T.の日。「変なバンド」であることを自負する北海道出身の4人組に注目!
本日4月8日は、僕自身の中では「5年前(2016年)にラスヴェガスでGUNS N’ ROSESの新たな門出を目撃した記念日」ということになる。確かにそれを記念日とするならば、1年の大半がそうしたアニヴァーサリーの日ということになるのだろうし、語呂合わせ的な「××の日」というのも含めれば、覚えきれないほどそうした日があるのだろうが。
というわけで、4月10日は「シットの日」なのだという。嫉妬ではない。S.H.i.T.の日である。
S.H.i.T.は尚悟〈vo〉、IKUMU〈g〉、にゃんたか〈b〉、 西田遼佑〈ds〉からなる東京を拠点とする4人組で、バンド名は正式にはSUICIDAL HERO iS TRAITORという。ただ、あまりに長いので、メンバーたち自身も含め、たいがいの人はこのバンドをS.H.i.T.と呼ぶ。そして完全に語呂合わせでしかないのだが、4月10日は彼らにより勝手に「S.H.i.T.の日」と定められているのだった。MUCCが6月9日を、ROTTENGRAFFTYが6月10日を自分たちの大切な日としているのと同じように。
しかも今年の4月10日は土曜日。彼らはこの記念日に、渋谷CYCLONEにて自身の企画によるイベントを開催する。S.H.i.T.以外の出演者はEND ALL、THE AZUKI WASHERS、 WELLNESS IN MOUTH OF DITCH、MASSCLOWZという顔ぶれだ。
S.H.i.T.は昨年の4月10日にも「S.H.i.T.の日」の看板を掲げながらのライヴを開催するつもりでいたが、コロナ渦の影響により仕方なく断念。感染拡大の勢いがやや収まりつつあった昨夏、やや強引ながら7月10日に公演を実施したが「S.H.i.T.の日」というよりは「納豆の日」になってしまった。今回のライヴは、その時の悔しさをバネに(?)しながら行なわれるものだ。バンド側としてはこの催しを恒例化していきたいと考えているのだという。
今回のライヴには『THE GREAT TOKYO TRENDKILL Vol.2』というタイトルが掲げられている。何故Vol.2なのかといえば、前日の4月9日に吉祥寺・Planet KにてVol.1が実施されるからだ。ちなみにこちらは「シックの日」ということになっており、彼ら以外の出演ラインナップはMELT 4、KEBAB、Diablö、そしてBLACK SUIT AMARYLLISとなっている。結果的には異なる会場での二夜連続イベントという形になったというわけだ。
この『THE GREAT TOKYO TRENDKILL』というタイトルからは、誰もがPANTERAのアルバム『THE GREAT SOUTHERN TRENDKILL』(1996年)を連想することだろう。S.H.i.T.の代表曲のひとつである“P.A.T.”を知っている人ならば、彼らがPANTERAに対して並々ならぬリスペクトや共鳴を抱いていることをすでに把握しているはずだが、もちろん単純にそうした思い入れの強さのみでこうしたタイトルが掲げられているわけではなく、そこに「トレンドなんて糞喰らえ!」という気持ちが込められていることは言うまでもない。とはいえそれはネガティヴな感情を根源とする怒りめいたものではなく、メンバーたちは「流行りとは関係なくカッコいいと思えるバンドたちと一緒に楽しくやりたい」という純粋な動機を異口同音に語っている。
実は先日、都内某所にてこの二夜公演に向けてのリハーサルに勤しんでいた彼らを訪ね、あれこれと話を聞いた。バンドのオフィシャル・ツイッターのプロフィールには「オルタナティヴ・メタル」とか「唯一無二を求めてたら変なバンドになってました」といった言葉がみられるが、全員が20代でありながら、何故か小中学生の頃から70年代ロックや80年代のアメリカのメインストリーム音楽に触れていたり、往年のプログレッシヴ・ロックやフュージョンを通過していたり、リアルタイムな邦楽とタイムマシンに乗らなければ聴けないような歴史的洋楽作品に分け隔てなく触れていたりすることを改めて知らされた。そうして不思議な時系列でさまざまな時代のロックを吸収してきた4人の音楽的背景を知るにつれ、彼らの親世代に当たる僕自身も「これは変なバンドになるのも無理はない」と妙に納得させられることになったのだった。
ちなみにメンバーは全員、北海道出身。条件反射的に広大でのどかな風景が思い浮かんでくるところだが、彼らの価値観を育んできたのは、にゃんたかを除く3名の地元である小樽にあった狭苦しいライヴハウスの、酒と汗と煙草の匂いが染みついた窮屈な空間だった。いわば彼らの理想とする空気がそこにあったのだ。
もちろん今のご時世、ライヴ観覧中もマスク着用は必須だし、大声を出すこと、観客同士がぶつかり合ったりひしめき合ったりするようなことも厳禁であるわけで、彼ら自身が本来望んでいるような空気感をライヴハウスに求めることには無理があるといわざるを得ない。ただ、いかに窮屈な規制が伴おうと、そうした制約の下での成功例を重ねていかないとライヴハウスは自由さを取り戻すことができないし、「ヤバい空気感のライヴ」というのは、観客がお互いにディスタンスを保ったままであろうと、バンド自体が本当にヤバければ実現可能なはずだと僕は信じている。
というわけで、4月9日と10日の両日は、トレンドを蹴散らすような痛快なライヴが味わえることを期待している。僕自身も10日の公演は確実に観に行く予定だ。
写真はすべて3月23日、渋谷CYCLONEにて筆者が撮影したもの。少しでも彼らの熱が伝われば幸いだ。