藤野恵美『初恋料理教室』
これはただの偏見なのですが、料理ものってほっこり優しいのに、そのほっこり優しいが押しつけがましいイメージがあるのです。さらに京都ものとなると京都はええとこアピールがあいまって押しつけがましさが増すイメージ……。
この作品はほっこり優しく、かつそのほっこり優しいが押しつけがましくない。それはストーリーを動かすのが料理の美味しさ素晴らしさそのもの(それは読者にとっては掴みどころのないファンタジーめいたものでもある)でなく、料理と料理にまつわるエピソードに「愛子先生の言葉」という読者にとって実感を伴うものが加わっているからなのかなと思います。読んでいて腑に落ちる。説得力があるほっこり優しいというか。けれども理屈っぽくなく、そのバランスが絶妙でした。作中に出てくる愛子先生の料理もこんな味わいなのかなと思ったり。
構成はシンプルで、先に書いたように四つの章それぞれにキーとなる料理、料理にまつわるエピソード、愛子先生の言葉があり、それが生徒たちの抱える問題を解決していくというもの。愛子先生が生徒に伝える言葉と料理はすべて初恋の人から伝えられたものをベースにしたものだと最後に明かされ、物語の幹とタイトルの意味が見えてくるのが面白かったです。横のつながりの中に縦のつながりが見えてくるのがとても良かった。
日本人の対話しない特質、貧しい家庭で育った共依存関係の姉弟、仕事のプライドや女性観など、鋭く書こうと思えばどこまでも尖らせることのできる物事が、やさしく柔らかく、でも芯は曲げずに描かれていて読んでいて安心しました。構成のシンプルさもそうですが、児童向けの作品を書かれている方の達者さが分かる物語でした。そしてそういう方面の達者さが私は好きだなと。
ちなみに一話に「錦市場の麩まんじゅう」が出てくるのですが、麩まんじゅうの描写の美味しそうなこと……。読んでいる最中に京都へ行く機会があったのでおそらくモデルであろう麩嘉さんへ寄りました。
季節限定でさくら麩まんじゅうがでていたのでいただきました。お餅に見立てた生麩の淡いピンクがかわいいです。あんこに柚子味噌が入っていて爽やかな味わいでした。