蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/14/072414 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(1/8)】 より
活喩(擬人法)は、人間以外のものを人間に見立てて表現する修辞法。
老武者と大根あなどる若菜哉
鶯の浅井をのぞく日影かな
うぐひすのかぞへのこした枝寒し
鳥さしを尻目に藪の梅咲(さき)ぬ
散(ちる)たびに老ゆく梅の木(こ)末(すゑ)かな
一軒の茶見世の柳老(おい)にけり
花のみ歟(か)もの云はぬ雨の柳哉
莟(つぼみ)とはなれもしらずよ蕗の薹
草霞み水に声なき日ぐれ哉
蛇(へび)を追ふ鱒(ます)のおもひや春の水
飛込(とびこん)で古歌(ふるうた)洗ふ蛙かな
*芭蕉句「古池や蛙飛びこむ水の音」を背景に、古池に飛びこんだ蛙は、身にまとわりついた「古歌」の垢を洗い落として、新しい俳諧を歌うようになった、と主張する。
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/15/071059 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(2/8)】より
紅梅や入日の襲(おそ)ふ松かしは
燕(つばくら)や去年(きよねん)も来(き)しと語るかも
さくら一木(ひとき)春に背(そむ)けるけはひ哉
月光西にわたれば花影(かえい)東に歩むかな
*春の暁、月影が西に動くにつれて、花の影が東から現れてくる。漢詩を踏んで、対句仕立て。
行(ゆく)春(はる)の尻べた払ふ落花哉
雲を呑(のん)で花を吐(はく)なるよしの山
くれかぬる日や山鳥のおとしざし
*春の夕日に、山鳥は落し差し(刀のこじりを下げて差すこと)のように、地上に長く尾の影を落としている。
菜の花の土にやつるる岡辺哉
若草や藍(あゐ)より出(いで)て青二才
行春の鳥も蛙(かはづ)も泪(なみだ)哉
行春や水も柳のいとに寄る
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/16/071307 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(3/8)】 より
虹を吐(はい)てひらかんとする牡丹哉
やどり木の目を覚したる若葉哉
脱(ぬぎ)すてて一ふし見せよ竹の皮
長尻の春を立たせて棕櫚の花
鶯の音をや入(いれ)けん歌(うた)袋(ぶくろ)
*歌袋: 和歌の詠草を入れる袋。句の意味は、「鶯が鳴くのをやめたのは、歌を袋にしまいこんだからなのだろう。」なお鶯を歌人に擬える発想は、古今集の仮名序による。
若竹や是非もなげなる芦の中
麻を刈れと夕日このごろ斜(ななめ)なる
かけ香やわすれがほなる袖だたみ
*かけ香(掛香): 匂袋。夏の季語。 袖だたみ: 両袖を合わせただけの簡便なたたみ方。掛香を忘れたかのように無造作に置かれた袖たたみの衣装を詠んだ句。
貧乏に追(おひ)つかれけれけさの秋
目に見ゆる秋の姿や麻衣(あさごろも)
*麻衣の印象を詠んだ。
硝子(びいどろ)の魚(うを)おどろきぬ今朝(けさ)の秋
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/17/072105 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(4/8)】 より
蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(4/8)
病起(やみおき)て鬼をむちうつ今朝の秋
*夏の間苦しめられた病の鬼を、病も癒えた立秋の朝、追い払おうという。
つりがねの肩におもたき一葉かな
萍(うきくさ)のさそひ合(あは)せておどり哉
いな妻の一網(ひとあみ)うつやいせのうみ
稲妻や海あり皃(がほ)の隣国(となりぐに)
秋の蚊の人を尋(たづぬ)る心かな
日を帯(おび)て芙蓉かたぶく恨(うらみ)哉
蘭夕(ゆふべ)狐のくれし奇南(きやら)を炷(たか)む
*白楽天の詩を踏む。蘭が芳香を放つ秋の夕べ、狐のくれた奇南(伽羅)をたいて、幻想の世界に遊ぼう、という。
長櫃(ながびつ)になれも入折(いれをる)よ女郎華(をみなへし)
葛の葉のうらみがほなる細雨(こさめ)哉
鶏頭の根にむつまじき箒(はうき)哉
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/18/070145 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(5/8)】 より
篠掛(すずかけ)や露に声あるかけはづし
*篠掛: 修験者が衣の上に着る麻の衣。句は、謡曲・安宅などを踏む。山伏が篠掛を脱ぎ着するたびに露のこぼれるのを、「声ある」と表現した。
人を取(とる)淵(ふち)はかしこ歟(か)霧の中
水落(おち)てほそ脛(はぎ)高きかがしかな
笠(かさ)とれて面目(めんぼく)もなきかがしかな
三輪(みわ)の田に頭巾(づきん)着てゐるかがし哉
流(ながれ)来て引板におどろくサンシヤウ魚(うを)
*引板(ひた): 流れに板をしかけ音を立てて鳥獣を威す装置。秋の季語。
気みじかに秋を見せけり蕃椒(とうがらし)
底のない桶(おけ)こけ歩行(ありく)野分哉
人の世に尻(しり)を居(す)えたるふくべ哉
腹の中へ歯はぬけけらし種ふくべ
*種ふくべ: 種を採るための瓢箪。成熟したら蔓から切り離して十分乾燥させた後に種を採る。句は、種瓢が種の音を立てるのを、腹の中へ歯が抜け落ちた老人に見立てた。
葉に蔓(つる)にいとはれがほや種瓢
*いつまでも残されている種瓢が葉や茎に迷惑がられている、と擬人化。
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/19/072533 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(6/8)】より
葉がくれのはづかしがほや種茄(たねなすび)
唐きびのおどろき安し秋の風
沙魚(はぜ)を煮る小家や桃のむかし皃(がほ)
*沙魚を煮ている小家の庭には、桃の木が昔を思わせるなつかしい様子で立っている。
きくの露受(うけ)て硯(すずり)のいのち哉
うら枯やからきめみつるうるしの木
戸をたたく狸(たぬき)と秋をおしみけり
秋おしむ戸に音づるる狸(たぬき)かな
みのむしの得たりかしこし初しぐれ
逃(にげ)水(みづ)の逃(にげ)げそこなふて時雨哉
*逃水: 川の水が地下にしみ、流れが地上から消える現象。句は、時雨のせいで川の水が消えずにあるのを、逃げ損ねた、と洒落た。
みのむしのぶらと世にふる時雨哉
しぐるるや山は帯するひまもなし
*謡曲「白楽天」の中の「白雲帯に似て山の腰を囲る」の漢詩句を踏む。山の擬人化。
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/20/071023 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(7/8)】より
化(ばけ)そうな傘(かさ)かす寺の時雨哉
*時雨がきてお寺が貸してくれた傘の状態が、おんぼろで化けそうに見えたのだ。
夕しぐれ蟇(ひき)ひそみ音(ね)に愁(うれ)ふかな
子を遣(つか)ふ狸(たぬき)もあらむ小夜(さよ)時雨
こがらしや岩に裂行(さけゆく)水の声
日あたりの草しほらしく枯(かれ)にけり
夢買ひに来る蝶(ちよう)もなし冬牡丹
*寒いさなかに咲いている冬牡丹に寄ってくる蝶は、さすがにいないのだ。
初しもや煩(わづら)ふ鶴(つる)を遠く見る
火桶炭団(たどん)を喰(くら)ふ事(こと)夜ごと夜ごとにひとつづつ
武者(むしや)ぶりの髭(ひげ)つくりせよ土(つち)大根(おほね)
島山や夜着の裾(すそ)より朝千鳥
草も木も小町が果(はて)や鴛(をし)の妻
*小町が果: 小野小町が老残の果てに野ざらしとなった伝説。句は、草木の枯れ果てた様を小町の果てに喩え、それとは対照的な美しい鴛の夫に寄りそう鴛の妻をもってきた。
https://amanokakeru.hatenablog.jp/entry/2020/04/21/072349 【蕪村俳句と比喩―活喩(擬人法)(8/8)】より
鴛や花の君子は殺(かれ)てのち
*花の君子(蓮の花)の枯れ果てた冬の池を流麗に泳ぐ鴛を詠んだ。
らうそくの泪(なみだ)氷るや夜の鶴
うぐひすの逢ふて帰るや冬の梅
突留(つきとめ)た鯨や眠る峰の月
*漁師に突き刺されて浜に横たわっている鯨をこのように表現してみた。
松も年わすれて寝るや夜の雪
色も香もうしろ姿や弥生尽
*弥生晦日の春の様子を、姿も匂いも後ろ姿を見せて離れてゆく美人の趣と見立てた。
御所柿にたのまれ顔のかかしかな
*たわわに実っている御所柿の傍に案山子がたっている様子をこのように解釈した。
炭団法師火桶の窓より覗(うかが)ひけり
水桶にうなづきあふや瓜茄(うりなすび)
茨(いばら)老(おい)すすき痩(やせ)萩(はぎ)おぼつかな