今日は金子兜太さんの忌日。「猪鍋や金子兜太を喰ひ尽くせ(すえよし旧作)」
https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12652814159.html 【今日は金子兜太さんの忌日。「猪鍋や金子兜太を喰ひ尽くせ(すえよし旧作)」】 より
今日は金子兜太さんの命日です。(2018年2月20日)。
今日は金子兜太さんが最期に作られた句(辞世の句)を紹介します。「海程」にも過去掲載され、その記事がまた全国紙などにも紹介されたりしてますのでご存知の方はたくさんおられると思いますが。
金子兜太さんは、2018年2月20日に98歳で亡くなりました。
兜太さんは、1月上旬に肺炎で入院され、25日に退院、退院後は日中は自宅で、夜は自宅近くの高齢者施設で過ごされていたようです。
最期の句はこの時期に作られた句で、それらが結局辞世の句になったわけですが、これらの句はこれまでやってきたように、「海程」に載せるためのもので、謂わば兜太さんのルーティンのひとつだったのですね。ご自身で清書もされていたそうです。
しかし2月6日に体調が悪化。再び入院となり、ついに20日にご逝去。
日常の中で作られた俳句が結果として「辞世の句」になってしまった、ということになります。
「海程」4月号に掲載された兜太さんの最期の句↓
▪️雪晴れに一切が沈黙す
▪️雪晴れのあそこかしこの友黙まる
▪️友窓口にあり春の女性の友ありき
▪️犬も猫も雪に沈めりわれらもまた
▪️さすらいに雪ふる二日入浴す
▪️さすらいに入浴の日あり誰が決めた
▪️さすらいに入浴ありと親しみぬ
▪️河より掛け声さすらいの終るその日
▪️陽の柔わら歩ききれない遠い家
前4句は、雪降る窓外の様子や面会の方を詠んだ句のようですね。後の4句、全部「さすらい」とご自分を表しておられますね。
結果として「辞世の句」になった句ですが、句にはもちろんそういう意識は微塵もありません。「河より掛け声さすらいの終るその日」にわずか死が近い予感みたいなものを感じさせます、また「陽の柔わら歩ききれない遠い家」にも少し弱気なところを正直に見つめている兜太さんの気持ちが覗きます。しかし、あくまで「現役俳人」としての句であります。
「河より掛け声さすらいの終るその日」の「河より掛け声」は、兜太さんの一周忌の時に黒田杏子さんが「これは明らかに〈秩父音頭〉だ」と仰っていました。私はそれを聞いた時に咄嗟に「秩父音頭聞こえてますか兜太さん」と呟いてしまいました。
当時、海程俳句会会長の安西篤さんによると、金子さんは高齢者施設と自宅との行き来を「さすらい」と表現されていた、とのこと。
また安西さんは、「自分の日常を悲観的にではなく、あくまで客観的に眺めている。『他界』(死後の世界)を重く捉えず、懐かしい人に会える、ちっとも怖くないと思っていたのでは。先生は最後まで自然体だった」と語っています。
私はとうとう兜太さんには一度もお会いすることは出来ませんでした。後にも先にも唯一の接点は数年前の「宮若全国俳句大会」の時に私の句を兜太さんに秀逸句として選んで頂いたことのみです。「ハンカチはいつも丸まり父に似て」という句でした。お陰でその年の「奨励賞」を頂き句碑も一年間建てて頂きました。
兜太さんの有名句(たくさんありますが私の思いつくままに書いてみました)
▪️白梅や老子無心の旅に住む
▪️おおかみに螢が一つ付いていた
▪️梅咲いて庭中に青鮫が来ている
▪️水脈の果炎天の墓碑を置きて去る
▪️銀行員ら朝より蛍光す烏賊のごとく
▪️湾曲し火傷し爆心地のマラソン
▪️曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
▪️原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ
▪️長寿の母うんこのようにわれを産みぬ
https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12478847174.html 【金子兜太逝く。98歳。合掌。】より
【金子兜太弔句】
★狼の咆哮月の雪崩かな(市掘玉宗)
★金子兜太一度はお会いしたかった(すえよし)
★猪鍋や金子兜太を喰ひ尽くせ(すえよし。旧作ですが弔句とさせていただきます)
★梅が咲いてほら青鮫のよぎりけり(干野風来子)
★早春の銀河の果てに遊ばれよ(今村征一)
「師・金子兜太を悼む」
★片目にて師の微笑むや風光る(五島高資)
★冴え返る利根の流れや巨星墜つ(〃)
★利根川や冬三日月のとことはに(〃)
★三日月がめそめそといる米の飯(Miyako Mathuda)
★おおかみを呼び戻したき蛍かな(十河智)
★路地朧兜太に句ありとこしなへ(〃)
★原爆許すまじ句も歌も我忘れまじ(〃)
★桜吹雪幽界顕界隔たらず(〃)
★朧夜の鬼神となりぬ兜太逝き(山川さち子)
★兜太逝く夢の枯野の青むまで(合谷michiko)
★定席に兜太はゐるよ春炬燵を(〃)
以後少しずつ追記します。
【金子兜太作品】少しずつ追記します。
★おおかみに螢が一つ付いていた(2001)
★狼生きく無時間を生きて咆哮
★よく眠る夢の枯野が青むまで
★梅咲いて庭中に青鮫が来ている(1981)
★水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る
★狼生きく無時間を生きて咆哮
★言霊の脊梁山脈のさくら
★人体冷えて東北白い花盛り(1968)
★銀行員等朝より蛍光す烏賊のごと(1961)
★湾曲し火傷し爆心地のマラソン(1961)
★酒止めようかどの本能と遊ぼうか
★暗黒や関東平野に火事ひとつ(1971)
★海とどまれしか流れゆきかな
★遠い日向を妻が横切りわれ眠る
★夏の山国母老いてわれを与太と言う
★曼珠沙華どれも腹出し秩父の子(1955)
★果樹園がシャツ一枚の俺の孤島
★どれも口美し晩夏のジャズ一団
★海流ついに見えねど海流と暮らす
★原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ
★霧の村石を投らば父母散らん(1968)
★猪が来て空気を食べる春の峠
★青年鹿を愛せり嵐の斜面にて
★冬眠の蝮のほかは寝息なし
★海に青雲生き死に言わず生きんとのみ
★二十のテレビにスタートダッシュの黒人ばかり
★長寿の母うんこのようにわれを産みぬ
★男根は落鮎のごと垂れにけり
★津波のあと老女生きてあり死なぬ
★春の牛空気を食べて被曝した
★青春が晩年の子規芥子坊主
★長生きの朧の中の眼玉かな
★山峡に沢蟹の華微かなり
★谷に恋もみ合う夜の歓喜かな
★旅終る暁の灯しの路地路地に
★我が顔の憎しや蝌蚪の水にかがみ(『少年』)
★懐中燈に現るるもの皆冬木(『生長』)
★枯山の幹みな白し泪わく(『生長』)
★貨車長しわれのみにある夜の遮断機(『少年』)