名文の最初に注目!古典文学作品や歴史書の「書き出し」を訳と読み方付で集めてみました。THE冒頭
生徒と「文章の頭って大切だよねー」なんて話していたら、「子曰くってなんだっけ」とか「月日は百代の過客にして…ってなんだっけ」と疑問をたくさん浮かべていたので、「お、これはちょうどいいテストが作れるな」と思い、要望を聞きながら作ってみました。
その名も「THE冒頭」。
冒頭には、作者の魂が込められていると思います。名文や古典の名著、文学作品や歴史書のそんな冒頭に注目して、それらを集めたプリントです。
第一回の今回は、江戸までの作品に焦点を当ててみました。古典と呼ばれる名文たちですね。どうでしょう、錚々たるメンツではありませんか?ちなみにテストもあります。
できれば音読して欲しいので、読み方など一つずつ見ていきましょうか。
もちろん全て何百年の時を経て現代にも名を轟かせる超有名ベストセラー作品なのですが、個人的に生徒たちにとってマイナーだと思うものには解説つけてあります。個人的感想もあり。
訳はだいぶ意訳です。気になる方は調べてみましょうね。面白いですよ。
それでは、古い順に参りましょう。
名文冒頭 古典編 訳と解説
論語 孔子
子曰く(しいわく)、学びて時に之(こ)れを習う
亦(ま)た説(よろこ)ばしからず乎(や)
訳:孔子は言った、習ったことを機会があることにまた学んで身につけていくということはなんと喜ばしいことでしょうか
紀元前の人なのに、いいこと言うな、孔子さん。論語は、その孔子さんの言ったことを弟子たちがまとめたものです。今でいうインタビュー集みたいな感じでしょうか。
春暁 孟浩然
春眠暁を覚えず(しゅんみんあかつきをおぼえず)
訳:春は眠くて明け方も気づかない
古事記 太安万侶(おおのやすまろ)・稗田阿礼(ひえだのあれ)
天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時
高天原(たかあまのはら)に成りし神の名は
天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
次に高御産巣日神(たかみむすびのかみ)
次に神産巣日神(かみむすびのかみ)
訳:天と地が初めて現れたときに高天原(神様の住むところ)にいた神様の名前はアメノミナカヌシの神、タカミムスビの神、カミムスビの神
太安万侶さんは朝廷で働いていた学者さん。その大野安万侶さんが、天武天皇の命を受けた稗田阿礼さん(一度聞いたことは忘れない天才らしい)から聞いた日本神話や歴史のお話をせっせと編集して書き起こしたのが古事記です。当時はひらがなもカタカナもなかったから発音を書き起こすのに苦労したのだとか。想像つかないですね。
日本書紀 舎人尊王(とねりしんのう)ら
古(いにしえ)に天地(あめつち)未(いま)だ剖(わか)れず
陰陽(めお)分かれず
渾沌(こんとん)にして鶏子(とりのこ)の如く
溟涬(めいけい)にして牙(きざし)を含(ふふ)めり
訳:昔、天地も陰陽も分かれず、混沌の様子は鶏の卵のようで、仄暗さの中に物事が生まれようとする兆しを含んでいた
古事記と対で思い出すのが日本書紀。ファンタジー色強い古事記に比べて、日本書紀は歴史書感が強め。
春望 杜甫
国破れて
山河あり 城春にして 草木深し(そうもくふかし)
訳:戦乱によって都は破壊されたが、大自然の山や河は依然として変わらず、町は春を迎えて、草木が生い茂っている
「詩聖」とも呼ばれる杜甫さん。同時代の大詩人李白とともに中国文学史史上最高の詩人とも呼ばれます。その人生は結構過酷で、この春望という詩は幽閉生活の際に生まれたそうです。松尾芭蕉も引用した素晴らしい詩がそんな時に生まれたとは意外ですね。
古今和歌集 醍醐天皇勅令
やまとうたは、人の心を種として、万(よろず)の言の葉(ことのは)とぞなれりける
訳:和歌は人の心をもとにしていろいろな言葉になった
竹取物語 作者不詳
今は昔、竹取の翁(たけとりのおきな)といふものありけり
訳:昔、竹取りじいさんというひとがいました
土佐日記 紀貫之
男もすなる日記(にき)といふものを 女もしてみんとてするなり
訳:男の人が書くという日記を女の私も書いてみようと思う
土佐日記は古今和歌集にも名を連ねる紀貫之さんの紀行文学。紀貫之さんは平安時代を代表する、嫌々日本文学史を代表する歌人の一人ですね。今でこそ男性が女性を主人公に物語を書くのは珍しいことではありませんが、当時はだいぶ驚かれたといいます。発想や言葉選びが素敵。
蜻蛉(かげろう)日記 藤原道綱母
かくありし時過ぎて 世の中にいとものはかなく とにもかくにもつかで 世に経る人ありけり
訳:色々なことがあった時が過ぎて、世の中にとても儚い、人の役に立つこともなく、暮らしている人がいました
藤原道綱の母ということしかわからない謎の女性が描く「かげろうのような儚い身の上のことを綴った日記」。平安時代に生きた彼女が、浮気ばかりする(とっても偉い)夫に悩みながら、夫婦生活を回顧(かいこ)しながら綴った特殊な作品です。
枕草子 清少納言
春は、曙(あけぼの)
訳:春は明け方(が良い)
源氏物語 紫式部
いづれの御時(おおんとき)にか、女御(にょうご)更衣(こうい)あまた侍ひ(さぶらい)給ひ(たまい)けるなかに、いとやむ(ん)ごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ(たまう)ありけり
訳:どの帝の頃だったか、女御や更衣(役職)がいっぱいいる中でそれほど身分も高くないのに、際立って帝のご寵愛を受けている人がいました
方丈記 鴨長明
行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず
訳:川の流れは絶えることなく、それでいてそこを流れる水は同じもとの水ではない
枕草子、徒然草と並んで日本三代随筆と呼ばれる方丈記。作者の鴨長明さんは意外や意外、不遇の人生をたどった方だといいます。根底に流れる「無常感」は、「変わらないように見えてもすべては常に変化し滅んでいく」という仏教の思想です。どこか重さや侘しさを感じるのはそのせいでしょうか。
平家物語
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす(あらわす)
訳:「この世は常に変わっていくもの」と祇園精舎の鐘は響き、「盛んなものは衰える」と沙羅双樹の花の色は告げる
僕はこの冒頭が一番好き。お話も面白いんですよね、平家物語って。
徒然草 吉田兼好
つれづれなるままに、日ぐらしすずりにむかひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ
訳:やることもなく一日中すずりに向かって心に浮かんでくることを書きつけていると、わけのわからぬほど熱中しておかしくなるものだ
奥の細道 松尾芭蕉
月日(つきひ)は百代(はくたい)の過客(かかく)にして 行かふ(ゆきかう)年も又旅人なり
訳:月日は永遠の旅人、行き交う年もまた旅人である
以上、古典編でした。いやー、圧倒的な名文ばかりでしたね。
不思議なことに、音読してみると、意味が全然わからなくても、なんとなく伝わるものがあるんですよね。どうしてもとっつきにくいのが古典ですから、こうやって触れやすくしてみて、気にするきっかけになれたら幸いです。教室にも飾っておきます。
子どもたちが気軽にこの素晴らしき作品たちに触れられますように。
本日もHOMEにお越しいただき誠にありがとうございます。
次回は時を進めてお会いしましょう。