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「日曜小説」 マンホールの中で 4 第二章 4

2021.04.10 22:00


「日曜小説」 マンホールの中で 4

第二章 4


 自衛隊の壁の内側では、多くの人は壁から離れ、そして自衛隊と警察は、ゾンビに噛まれてもよいように分厚い防護服を着て、壁の中に入った。中には、時代劇に出てくる甲冑を付けてくるものまでいた。そのうえ、ゾンビといえども人である頃から長い棒で追い返すという方法しか日本の自衛隊は取ることはできない。そのために、さながら戦国時代の合戦で、多くの人が槍を構えているようにしか見えない。

「それにしても、寄生虫に脳をやられてゾンビになっているとは、バイオハザードの映画みたいなものだな」

 壁際に立っている警察官はそういった。

「ああ、そうだな。ゲームや映画の世界が本当にあったなんてな」

「しかし、そんな寄生虫をばらまくなんて、郷田はいったい何を狙っているんだ」

 町の人々も公民館や体育館に集められた。ただし、郷田と関係のある人々だけは、他の建物に集められていた。郷田の経営する店の店員や風俗嬢たちである。この人々が何か知っているということは期待できない。しかし、このまま放置しておけば何の事件になるかわからないし、また、街の人の中に入れても新たな事件につながるだけである。隔離しておかなければならない。もしも郷田の関係から連絡が入れば、それそれで何か別な対処ができるのである。そのために、郷田の関係者は全て警察の官舎の一部に入れていた。

 一方、ゾンビを数体入れて、自衛隊は大型型のヘリコプターで大宮の科学施設に送った。

「さて、あとはその寄生虫を何とかするまで耐えなければ」

 警察や自衛隊は猫をも通さない状況で警備を行った。

「時田さん、しかしこのままでは」

 街を囲んだことからゾンビは他の町に移動しようとしていた。当然に自衛隊は、ゾンビの生息地を囲むということをしたのであるが、それではなかなか足りない。結局、この町全体をもう一つ外側から囲み、そして、中の一部分に町の人のコロニーができているような形になっていた。

「ああ、何とかしないとな。町全体がおかしくなってしまう」

「でも、どうやって」

「郷田からあの書類を持ち出さないとならないな」

「郷田から」

「ああ、郷田が書類持っていただろ。東山将軍の兵器の一覧表だ」

 バス会社の会議室に忍び込んだ時に、郷田が持っていた古い紙の冊子である。郷田は、東山将軍が隠した「お宝」の一覧表を持っていて、その内容を見ながら、ピンクのガスの正体を知っていた。要するに、郷田が持っている書類の中には、この事態になることが書いてあるに違いない。当然に、東山将軍は、アメリカ軍が上陸してきたときの戦争用にこの兵器を出していたのである。そしてそれは日本を勝たせるために考えたものであるから、当然に日本に変なゾンビがはびこっては意味がない。つまり、あのピンクの煙が「兵器」ならば、その兵器の効果を打ち消して日常に戻す方法もそこに書いてあるはずだ。

「ではあれを盗めば」

「次郎吉さん、盗んではだめだ」

 時田は、善之助の方を見て確認しながら言った。

「なぜ」

 次郎吉にはわからなかった。何しろ盗まない泥棒などはいないのである。

「次郎吉さん、郷田がなぜバス会社の会議室にいるのかということを考えたらよいのですよ。」

 善之助は笑いながら言った。

「ゾンビになってしまい、なおかつ自分もゾンビになってしまう可能性があるということだ。それならばピンクの煙を出した後、自分は逃げればよい。日本が危ないならば、外国に高跳びすればよいのです。多分、このままこの町にとどまるよりもリスクは少ないでしょう。しかし、逃げないでここにいる。それは何故なのかということだよ」

「確かに逃げた方が楽だよな」

「そうなんですよ。次郎吉さん。次郎吉さんならば逃げるでしょう。それも、鼠の国と警察と二つも敵がいるのです」

「そうだ。二つ敵がいるんだ」

「それを逆転することが、今回のピンクの煙であったと考えるべきでしょう」

「なるほど」

「ということは、少なくとも郷田はピンクの煙でおかしくなった町を治める方法を知っている。そして、その街を治める方法は、あのバス会社から簡単に行ける場所にカギがあるということです」

「でもそれは盗んではいけないということじゃないでしょう」

「いやいや、逆に言えば、我々敵がその方法を知ったということがわかれば、逃げてしまいます。それだけではなく、多分、その方法を壊してしまうということになるでしょう」

 そうなのだ、郷田の価値観からすれば、まずは自分が無事であるということが一番重要であるということになる。そのためには、この混乱の状況の収拾方法を自分が握っていなければならない。収拾することで取引するということもできるし、また、混乱した場合に収拾して街に戻ることも可能だ。逆に、その方法を町の人や鼠の国が知っているということになれば、当然に、その方法を壊さなければ、郷田自身は捕まるということを意味しているということになる。つまり、自分の無事が担保されないし、また、困っている街の切り札を失うということになるのだ。

 つまり、郷田以外の人が収拾方法を知らず、混乱の度合いを含め、一方で郷田はそれをコントロールする立場にいると、郷田自身が思っているということが必要なのである。

 そのためには、あの書類を外の人が見たということを知られない状態で、なおかつ、その中身を見て、混乱の収拾方法、つまりは、ゾンビの対処方法を知らなければならないということを意味している。

「わかった」

 次郎吉は、そこまで理解すれば早かった。

「どうする」

「二つの方法がある」

「さすがは次郎吉さんだね」

 善之助は次郎吉の申し出に嬉しそうである。

「一つは、カメラを仕掛けて、郷田開いてみているところを盗み見する方法」

 要するに、会議室や郷田の部屋にカメラを仕掛け、そのカメラで監視を続けて、それを盗み見るという方法である。

「それでは、郷田が開くのを見なければならない」

 時田は渋い顔をした。

「バス会社の敷地にゾンビが入れば、当然に解決方法を探る以外にはなくなるだろう。つまり、あの書類を広げてみる状況を作り出すということが条件になる」

「しかし、それはゾンビに近づいて誘導するということになる。かなり危険だろう」

 次郎吉は、声を出す代わりに大きく頷いた。しかし、それしか方法がないならば、それをやらざるを得ない。しかし、他の方法はないのか。時田は腕を組んだ。

「もう一つの方法がある。それは、盗んでカメラで写真を撮って帰ってくるという方法だ」

 確かにそれがもっともよい。しかし、何故これが二番目なのであろうか。

「リスクが高い。そもそもあの書類がどこにあるのか全く分かっていない。そのうえ、あの閉鎖された中で立て籠っている中に入らなければならない。一般の人ならばとにかく、もともと犯罪に通じている人々だし、いま、このような混乱状態で、様々な侵入防止の策を練っているはずである。カメラを仕掛けるくらいならばなんとなるが、何処にあるか現物を探し回って、そのうえ、その中身を写真を撮って、見た痕跡をすべて消し、そして見つからずに帰ってくるのは、なかなか大変な作業だよ」

 確かに次郎吉の言うとおりだ。蛇の道は蛇とはよく言ったものである。泥棒は泥棒の特性をよく知っている。つまり、何処にあるかわかっているものを盗むのはできる、そのうえ、相手が警戒していないところで盗みに入るのは簡単である。しかし、同業者の人間の人々が、本気で警戒しているところに侵入して、そのうえ無事に帰ってくるというのは、確かに至難の業だ。

「泥棒っていうのは、時間の勝負だ。入ってからばれる時間までにすべての仕事をしなければならない。その内容をどれだけ行えるか。そこが勝負になる。」

「他に方法はないのか」

 時田はいらいらしながら言った。

「跡は、あのバス会社を襲撃して戦争して奪う」

「まあ、確かにな。でも現実的ではない」

「ああ。」

「では方法は二つか」

 時田は言った。

「そうだ」

 次郎吉は頷いた。

「わかった、まずは道具を用意しよう。その間に、何か援助できる方法を考えよう」