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蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)

2018.04.09 04:57

https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/01/070634 【蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(1/5)】より

 暗喩は、直喩の「ごとき」「ような」などを省略して、直接ことばとことばを衝突させ、想像力を喚起させる修辞法。

     剃(そり)立(たて)て門松風やふくろくじゆ

*福禄寿の長頭のごとき剃り上げた門松を立てて新年を待つばかり。すがすがしい風が吹いてくるだろう。

     かげろうの火加減もよし梅の花

*白梅が一面真っ白に咲き誇っているさまを、陽炎の真っ盛りに立ち上がるのになぞらえた。

     春雨や鶴の七日をふりくらす

     春風や浪を二見(ふたみ)の筆(ふで)返(がへ)し

     帰る雁有楽(うらく)の筆の余り哉

*雁行して飛ぶ雁のえがく文字は、織田有楽斎が徳川方に送った密書の筆余りなのだろう。

     独鈷(とつこ)かま首水かけ論の蛙かな

     二つ三つ烏帽子(えぼし)飛交(とびか)ふ蛙かな

*蛙の声の騒がしさを、貴族たちが口論して烏帽子の二つ三つが飛ぶ様子に喩えた。

     紅梅の火加減もよき接木哉

     畑(はた)に田に打出の鍬や小槌(こづち)より

     苗代や吹く升掻(ますかき)のはかりごと

*苗代を升に見立てた。苗代に生えそろった苗が風になびいている。まるで升掻でならして、秤にかけたかのように。

https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/02/071128 【蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(2/5)】より

     鮎汲(くみ)の終日(ひねもす)岩に翼かな

*鮎汲む人が終日岩の上で網を振っているさまを鳥が翼を羽ばたかせているようだ、と詠んだ。

     花守の身は弓矢なき案山子(かがし)哉

     門口のさくらを雲のはじめかな

     散(ちる)花の反古(ほうご)に成(なる)や竹ははき

     山鳥の尾をふむ春の入日(いりひ)哉

*柿本人麻呂の有名歌「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」により、「山鳥の尾をふむ」は、「長い」を引き出す。句は、長い春の入日だなあ ということ。

     菜の花や遠山鳥(とほやまとり)の尾上まで

*菜の花畑が遠山の峰の彼方まで遥かに続いている様子。

     海棠や白粉(おしろい)に紅(べに)をあやまてる

     爪(つま)紅(べに)は其海棠のつぼみかな

     更衣身にしら露のはじめ哉

*命の喜びを感じる更衣の日は、はかなさの始まりでもあると詠む。

     時鳥柩(ひつぎ)をつかむ雲間より

*冥土からの使いとされる時鳥の声が雲間から聞こえた。あたかも葬列の棺をつかまんばかりに。作者は葬列にいた時に雲間に時鳥の声を聞いたのだろう。


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/03/071027 【蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(3/5)】

     ほのぼのと粥(かゆ)にあけゆく矢数かな

*通し矢が果てる頃に夜が明ける。粥の湯気の白さにほのぼのをかけた。空腹でもある。

     学問は尻からぬけるほたる哉

     摑(つか)みとりて心の闇のほたる哉

*螢をつかみとったことで殺生という心の闇を見たのだ。

     淀舟の棹(さを)の雫(しづく)もほたるかな

     髻(もとどり)を捨(すつ)るや苗の植(うゑ)あまり

     夏(げ)百日(ひやくにち)墨もゆがまぬ心かな

*百日間夏書のために墨をすっているが、墨はゆがんでこない。これこそ直き心の現れ。

     我(わが)庵(いほ)に火箸(ひばし)を角(つの)や蝸牛

     音を啼くや我も藻に住む蟵(かや)のうち

*藻に住む虫のように私も蚊帳のうちで、同行できなかった恨みに泣いている。(句会に参加できなかった、という前書あり。)

     沢潟は水のうらかく矢尻(やじり)哉

     銭亀(ぜにがめ)や青砥(あをと)もしらぬ山清水


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/04/072314 【蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(4/5)】より

     心太(ところてん)さかしまに銀河三千尺

*ところてんを啜り上げる時の豪快さを大げさに比喩した。

     いな妻や八丈(はちぢやう)かけてきくた摺(ずり)

*きくた摺: 福島県菊多特産の小紋の稲妻模様で、八丈縞の一種。前書きに「かな河浦にて」とある。神奈川沖から八丈島にかけて閃く稲妻を菊多摺りに見立てた。

     鳥尽(つき)てかくるる弓か三日月(みかのつき)

     松島の月見る人やうつせ貝

*うつせ貝: 肉が抜けて空になった貝。松島の月の美しさに心奪われている人をうつせ貝に喩えた。

     月の句を吐(はき)てへらさん蟾(ひき)の腹

     雨乞(あまごひ)の小町が果(はて)やおとし水

     釣上(つりあげ)し鱸(すずき)の巨口玉(たま)や吐(はく)

     札(ふだ)菊(ぎく)や踏(ふみ)こたへたる鶴(つる)の脚(あし)

*札菊: 品評会で品種名などを記した札を付けた菊。その菊の様子を細い脚で体を支える鶴に喩えた。

     白菊や呉山(ござん)の雪を笠の下

*白菊の様子を二句以下の情景で喩えた句。

     三日月も罠(わな)にかかりて枯野哉


https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/05/071230 【蕪村俳句と比喩―暗喩(隠喩)(5/5)】より

     白(しろ)炭(ずみ)の骨にひびくや後夜(ごや)の鐘(かね)

*白炭の骨とは、作者の身体の比喩。

     虎(とら)の尾(お)をふみつつ裾(すそ)にふとん哉

*乱暴者が酔い潰れて寝ているところへ裾からそっと蒲団を掛ける場面。「虎の尾を踏む」と酔っ払いを差す「虎」とを結びつけている。

     あたまからふとんかぶればなまこかな

     木のはしの坊主(ばうず)のはしやはちたたき

*鉢叩き(半俗の空也念仏僧)を、木の端と人にいわれる坊主のさらに末端に位置する者と戯れた句。

     朝霜や剣(つるぎ)を握るつるべ縄

*霜のおりた朝、つるべ縄の手の切れるような冷たさを剣を握ると喩えた。

     寒月や剣(つるぎ)をにぎる釣瓶(つるべ)縄(なわ)

     水と鳥のむかし語りや雪の友

     雪の河豚鮟鱇(あんかう)の上にたたんとす

     郭公(ほととぎす)琥珀の玉をならし行(ゆく)     

     閻王(ゑんわう)の口や牡丹を吐んとす     

     枕する春の流れやみだれ髪    

*枕して寝ている女の髪は、まるで春の流れに枕しているようだ、ということを暗喩で詠んだ。