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とある冒険者の手記

A.抑えられぬ想い

2021.04.11 20:09

ヘリオさんに告白してから1ヶ月が経った。

あれから、自分自身が何となく気不味くて、連絡をしていなかった。


─冒険者仲間以上の感情を意識した事がない─


あの言葉がずっと胸に刺さったまま、時々ズキズキと痛む。

その痛みを感じる度に、諦めようと努めたが、「好き」という気持ちはどんどん膨れ上がる一方だった。

そして悩んだ末、もう一度ヘリオさんと話してみようと決めた。

丁度、ウルヴズジェイルで行われているPvPがどんなものなのか気になっていたので、案内板を見ながらリンクシェルで連絡をした。

すると、ヘリオさんは丁寧にPvPの種類とルールを教えてくれた。

案内板を確認しながら説明を聞き、分からない事を聞くとすぐに返ってくる声。


─逢いたい─


そんな気持ちが溢れ出す。

でも、それをグッと堪えた。

だいたい内容を把握出来たところでお礼を言って通信を切る。

案内板を見ながら、教えて貰ったことを頭の中で反芻し、イメージを作る。それが終わり、「よしっ!やるぞ!」と気合いを入れてその場を移動しようと視界を隣に動かすと、そこにはヘリオさんの姿があった。


「うえ!?へ、ヘリオさん?!」

「お、やっと気がついたな」


なぜ、彼がここにいるのか分からず動揺する。


「な、なんでここに…?」

「暇だったしな。あんた、いつも初めての事に挑戦する時、不安そうにしてるから、一緒の方がいいと思ってな」


その言葉に胸が締め付けられる。

どうしてこの人は、こんなにも優しいのだろう。

でもきっと、これは誰にでもする気遣いなのだろう。

自分にだけじゃない…。

そう、自分に言い聞かせる。


「ありがとうございます!実はかなり不安だったんです」


俺が苦笑いしながらそう言うと、「だと思ったよ」と返すヘリオさん。


「不安なら呼べばよかったのに…、珍しいじゃないか」

「あ、えっと…、ヘリオさんも忙しいのに迷惑かなぁって思って…」

「迷惑だったら、あんな風に説明しないし、連絡も受けないさ」


心の中で「そういう意味じゃないんだけどなぁ」と思いながらも、気遣いが心に染みていく。


「じゃあ、行きましょう!」

「おう!」


俺らはヒドゥンゴージへと繰り出した。

何戦かしたが、俺のメンタルはボロボロだった。

魔物や野党とは違い、歴戦の冒険者が相手となると、まったく動きが違ってくる。

大人数同士での陣取り争いに、どこから飛んでくるか分からない攻撃。

でも、近接の俺は敵に近づかなければならないが、周りが把握出来ず何度も戦闘不能になった。

最終的に水汲みの役目しか出来なかったのである。


「うぅ…なかなか難しい…」

「最初のうちはそんなもんだ。回数こなして慣れてくしかない」


誰もが通る道だと肩に手を置かれ、ヘリオさんの顔を見ると、少し苦笑いをしていた。

夕日を背にしたその姿と表情に見惚れる。

その瞬間、俺はヘリオさんに口付けをしていた。

唇を離した時に見えたヘリオさんの顔は、大きく目を見開きキョトンとした表情をしていた。

それを見た瞬間、ハッと我に返った。


「ご、ごめんなさい!お、俺、何やってんだ…っ!」


自分の行動に慌てふためく。

キョトンとしたまま固まっているヘリオさん。


「お、俺、もう一度ヒドゥンゴージに行ってきます!ほ、本当にごめんなさいっ!!」


一気に捲し立てて、俺はヒドゥンゴージへと走って逃げたのだった。



************



アリスの姿が見えなくなったあと、取り残されたヘリオは唖然としていた。

何が起こったのか分からない。


─今、あいつは俺に何をした??─


凹んでいるアリスをフォローしていた。肩に手を置いた時に振り向いたアリスの顔。

目を細め、熱っぽく愛おしそうな表情をしているのを見て、息を呑んだ。

そして、次の瞬間には目の前にアリスの顔と、唇には柔らかい感触。

そして、真っ赤な顔をしながらパニックを起こしたアリス。

恐らく、無意識の行動だったのだろうが…


「…キス…された…のか……?」


何をされたのかしっかりと認識した途端、顔が一気に熱を持ち、思わず口元を片手で覆ったのだった。